example 2
「わかった。わかったから...」そんな声を聞いて、ため息を吐く私。
私は知っているよ。そんな声の背後に渦巻くあなたの感情を。
あなたはめんどくさいなんて思いながら、私の心配を聞き流してしまうんだ。
そして表面上はまるでこんなことを心配している私が悪いというような態度で、
そんな声色で心にもない謝罪をし続けてしまうんだ。まるで意趣返しをするようにッ!
そんなことを私が思ってしまった瞬間、彼の声は、そのすべてが気持ちの悪い言葉に声に変わり果てた。なんで、そんなことができるのだろう?
嗚呼、私は電話が嫌いだった。電話越しの会話じゃあ、相手が何を考えているのか、いまいち予想することができないから。そうだった、私は会話が好きだったんだ。互いの瞳を見て、面と向かって話し合うその瞬間、瞬間が好きだったんだ。そして私は思い続けていたんだ。いつかたとえ顔を見ないでも、互いのことを理解しあうことができる誰かとの出会いをッ!なんて、そんな夢を私は見ていたんだ。
そう、そんなのは所詮夢だったんだよ。私は、もうとっくに知っていたのに...
嗚呼、私は私じゃなくてよかったんだ。こんな夢も希望も忘れてしまうことで、
初めて私が幸せになってしまうなら、そんなの私じゃないだなんて、
私をただ否定してしまうだけ、ただそれだけだったんだッ!
例2 エモーション
ある日、私が小説を読んでいると、どこからか視線のようなものを感じてしまった。ここは私の自室、私は独りでここにいる。
同居人なんて存在しない、一人暮らし。
そう、だからここに視線を感じるなんてあるはずがない。>>私は疲れてしまっているのだろうか?そんなことを思ってしまったその瞬間、私は今まで感じていなかった疲れ、その存在を感じるようになってしまっていた。
嗚呼、めんどくさい...私はいつものように私に暗示をかけていく。私は疲れてなんていない。私は疲れてなんて.......いない。私が感じているこの気怠さは、
かつての私、弱い私の姿。
私はその面影に今の私を、私の意思に逆らうように知らず知らずのうちに重ねて見てしまっているだけなんだ。
>>その時、私は気づいてしまう。私が感じていた、視線の正体に。
そう、私は知らず知らずのうちに、気づかないうちに、
過去の私のつもりで生きてしまっていたんだ。
そもそも疲れたなんて、そんな状態、本当に存在しえるだろうか?
動けない、動きたくないなんて意思を、疲れたなんて言葉で、相手を、
そして他でもない自分自身を誤魔化しているだけなんじゃないか?
そう、もし本当に動けないなら、動きたくないのなら、疲れたなんて言葉に頼らないで、どうして動くことができないのか、どうして何もできないのかを論理だてて説明するべきなんだろうな。でも、それをしたくない私は、疲れたなんて言葉、
そこに生じるエモーション、その共感に身を委ねてしまうんだ。
それは本当に楽だから。たとえ赤の他人でも、空気を読んでさえくれればわかってくれる、そんな一種の儀礼へすら昇華しつつある、そんな怠惰、そんな過去の私におんぶにだっこなコミュニケーション、まさにそれが今の私だった。>>
>私はあれから何も変わっていないのだろうか?そう、私が思ってしまったなら、その瞬間、この私の意思なんて言うのは、初めから存在なんてしていないように思えてしまう。私が私だって感じていたのは、過去の一部分、あの印象深かった私の姿だけだったのだろうか?かつて私がその時の私のためだけに、
もう後戻りのできないそんな選択をしたその時に、
確かに見た私の表情を浮かべていた私のままで生きているつもりで、
その時の私のままで生きてなんていなかったんだ。
その時の私の選択の責任を取り続けているこの私なんて、私なんかじゃなくて、私はそんな選択をしたその瞬間にはもう、死んでしまっていたんじゃないか、そう私は思ってしまう。そして、私はその選択をした私の手のひらの上で踊っているように思えてしまう。その選択をした私は、この今の私を見越していたんじゃないのかなんて...だって私を取り巻く環境に私は意表を突かれてしまうことはあっても、私は私に裏切られるなんてことは無かったから。
>>退屈な私の存在が、私の前で現れて、私はその私から、
私の意思が込められている目、まさにこの瞳を逸らす。
そして、私は運命の分岐路に立って今にも死んでしまう、
そんな絶望と希望の分水嶺に立っていたかつての私の姿を見つめていた。
もう、わかりきった話を何度も聞いていくように、小説の有名な場面だけを読んでいるように、その私の喜劇を退屈でありふれたものに感じてしまうまで、何度も何度も、執拗にこの私の感動を、私のエモーションを煽っていくように...
>>そして、私は読んでいる小説の中に現れた私の名前に戸惑ってしまう。一体どうして、私の名前が現れるの?その時、私はもうここが自室でないことに気づかされてしまった。ここはあの小説の中...?私は、そんな突飛子もない考えを笑い飛ばす。どうして、そんなことを思ってしまうのだろう。たぶんフィクションに触れすぎた私は、自分自身がそんな創作物の主人公ならなんてあまりにも自然に思い至ってしまったんだよ。たぶん、これは夢なんだ。あまりにも質感がある夢なんだなんて。
>>私は夢と現実の違いは情報量の多さなんだって思っていた。
それもただ情報量が多いのではなく、私が意識を向けたその瞬間、
そこだけにたくさんの情報が現れてくれるようなものだって。
例えば、人の顔、景色、声のトーン等、私が意識を向けるまでは
何でもないような、そんな存在に何気なく私が意識を向けてみれば、
その人の顔がどんな顔で、どんな表情をしていて、
その表情からどんなことを考えているのか、
もっと言えば、どんな髪型で、どんな瞳をして、そして何にその意識を向けているのか、そのことをなんとなく知ることができてしまう。
景色だって、ただ綺麗だって表現してしまえば、それで終わり。
でも、その景色を細部まで瞳を凝らしてみたならば、そこに、散らばるゴミ、たばこの吸い殻、不機嫌そうに大きな声で電話をしている誰かの姿なんて、漠然と景色を見た時は気にしてもいなかった、
そんな綺麗とは対極の情景が有ったことに気づいてしまうだろう。
そしてそれ以上に、そんな要素が有ったにもかかわらずその景色が綺麗だって思うことができた、そんな景色の細部に宿っていた美しさに気づくことになる。
そして私の声だって、漠然と言葉をつたえるための道具だって捉えているときは、その声の強弱になんて意識を向けたりなんてしない。でも、一度その声を録音して聞いてみれば、その不自然さに気づかされてしまう。
そう、その声に現れていた私の感情、
その表面的でわかりやすすぎるそんな姿にッ!
>>私はこんなことを常に意識なんてしていない。
そしてそもそもそんなことできないと思っていた。
私の中に意思がある以上、私はその意思に従って、
それをこの世界に反映していかなければならない。
その過程において、ある程度の当たり前は、
私の無意識下において処理されていく。
私の意思の敷いた線路から私が逸れてしまうのを防ぐために。
そう、私は私自身の意思によって、知らず知らずのうちにこの世界の大きさを縮めてしまっているんだ、世界はこんなに広いのに。
私は私の意識が向いている部分の情報量だけを見て、
すべてを知ったように漠然と捉えていく、
でもそれが生きることなんでしょう?
>>そう、それが現実世界。最初からすべてがある世界。すべてが私の解釈次第。よく見てみれば、気づきたくなかったことにも気づいてしまうような、
そんな世界。
じゃあ、夢は?
夢の世界には情報が無かった。あるのは記憶の残骸、
不定形でその形に意味は無く、
まさに私が私だって思うことのできる独自性を持ったキャンバスに、
絵の具をたくさんぶつけて、ぶっかけてしまったためにその色がわからなくなって、その色の所為でそのキャンバスなんていう元型すらわからないまま、
ただそこに情報があるんじゃないかなんて解釈が、
その何もないところに世界を創り出していく。
それはまさにフィクション、ストーリーでしかなかった。
そのために夢の記憶はすぐに忘れてしまう。
現実世界なんて言う本当の意味の有する情報に上書きされてしまうから。
>>しかし、夢を見て、私のエモーションが煽られて一生の記憶に残るような、そんなことがあるなら、それは紛れもなく私のこころ、まさに私の元型に触れてしまうことに他ならないんだ。
そう、まさに今、私の見ているこの世界は、私のこころ、そのキャンバスの上に描き出された世界だった。>>私は辺りを見渡して、ここがどこかの町並みだってことに気づいてしまう。
しかし、私はこの町がどこなのかわからない。それでも、この知らない町並みにどこか既視感を感じてしまっていた。
そう、私はここに来たことがあると感じてしまっていた。>>
>その町の中で私は視線を感じていた。
その視線は気持ちが悪かった。
でも、その気持ち悪さには既視感があった。
まるで、一度そんな視線を向けられたことがあるような、
そう、私は反射的にこの視線に私のエモーションが煽られてしまっているという
そんな事実に気づかされてしまっていた。
まさに決められた感情、
こんな視線が向けられたならこんな風な感情を抱くようにって、
あらかじめ決められていたような感覚、そしてその感覚に対して
私は気持ち悪さを感じてしまっていた。そしてその気持ち悪さは、
私が向けられた視線を感じた時の、気持ち悪さと全く同じで...
気づかされる既視感、煽られるエモーション、
嗚呼、その感覚が何重にも重なって、
私の首を絞めていく。
苦しい、息ができなくなっていく。
私は首を今まで絞められたことなんて無かった。
なのに、私はもうこの苦しさを知っていたような気がした。>>
>私はその苦しさで、
私の意思を呼び起こして、私が起き上がればここはこの町の中心だった。
私の周りには、私の同胞が首を絞められて死んでいた。
みんな幸せそうな顔を浮かべて、その表情に微笑みを称えて。
私がその光景を気持ち悪いなんて思った瞬間、
彼らの顔がこちらを向いた。
彼らは私へとその死に顔を向け続けている。
いつまでも、まさに今だってッ!
>>私はいつの間にか大きな扉の前に立っていた。そしてその扉の向こうからその扉を叩く音がした。「あなたは誰?一体どうしてここを、この扉を叩いたの?」>>彼はその扉を開けてくれた。その瞬間、私はすべてを思い出してしまう。
この世界はずっと止まっていたということに、
私はもう私じゃないなんてことに。
嗚呼、私は彼女になりたかった魔女だったんだ。
もう思い出しちゃったら、もうこの扉が開けられてしまったなら、
もう後戻りはできないよね。
この場所はもう深淵の底、あなたは開けてしまったんだよ。
この地獄の門を。
読んでくださってありがとうございます。




