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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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第三十四章 僕もあなたもここにいないんだ。死を無駄にして 後編

僕は病気なのだろうか?これがこの今を目の当たりにした僕の最初で最期の感想だった。僕は周囲を見渡した。しかし、それは本当に周囲を見渡しているのかわからない、そんな感覚を、恐怖を感じることになるだけだった。僕は目をつぶった時の、顔表面に感じている小さくて自然な圧迫感を、目を開けている今に感じていた。僕の瞳の中に入ってくるのは、暗闇、光なんて一切感じられない闇だけで、まるで黒色のペンキバケツを僕の頭上でひっくり返した、そんな光景だった。僕は僕の両手を顔に近づけて、この光景を捉えようとした。しかし、近づけられたその手は視界にうつらないで、僕の顔にも触れることはできなかった。そう、この時、僕は自分の手がまるで消えてしまったように感じてしまった。僕がこの手を動かそうなんて思ったときは僕の腕の存在、その感覚は確かにあったのに、今、それは完全に消え去ってしまっていた。


その感覚は僕の中でどんどん広がっていった。だけど、なぜだろう?僕はその感覚が心地良くて......まるで、この感覚は海に溺れてしまったときのように、息ができないで(息をしなくてよくて)、この瞳を開くこともできないで(瞳を開けることに意味なんて無いから。)、僕はただここに立っていることすらできないで、(もうここには確固たる地面は存在しなかった。)それは、まるで僕が僕であるそんな必要が無いと告げているみたいだった。(僕は思い出していた。僕はもう死んでいたことを、そしてこれがただの僕が生きていたこと、その”証”でしかないということに。そうだ、僕は僕を諦めたかったんだ。こんな感情、こんな寂しさが死の間際に、この世界、僕の今まで対しての雪辱に変貌してしまったから、僕はこの雪辱を晴らすために今まで生きてきたんだ。)「そうだ、全部僕の所為だったんだ。僕の感情、僕の気持ち、こんな不幸もすべて、僕が心の存在を信じていたから。なんて、馬鹿なんだろう?自己犠牲なんて意味づけは、ただ誤魔化していただけだった。僕の無駄死にを。そう、自分勝手だったのはそんな意味づけだった、死そのものなんかじゃなかったんだ。「あなたがのうのうと生きてしまっているから。もうあなたは死んでしまっているのに、あなたは死を忘れてしまっているみたいだったから。そう、お前は何も知らないままでいたいんだろう?生きているのも死んでいるのも嫌だから、逃げるのも考えるのも嫌だから、ただ一つ、あなたがあなただって思うことができる、そんな行動をまるで奴隷のように、あなたはあなた自身を道具のようにして、続けてしまいたかったんだろう?そう、それがお前の幸せだったんだ。なんて無責任、なんてしょうがないんだろうなッ!」嗚呼、僕は、僕なんて、いないのと同じ、何もなかった、すべてが無駄だったんだ。僕はもう僕の死体を見つけてしまったよ。そう、自己犠牲なんて謳いながら、どこまで自分勝手な微笑みを称えている僕の死体を...


~~~

サイン能力(流れ堕ちゆく星の群れ)、それは諦めるための力。諦めるための能力。それは自分自身の死でもって動き出し、その証でもって自分自身の生を証明し続ける。彼らは自分自身が死んでいることに気づかない、むしろ自分が生きていると強く信じれば信じれるほど、そのサインが導く運命は強く光り輝くだろう。また、この能力に発動したその瞬間、その能力発動者と無関係の第三者には、死んでから長い時が流れ腐敗が進んでいる、誰の死体なのか一目でわからない、そんな死体が現れる。しかし、この能力に暴露、能力発動者のサインに存在が取り込まれてしまったなら、その取り込まれてしまった対象はその死体を一目見ただけでその死体の正体を看破することができるだろう。そして、この力は例外なくそんな対象を殺しにかかる。そして、この能力の解放条件は死を突きつけることだった。

~~~


僕は死んだ、そう僕は自分の死を目の当たりにしてしまっていた。なのに、この今はなんなんだろう。僕の意識はなぜかこの今に留まってしまっていた。むしろ、僕は僕が死を感じてから、僕は僕の感覚が僕の身体なんてものに束縛されてしまっていたことに気づいてしまっていた。僕の感覚は、今解き放たれていた。まるでこの世界が全部僕のものだって、そんな風に感じてしまう。嗚呼、そうか、僕は雪辱を晴らすことができていたんだ。あの時、僕が目の当たりにしていたどこにもたどり着かない堂々巡りの漆黒の渦は僕の姿、そのメタファーだったんだ...


僕の足に液体が触れる。水の音がする。そしていつしか、その水の音は大きく一定周期の音を刻み始めた。まさにそれは波のように......僕はその音を黙って聞いていた。そして周囲が寒くなっていく。僕の肩に何かが触れる。それは雪だった。嗚呼、僕は今海の上、雪の降っている、そんな場所に立っているんだ。そう思いながら、僕は今まで感じていたぬくもりを思い出していた。嗚呼、後悔。世界は奇蹟で満ちていた。ありふれた何でもない奇蹟、暖かさに、ぬくもりに......やっぱり、僕はそのすべてを失って、ようやく気付いてしまうんだ。嗚呼、もう一度、あの焼きそばが食べたい。もう一度、もう一度だけでも...嗚呼、もう無駄なんだ。もう僕は決めてしまったから。すべてを諦めるってそんな選択だったんだ。そう、もう僕は死んでしまったんだ。「では、どうしてあなたはここにいるの?」


頭が割れるように痛い。まさに引き裂かれてしまうように。そう、その痛みが僕をこの場にとどめてしまう。なのに僕の感覚ははここからどんどん広がっていく。僕の足をつたう液体の温度は僕の体温と同じくらいの冷たさで、その冷たい液体が身体全体にかけて大きくなって、次の瞬間、僕の意識ごと、この世界を呑み込んだ。


「私はあなたの道具なんかじゃない。私は私。あなたはあなた。あなたは雪辱を晴らせたんでしょう?雪辱を晴らせただけであなたはもう幸せなんでしょう?」その声を聴いた瞬間、僕は息がつまったような苦しさを味わってしまう。まるで、僕のすべてを見透かして、僕の知られたくないところ、知られたいところ、そのすべてを知って、そしてそのすべてを嘲笑うように、そのすべてを殺意に昇華するような、そんな声だった。そう、僕はその声をよく知っている。その声は僕の声だった。「あなたは死を悟って、死を知って、なのにそれでどうして死を選択なんてできるというの?」その声は僕の存在を僕だって認めてはくれない。僕は拒絶された。そして次の瞬間、僕は閉じ込められた。小さな小さな部屋の中に。「それは部屋なんかじゃないよ。あなたが生きていた、あなたが感じていた世界、そのイメージそのものなんだよ。嗚呼、思い知ったかな?あなたが感じていた世界、そのちっぽけな姿を、イメージをッ!あなたはこの世界しか生きられない。だけど、あなたは死んで、そんな世界のイメージから開放されて、ようやく雪辱を晴らせたんだ。だけど、私にはもう考えられないよ。どうして、あなたはようやくすべてを知ったのに、諦めようなんて思えるのッ!死んでしまえるって笑っているの?私は許せないよ。あなたが許せないよ。そう、私もあなたのように見つけ出すことができたんだ。あなたが感じていた、解放されたって信じていた世界で、私は私の居場所()を見つけることができたんだよ。」私はようやく、理解したよ。この世界の輝きを、色鮮やかな色彩その意味を、私が生きている意味を、だから、私は私を諦めたくなんてもう無いんだよ。だから、死んでッ!感じている世界事、お前は死んでくれッ!「何をやっているの?何をやっているのッ!やめてよ、止めてッ!ねえ、聞こえているんでしょう?そんなことに意味なんて無いって、僕はようやく気付けたのに、僕はようやく自覚できたのに...嗚呼、あなたはそんな僕を、犠牲にしてしまうんだ...」世界が限界まで広がって、その瞬間、その感覚は反転し、この世界のちっぽけさ、その象徴に成り果てた。そんな世界の中に今、僕の意識は閉塞してしまう。まさにその感覚が僕に教えてくれたのは、あの力は解放でなく開放でしかなかったこと、そして僕が贄だったことだった。「私はもう(道具)なんかじゃない。」私の手にはナイフが握りしめられていた。そのナイフを私は僕の首に差し込んで、その瞬間、僕が感じていた世界に致命的な傷ができた。もうどうしようもない傷痕ができてしまった。嗚呼、僕の死が無駄になっていく。「嗚呼、なんて綺麗なんだろう。この光景はッ!」僕の意識とともに僕の記憶の海に沈んだ、僕の世界をそのナイフは貫いて、まるで水に相容れないバターのように、小さなひびだったその傷は、数刻のうちに広がった。そしてその傷は大きな穴になって、その穴に向かってその海の水は流れていった。嗚呼、僕の記憶が無駄になっていく。その時、僕の中に初めて誰かを殺したいなんて殺意が湧いた。そしてその殺意が僕にくれたのは、あの時の再現。


今を為す空間、時間は終焉を迎え、僕はその終わりを見つめている。

今までの既視感が僕にくれた絶望なら、

この今はその絶望を希望に変える最後のチャンスなんだろう。

あの時の僕は逃げてしまった。でも、今なら向き合うことができる。

時間よ、今一度、あの今に戻れ。既視感よ、今だけ、僕を神にしろッ!

そして、僕はこの運命を僕のために拒絶する。それが僕の証だッ!


握りしめていた包丁が、殺意のナイフ、漆黒のダガーナイフに変化した。

そして彼は自身の(サイン)、『エンピレオ・ナイト』を発動した。


僕は目の前に立っている、敵に向かって疾走する。この時の僕は希望を胸に抱いていた。今までずっと逃げていたことに向き合うことができたから(もう僕は僕を誤魔化さなくていいんだ。)、そうだ、僕は僕をずっと許してしまいたかったんだ。こんなどうしようもない僕なんて言う存在をッ!(僕はずっとこうしてしまうべきだったんだ。ずっと何もできないで戸惑っていた今までを、こんな殺意でもって殺せてしまいたかった。そう、僕はそんな覚悟で生き続けるべきだったんだ。僕が僕を殺せてしまうほど、死に限りなく近い、いつ死んだって後悔のないように生きてしまえば、僕はこんな能力に頼らなくたって諦めることができたはずなんだ。今、僕はかつての僕を、私を殺さなければならない。自業自得の、この今に終止符を打たなければならない。そう、これは自業自得、でも、その自業自得が今の僕には輝いて見える。まるでこの終わりのない夜に差し込んだ一筋の光のように、この僕のすべてを納得させてくれる、これはそんなかけがえのない終わりだったんだッ!)


僕は私の首筋にナイフを突き立てた。しかし、私はその攻撃を避けない。一体、どうして?そんな戸惑いを浮かべた僕は次の瞬間、この地面に倒れてしまう。「残念だったな。私はもう捨てたんだよ。今までの記憶、今まで生きてきた世界、まさに故郷、私が感じていた幸せ、その一切を捨てることにしたんだ。そう、お前を捨て去ってしまうことにしたんだッ!そう、私はそんな思い出を抱き続けるのではなく、その記憶を捨て去っても、私のこころに刻み込まれている幸せの形、それに至るまでが幸せなんだってことに気づいてしまったんだよ。そう、これは抜け殻、死を拒絶し前に進み続けるそのための力、たとえその足が血塗られていたとしても、意味がないとしても、どんなにそれが自分勝手だとしても、私は前に進み続けるよ。そう、まさにこれが解放なんだッ!」私は忘我(トランス)能力”レイド”を発動した。


私は目の前に横たわる僕を見ていた。彼はもう誰にも分らないそんな名無しの死体に成り果てた。私はそんな彼の残骸を眺めて、これから始まる地獄、その存在をただ感じていた。私はこの神社の参道、この真新しい石でできた階段を一段ずつ降りていく。そして、私が山を下りたら、遠くの山からくすんだ太陽の輝きがこの大地を照らしていた。

第三十四章 完

読んでくださってありがとうございます。

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