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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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明けない夜の始まり、僕を嚙み殺して 後編#1

(地平線の向こうに沈む太陽の姿を見て、僕はなんだか寂しい気分になった。どうして、夕暮れなんて珍しくもないのに、こんなにも名残り惜しいと感じてしまうのだろう。)たぶん、この時の僕はなんとなくわかっていたんだ。これが僕が見た最期の夕日なんだって...


太陽が沈んで、突如としてこの世界は完全な漆黒に包まれた。僕はまるで強い光が顔面を唐突に照らされた時のような戸惑いを、この暗闇の満ち満ちた世界から感じてしまっていた。僕は狼狽しながら、周囲を見渡していく。しかし、何もわからないことが理解(わか)っただけだった。僕はだんだん、頭が痛くなっていく。


(僕が感じていた痛みは僕の考えを加速させる。どこに辿り着くわけでもない、まるで渦の様なこの思考を...)まるで、僕は閉じ込められてしまっているみたいに感じていた。天井が、壁が、床が全部この完全な漆黒に染められた、そんな部屋に閉じ込められているみたいだって。そう、僕はそんなやるせない閉塞感をこの今に感じてしまっていた。「ここは、部屋なんかじゃない。」遠くで、誰かが叫ぶ。それは僕みたいな声をしていたけれど、たぶん聞き違い。「ここはあの神社の参道、僕は外を歩いてここに辿り着いた。」僕はあたりを見渡した。しかし、そんな階段なんて存在しなかった。あったのは暗闇、そしてそこに横たわり、そんな声を零す誰かの姿。僕はその誰かの姿を前にして、何か言いようのない寂しさを感じていた。「どうしてあなたは既視感をそんなふうに言うの?嗚呼、あなたは過去に縛られて、あなたはこれからを生きてなんていけないで、すべてをその既視感の所為にしてしまうんだ。あなたなんて嫌いだよ。感受性が豊かなあなたなんてさッ!」僕は、そこに横たわる男を、踏みつけていく。何度も何度も執拗に、今まで散々やってきたように。既視感、そう僕はこの既視感を感じて生きていきたいんだ。既視感のない人生なんて、耐えられない。僕はずっと同じ過ちを咎められて生きていきたいんだ。あの夕暮れをずっと見続けていきたいんだ。嗚呼、僕は僕の心の中でずっと燻っているこの寂しさを誤魔化してしまいたいんだよッ!「あなたはずっと寂しがりや。あなたはずっと見続けていたんだ。彼女の死体を、僕が踏みつけていた彼女の死体を見続けていたんだ。そしていつしか、その死体はほかでもない僕に代わっていく。」


「あなたには自信があるんだ。あなたの心、その存在に。」僕は何も言わないで、そんな言葉が死んでくれるのを待っていた。でも、そんな沈黙はただその言葉の輪郭を一層強くこの今に刻みこんだだけだった。

「あなたは証明できるんだ。あなたの心、その存在を。」そう、僕は僕だ。この感情も、この記憶も紛れもなく僕のものなんだ。

「でもね。私はできないよ。私の心、その存在証明なんてね。」僕は、その言葉にやるせなさを感じてしまっていた。「どうしてそんな風に思ってしまっているの?」「だって、私は私の心、その存在をこの瞳で、一度だって見たことが無いから。私が私だって、こんなありふれた世界で私が私であるなんて自分を信じることができるような、信じなければいけないような、そんな形の存在を、またはそんな色彩の存在を、私は想像することができないの。」彼女の言葉は、僕の心に手垢をつけた。


「心、それは私の記憶の感受性が創り出した既視感、その集合体なんだって思うの。

私たちはみんな考えるときにそれぞれの経験から考えてしまっているのよ。生まれてから、今に至るまで、私たちはずっと過去を見続けていて、未来なんて一度たりとも考えてなんていないんだよ。いや、そもそも未来なんて考えられないんだよ。だって、たとえ、今まさに私が心臓発作で死んでしまったとしても、私はたぶんこの今を呑み込んでしまうと思うよ。そう、私が死んで、私の心臓が止まってから意識が消えていく間の、その刹那の生と死の狭間の中できっと受け入れてしまうんだよ。きっと、私の過去の経験が告げてしまうの。これが死なんだって。そう、私たちは未来を知った気でいたいの。それが既視感。思い出される感情、それは私が生まれた時から、私が純粋無垢のころから存在していた存在、でもそんな純粋無垢だった時の私と今の私は絶対違うでしょう?そう、あの時の私と今の私はたぶん別人なんだよ。私はその純粋無垢だった私を殺して生まれ変わっているのよ。そう、この既視感でもってね。」「何を言って?」「でもね。その時の私はたぶんやろうと思えば、純粋無垢のままでも生きていけたって思うよ。でも、その彼女はしなかった。その時の私は既視感でもって未来を予言していたのよ。そう、彼女が死んでしまう。そんな予言を、だから彼女は死を選んだ。そして、そんな経験を既視感として蓄えて、そんな屍を何度も何度も積み重ねて、嗚呼私は今ここで息をしている。」その瞬間、僕は見てしまった。彼女が踏みつける今の彼女の姿を。そして、そんな彼女を踏みつけている彼女はその刹那、彼女の背後にいた彼女に踏みつけられて死んだ。僕はそんな光景を茫然と眺めてしまっていた。「そもそも、わかっていたことだったんだ。私たちなんてもうどうしようもないことは...これはただの生存本能、約束された生存戦略でしかないんだって。心なんて存在を、まるで神のような、確立された私たち一人一人にそれぞれ存在している完全独立的な自我、その存在を信奉して、そんな心のために感情に名を与えて、事象を解釈された経験に、それはもはや武勇伝的なフィクションに、そして伝統的なシンクロニシティを引き起こして...それがどうして感動になるの?そんなのただの茶番でしかないの。」彼女は笑う。そう、僕のすべてを見透かしているように。「ねえ、あなたは感じているんでしょう?自分だけが持っている、自分だけがわかる、自分だけの価値、そんな存在を感じることができる、そんな”証”を見つけることができたんでしょう?この茶番を生きる価値のある今だって思うことのできるそんな証をッ!ねえ、教えてよ。私に教えてよ。そんな証をどうやったら見つけることができるのかを、教えてッ!」

僕はこの足で、この今を踏みつけた。そう、彼女がやったように、僕はこの今を踏みつけていった。そう、その瞬間、響き渡ったのは断末魔だった。それは彼女の様で、僕の様でもあった。いや、僕だった。違う、僕なんかじゃない。「あ~あ。なんだ。あなたは見つけてなんていなかったんだ。」「黙れッ!」どうなってもいい。どうなってもいいんだッ!僕は彼を踏みつけていった。何度も何度も踏みつけていった。足元から聞こえてくるのは、気持ちの悪い音だった。今まで僕が聞いたどんな音よりも、気持ちの悪い音だった。嗚呼、僕はもう、この音を忘れることなんてできやしないんだ。「嗚呼、あなたはこの今すべてを私の所為にしてしまうんだッ!この状況は、すべてがあなたの所為なのに、あなたは無責任だからッ!」私の声は今にも張り裂けてしまいそうだった。私の前で踏みつけられている男は惨めったらしい声を零す。「どうしてッ!どうして僕の所為なんだッ!僕が何をしたっていうんだよッ!」笑う声、それは彼女の声のような、僕の声のような、それともまるで遠くから響いてくるような、そんな声だった。「思えば、あなたが”私”の前に現れたから。思えば、あなたがのうのうと生きてしまっているから。そう、お前がただ無知のままで生きてしまっているからいけないんだッ!お前は無知なまま、ずっとお前はその無責任のまま、どこまでも自分勝手なまま、死んでいけッ!」その瞬間、世界は漆黒に包まれた。

読んでくださってありがとうございます。

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