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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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203/240

7/20 3:13+1m

彼女の名前は跡野預御。彼女は俺の目の前に一冊のノートを突きつける。俺はそのノートを受け取って、その表紙を眺める。そのノートの表紙には黒の油性マジックで、『日記帳』と、歪み切った殴り書きで小さく書かれていた。何だろう。俺はその文字を見て嫌な予感がした。そんな警鐘は、頭の中を劈くサイレンの様で、俺はこのノートを開いてはいけないような、この彼女から渡されたノートの中身を知ってしまえば、それが最期、もう後戻りなんてできない、そんな予感、いや予感なんて生ぬるい、それは強い確信、今まで確かなことなんて一つもなかった俺のこれから先の人生の中で、たぶん最初で最期の予知だった。


手が震えて、俺はそのノートを地面へと落としてしまった。俺は少しの間、呆然とそのノートが地面に落ちていく様を眺めていた。しかし、俺がそのノートが床に落ちていくその過程はとても長く感じられた。そう、そのノートはずっと同じ速度で床に向かって落ち続けているというのに、いつまでたっても床に落ちないで、その場で止まっているように感じてしまう。幻覚だろうか?錯覚だろうか?わからない。けれど、それを確かめることは簡単だった。俺はそのノートを、俺の手が勝手に手放したそのノートを、俺が手放したままの状態を維持しているそのノートにおそるおそる触れてみた。すると、そのノートは、まるでこれが正しいことのように、あまりにも自然に俺の手のひらの中に戻ってきた。その光景に俺は戸惑う。戸惑ってしまう。この今を呑み込めない。一体どうして、この今はこんなことになってしまっているのだろう?そして俺の心をズタズタに引き裂いてしまうこの確信めいた予知は、一体何なんだろう?わからない、わかりたくなんてないッ、俺はこの中を覗き込みたくなんてないんだッ!なのに、そう、なのに、これが運命だっていうのか?このどうしようもない予知が、こんな確信が導いた俺の死なんて、そんな光景が俺の最期だって......そんな確信が、俺の手を感覚を失わせていった。それはまるで、これが俺の手じゃないみたいで。「違うよ。それは紛れもないあなたの手。」彼女は俺の前で笑って見せる。それはまるで、俺のすべてを知っているような笑みだった。嗚呼、そうか。僕は考えてしまう。一体僕は、彼女にどうして、小説を書いていることがバレたんだろうって、彼女は俺の担任のクラスの委員長だったから、職員室に来ることもしばしばあったから、そこでバレたんじゃないかなんて...嗚呼、彼女は初めっから、もう知っていたんだ、すべてを。この俺のすべてをッ!「ねえ、はやく開いてよ。」彼女の言葉に従うように、”俺の手”はゆっくりとゆっくりとその表紙を開き始める。俺は、俺の瞳を閉じようとしていたけれど、なぜだろう。瞳を閉じることができない。この光景から、この今から瞳を逸らすことができない。そして、その刹那、それは開かれてしまった...


===

僕はその言葉に連れられて、そのテレビ台の下に一枚のカードを見つけた。そのカードには「Farewell Note. 」の文字が書かれていた。そしてその背後には、誰かのダイイングメッセージが書かれていた。僕はそのダイイングメッセージを読んでしまう。

===


「宇野へ。私がこの手紙を書いているなら、たぶん私はもう死んでしまっているのよ。他でもないあなたのために。嗚呼、私なんて最悪ね。あなたのことを最期まで信じることができなかったから。そう、あなたがこの手紙を読んでいること、それがたぶんあなたの裏切りを疑った私の裏切りの証明なんだから。


あなたは言ったよね。こんなことになるなら、前もって証明してくれって、嗚呼、そんなこともできないで疑い続けた私を、まだあなたは無実だって言える?こんなどうしようもない私を見て、まだあなたは私のために死を選ぶことができてしまうの?......あはは。私、たぶん、ずっとあなたに殺されてしまいたかったのね。


私のこころはもうどうしようもないの。あなたを恨んで、羨んで、僻んで、それで殺したくてたまらないと、そう思いながら、その実、そんな感情の原因は、他でもない私のこころの中で完結してしまっているのよ。そう、あなたはただただ優しいから...たぶん、私はもう私を諦めてしまったの。そして、私なんてやめてしまえたら......なんて思ってしまっていたんだよ。私なんて、、、って。そう、私はあなたになってしまいたかったの。だから、私はあなたのすべてを知ってしまいたかった。そう、私はあなたのすべてを知った気になってしまいたかったのよ。なのに私はあなたを知れば知るほど、私はあなたを信じることができなくなってしまった。そして私はあなた以上にこの私が許せなくなってしまった。嗚呼、もう私が私であることの境目がわからなくなってきて、まるで何かが私の中に入り込んだようなそんな気がしてしまって、今までの私がわからなくなって、これからの私がわからなくなって、この今を呑み込むことができなくなって、だから息をすることができなくて、それはまるで誰かに首を絞められているみたいだったから...そう、この死はあなたのためなんて言って、本当は私のため。本当に自分勝手、だけど私はたぶんようやく私の心に渦巻く自分勝手なこの気持ちに終止符を打つことができたよ。私は、今まですべてを私の所為にしてしまうことができたんだ。私の心、そこに湧きだした希死念慮を、そこに至るまでの感情を、そこに至るまで何度も私の頭の中で繰り返し現れては傷つけたそんな形骸化した記憶、いわば記録だって、そのすべてを無駄にすることができたんだ。嗚呼、なんで私は気づくことができなかったんだろう。こんな簡単なことにッ!こうすれば私も、そしてあなただって、解放されることができるよねッ!」


===

僕は扉を開けて、そこのベットで横たわって死んでいる彼女を見た。その瞬間、彼女の証は腐り落ちて消えていく。その屍は話し続ける。「あなたは見つけなければならない。神の屍を見つけなければならないのよ。たぶん、これはあなたしかできないの。このことは、あなたしか。そうよ。あなたしかこの世界を救うことはできないのよ。あなたがこの世界の主人公なんだから。」

===


背後から響き渡る断末魔の連鎖はこちらに近づいてきていた。俺は背後を振り返り、そこにいた悪魔を見てしまう。ナイフを握りしめ、我々の首をめった刺しにして殺していく。そんな姿をッ!俺は銃を握りしめて、その悪魔のいる方向へと心を締め上げる恐怖のままに引き金を引き続けていた。しかし、その悪魔はその銃弾の雨を優雅によけて、こちらに急速に接近し、俺の首にナイフを突き刺した。俺はその悪魔に問いかける。「お前は誰だ...」俺の問いかけにその悪魔は嬉々として答えていた。「私は土井だ。土井中条。お前はこのナイフで堕ちろッ!」


私はこの光景を綺麗なんて思うことなんて出来なかった。どうして、私は人を殺しているの?この手で、この手に握りしめたナイフでッ!「どうして、だって?フフフ。そんなこと決まっているじゃないか。これが解放だからだよ。ようやく俺はすべての罪から自由になることができたんだ。他でもないあなたのおかげでさッ!」その声を聴いて、私は死、その概念を悟ってしまう。「嗚呼、これが開放。贄だったのは、私。」私は自分に拳銃を突きつけて、その引き金を引いた。私の頭を銃弾が貫いて、しかし、私は私の意識を手放すことはできなかった。この意識は同じ境界を、同じところを漂っているみたいだった。なんで、どうして、頭に出来た風穴の存在が感じられない。確かにできた傷痕野存在が、確かに感じた痛みが無くなっていく。私はその銃を何度も何度も、自分自身に撃ち込んでいった。しかし、そんなのは無駄だった。まるで痛くない。全く痛くない。まるで、私なんてここには存在していないとでもいうようにッ!嗚呼、私の遠いところで「カチャカチャ」と空回りする音がした。


私は近くに落ちていたもう一丁の拳銃を拾い上げて、その拳銃を目の前の男に突き付けた。そしてその引き金を、その男に何度も何度も引き抜いてしまっていた。そして彼の血は散らばる。しかし、その散らばりはある程度で止まり、彼はただの血の塊に成り果てて、私はその光景を茫然と見ているだけ...嗚呼、そんな光景が私を傷つけることなんて出来なかったよ。そして私の記憶が、痕だったすべてが跡へ成り果ててしまう。嗚呼、なんておぞましいのだろう?「綺麗でしょう?」誰?その声は私の頭の中から聞こえてくる。私はその声に銃を突きつけた。しかし、そんな行為に意味なんて無かった。何度も何度も引き抜かれる引き金、上がる硝煙、そして散らばる私の血。「あ~あ。おぞましくなってしまったね。こんな綺麗な光景が、もう見る影もないね。」その声は淡々と告げる。「どうして、そんなことを言えるの?」「だって、そんな行為は自分勝手でしょう?」「自分勝手?何を言っているの?この惨状は、他でもないあなたがやったんでしょう?もう私はわかっているんだよ。お前がやったんだ。お前が人を殺したんだ。どうして、どうしてそんなことをやったんだ。やってしまったんだッ!嗚呼、そうか、そうだよ、お前はもうすべてを諦めてしまっているんだッ!じゃないと、こんなことできやしないのさ。」「フフフ。」「やっぱり、図星なんだな。ああ、だから、おまえはそうやって笑っていることができるんだッ!嗚呼、他人を傷つけたとしても、お前はその痛みに苦しみにどこか他人事なんだからさッ!」その声はただ笑い続ける。


===

ゼクス。この世界は呪われているのよ。神々のサインによって、呪われているのよ。そう、私達だって神々のサインの被害者なのよ。考えなしで、ただ従い続ける奴隷”スレイブ”でしかないの。でも、あなたは違う。あなたは気づくことができた。神はもう死んでいるということに。あなたは裏切者、だけど私にとってはそんな裏切ったあなたに出会えたことが奇蹟だったんだ。

===


これが新世界?こんな夢も希望もない、こんな一時停止の世界が新世界だってッ?私は心底信じられないと言ったように呆れている。そんな私を見て、彼は慌てていた。「この世界が人質なんだよ。もしこの時が今一度動いてしまったら、この時間が一秒でも進んでしまえば、それはまさに世界の終わりなんだ。」タイムマシンが蔓延し、全人類がタイムマシンを持つようになって、現れた神の世界。そんな一時停止の世界で彼らは思い思いの好きな瞬間を切り取って、思い思いにツギハギして、好きな場面を自分勝手に生きていた。そう、この世界なら誰だって幸せに生きることだってできたから。そう、タイムマシンの正体はこの一瞬一瞬を切り取って今を貶めるこのナイフだったんだ。「ねえ、こんなのおかしいよ。」誰かがその声に異議を唱える。それはたった一人の男だった。彼は首筋に突き刺すべきそのナイフを、その男に向けている。「お前は...」「だから、こんな世界おかしいって言ったんだッ!こんな、一時停止の世界なんて、夢も希望もない世界なんて、何が神の世界だ。流石、神様気取りで、偉そうにすべてを知ったつもりで、なんて馬鹿らしい。嗚呼、良いんだよ。私はお前のこんな世界になんて心底興味がないからなァ!そんな簡単に滅んでしまえる世界なら、こんな世界滅んでしまえッ!」彼はその男にナイフを突き刺した。その瞬間、タイムマシンが消滅した。タイムマシンがあった世界が消滅した。嗚呼、始まったよ。永遠に終わることのない自業自得の夢がッ!


~~~

俺は思い出していた。今までを、今までずっと忘れてしまっていたあの時を。そうだ、なんで俺は忘れてしまっていたんだろう。俺の本当の名前は天翔。「思いだしたかな?」俺の前で彼女、痕野預御は笑いかける。「嗚呼、思い出せたよ。俺はなぜか忘れてしまっていたみたいだ。」「そう、あなたはずっと忘れていた。だってあなたは死んでしまっているんだから。」その瞬間、俺は自分の首がつぶれる感覚を思い出して吐いた。「あはは。まだ完全に思い出せていないんじゃないッ!ちゃんとしてよ。天翔?」「リード。そんなことを言って...」彼女は無邪気に笑う。そう彼女は無邪気で、あまりにも無邪気だから、急に俺にとってあまりにも残酷な振舞いをすることがあった。まさに今がそうだ。でも、いつかは思い出さないといけないんだろうって思ってしまう。そう、思い出さなければ、俺は俺のトランス能力を思い出すことも、使うこともできなかったから。

~~~


俺は扉を開けて、そこにいた彼女に銃を突きつける。「あなたは僕になりたいなんて言って、ただ諦めているだけなんじゃないのか?そうだよ。お前は諦めてしまいたいんだ。閉じ込められたなんて他責して、閉じ込められている自分自身が嫌になって、そして閉じ込められていない僕を羨んで、それでお前はお前の自分勝手な自己犠牲でもって僕をここに閉じ込めたんだ。」彼女は五月雨丹の顔をして、五月雨丹の声をしていた。しかし、僕は知っていた。彼女は五月雨丹じゃないことに......「僕は宇野なんかじゃないよ。お前はもうわかっていたんじゃないのかい?だけどそう、お前は僕が宇野だって思いたくって、僕の名前を聞きたくなんて無かったんだろう?...ねえ、どうだったかな?短い現実逃避は?」彼女は戸惑ってしまっていた。「嗚呼、そう言えば、今の時刻を教えてあげる約束だったかな?今は七月二十日、三時十三分。」彼女は思い出す。自分自身が死んだその瞬間を...「思い出せたかな?そう、僕はもうすべてを知ってしまったんだ。この鍵の在りかだって、あなたのことだって、そしてこの世界のことだってッ!」「どうして?あなたに何があったっていうの?」「僕はもう無知でいることをやめたんだ。すると、そんな僕にささやいてくれる声があったんだ。たぶん、その声はこの世界の誰にだって聞くことができるそんな声なんだ。だけど、たぶん誰も聞こうとなんてしない。言ってしまえば、聞こえないなんて言い訳をしているだけなんだ。ほら、今だって聞こえているよ。遥か遠くから僕の耳の裏にささやいてくれている。よく耳を澄ましてみてよ。聞こえるはずだから。あなたにだって、誰にだって。」「何を言っているの?気づいていない?何が?私は何も聞こえてなんて...」銃声が響き渡った。彼女が地面に横たわる。「僕は僕を諦めることなんて出来ないよ。」彼女の死体はずっと前には死んだようなあり様に成り果てて、そして彼女のサインは消え失せた。誰かの声が響き渡る。それは笑い声の様で、今にも泣きだしてしまうような、そんな声だった。


===

この小説を書いてくれって?こんな荒唐無稽の作り話を?こんな残酷でどうしようもない物語を?三つの能力、タイムマシンの呪い、特異点に、寄生虫に、薬に、神に、様々な要素が絡み合って、嗚呼、これは一体何が原因なんだろう?「わからない?まあ、先生、あなたは他人事なのね。」「それは...やっぱりやめるなんていう意味かな?」「違うよ。むしろ、あなたに頼んでよかったという意味だよ。それに...」「それに?」「・・・先生。ひとまず、その作品を読んで、描き出せるところからよろしくお願いしますね。」彼女は言いかけた何かを誤魔化すように矢継ぎ早に言葉を重ねた後、この部屋を後にした。この部屋には俺と、一冊のノートが遺された。次の日、彼女は学校の屋上から飛び降りた。

読んでくださってありがとうございます。

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