サイレンと足音
俺は眠るためにベットに横になると、俺の背後から誰かの足音がした。その足音は、どんどん大きく、速くなっていった。俺はその足音から逃げるように、勢いよく起き上がれば、俺はその刹那、思い出す。ここは俺の自室で、俺はただベットで仰向けに横になっていただけだったことに...
俺は時計を見て頭を抱えてしまっていた。俺がベットに横になってから、まだ三十分しか経っていなかったから。俺はベットから起きて、麦茶を冷蔵庫から取り出した。俺は椅子に腰かけて、麦茶を飲みながら、さっきまで俺が横たわっていたベットを茫然と眺め続けていた。そのベットは、緑色のシーツがかけられていた。その緑色は、俺の好きな色、鮮やかな色で、この部屋の数少ない彩だった。だけど、どうしてだろう。今、この緑のシーツの色はくすんでしまっているように見えてしまう。まるでこの色の鮮やかさがかえってこの部屋に漂う陰気な感じを表してしまっているみたいだった。そう思ってしまった俺はこの部屋にいることが嫌になってしまった、まるでこの部屋は、この部屋に漂う雰囲気は、まるでここは俺の部屋じゃないと言っているみたいだった。そして僕がそう言われているように感じたその時だった。
「タン...」俺は振り返った。そう、まさに今、俺がベットの中で聞いたあの足音が、俺の背後から、聞こえてきた。しかし、俺が振り返ったその視線の先には何もなかった、ただ白色の壁の静寂があるばかりだった。しかし、確かに俺は聞いたんだ。誰かの足音を、俺じゃない誰かの足音をッ!嗚呼、なんて気持ちが悪いんだろう。俺はまるで全身を、あの足音を立てている誰かに触られているような感覚を、この空間に蔓延しているこの息苦しい空気が触れるたびに感じてしまっていた。もう、俺には眠気なんて無かった、あったのは気持ちの悪さ、そして命が脅かされているような、そんな危機感、まさに恐怖だった。
俺は椅子から立ち上がって、ジャージに着替えて、ヘルメットを持って、この部屋を飛び出した。
俺は家から徒歩20分、自転車なら10分くらいの距離のコンビニへと向かっていた。俺が周囲を見渡せば、ここは別世界だった。普段は目立たない信号の光が、この夜の世界のアクセントのように強調されて見える。普段、俺は自動販売機、本体の箱の色に意識が向いてしまうのに、今ではその色がくすんで、夜に滲んで今にも消え入りそうになっている。そして、その自動販売機の白色灯、その一辺倒の光が、自動販売機の存在をただ表しているような、そんな証になってしまっていることに、俺はおぞましさを覚えてしまっていた。
それは、まるで、昼は個性があるように振舞っているけれど、いざ夜になってしまえば、そんな個性をしらしめす証を示せなくなれば、彼らはただの自動販売機でしかないんだなって、そう、俺は気づかないうちに自動販売機の色に対して、その色のイメージによるレッテルをつけてしまっていたんだ。その途端、俺は今までを省みてしまっていた。そう、そんなレッテルを、無意識に俺は、この自動販売機のようにつけてしまっていないか。いや、たぶんつけてしまっている。この自動販売機は、俺にとっての証明だったんだ。俺自身の心にある、俺が気づかなかった醜悪な俺自身への証明だったんだ。なんておぞましいんだろう。これから、俺は何かを思い出すたびに、考えてしまうだろうな。俺は、誰かを無意識のうちに傷つけてしまった、今まで気づくことが無くて、幸せだったなんて感じていた記憶も、嫌な記憶に代わっていってしまうんだろう。
俺の頭の中でそんな思考が渦巻いていたその時、俺の頭上から足音がした。
「ダッ!」俺はその足音が聞こえた方に視線を向けた。すると、そこには大きな月が、満月が夜空に浮かんで輝いていた。俺はその月を見て、なんて綺麗なんだろうって感じていた。たぶん、その月を自然に見ることができたなら、僕はそんな感想を抱くだけだっただろう。しかし、俺は今、まるでこの月を、足音を立てた誰かによって見せられてしまったって感じていた。そんな気持ちが、自動販売機を見た時の感覚が、俺の思考を俺が抱いたこの感情へ、神秘的な美しさへと向けていた。その思考は俺の感情を見て笑っている。「何が神秘感だよ。何が感動したっていうんだよッ!」俺はその声に戸惑っていた。一体、どうしてその声はこの感動を誤魔化すことができるというのだろう?「この月は、月を照らしている光は太陽の光なんだろう?だから、このお前の感動は、月が特別に纏っているような神秘感なんて、存在しないんだ。この神秘的な月の光景を形作っているのは、この夜の闇なのだから。」俺は月から視線を逸らす。嗚呼、台無しだ。特別に感じていたこの月の光景は、この夜の蔓延した闇ありきの光景に成り果ててしまった。今じゃあ、月の存在が恨めしいと感じてしまっている。月はなんて見っともないのだろうって思ってしまう。そう、まるで俺みたいだ。俺は周りに生かされている。そう、盲目的に生かされてしまっている。なのに、俺はそのことに気づくことなんて出来なくて、わがままに俺は生きていた、生きてしまっていたんだ。この今を、そう特別な光を受けながら生きているって、無意識のうちにそう思ってしまっているんだ。太陽の光なんて、誰もが照らされている光なのに、光だっていうのにッ!
月は俺を追っている。それはまるでストーカーのように、俺の背後にぴったりつくように......嗚呼、俺はその瞬間、気づいた、気づいてしまった。俺の背後にいた誰か、その存在の正体に...そして俺は、もう諦めた。諦めてしまった。もし、そんなことを、そんなことができるなら、それはもう...
俺はこのコンビニに辿り着いた。でも、もうこのコンビニに、用なんて無かった、無くなってしまった。俺は適当にカフェオレでも買って、家に帰ってしまおうなんて思いながら店内に入る。すると、どうしてだろう。コンビニの入店音がなぜか普段よりも大きいように感じてしまう。それはまるで、けたたましく鳴り響くサイレンのように、大きな、そして鬱陶しい音だった。そして俺がその音に戸惑っていると、その背後からからこちらを見てくる、誰かの視線を感じていた。そしてその俺が感じた視線は、その視線を向けている誰かの気配はこちらに近づいてきていた。あの足音を、この今に刻み付けていくようにッ!
「ダッダッダッダッダッ!」
その足音は、俺の背後で立ち止まる。俺は振り返ることができなかった。たぶん、振り返ってしまったら、俺は何か取り返しがつかなくなってしまうって、そんな気がしてしまったから...
「俺は俺を諦めることなんて出来ないよ。だから、お願い...死んでッ!」
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