第三十三章 あなたは誰?
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私はどこで立ち尽くしてしまっていたんだろう。そんな問いかけが無駄になってしまうように、次の瞬間、私は跳ね飛ばされていた。その途端、私の見えている光景は翻り、世界がまるで天上にあるように見えた。その光景を見た私は、なんて綺麗なんだろうって思ってしまう。嗚呼、そうか。まさに、この瞬間、今までのすべてが翻る、この今しかない瞬間、まさにこの現実が夢に翻る瞬間、私の前にあるのは、この光景はまさに天国に成り果ててしまうんだ。
「この現実は世界の表面でしかない。そう、この世界はキャンバスに描かれた一つの絵でしかないんだ。もともと、このキャンバスには、それはそれは素晴らしい絵があったよ。だけど、その絵はもう見るも無残に成り果てて、しまった。それが現実。理想もなく、夢もない、まさにこの現実。だけど、かつてこの世界は、誰もが求めていた、紛れもなく天国そのものだった。しかし、その天国は無になった。そして、今、この密室に真実を閉じ込めた世界から、隠し事のできないかつての神の世界に、心象世界に、まさに真実しか存在しえない世界へと堕ちていく......」「ねえ...ここは何なの?」「ここはその世界の始まり、特異点、その一つ。予言が何度も成就して、いつしかその光景に魅せられた信奉者によって描き出された町......参峰町。」彼は唇を一切動かさないで、言葉を紡ぎ続けていた。その姿はまるで人形のように、腹話術師の駆る人形のように、見えてしまっていた。
「参峰町?そんな、そんなの嘘でしょう......こんな町、こんな光景、私の知っているあの町じゃないッ!私が住んで、過ごしていたあの町なんかじゃない!」そう私が言い放って、その途端「嗚呼、知っていた。あなたはそう言ってしまうって、もうわかっていたよ......」と彼は言い放った。
私の前に立ってこちらを見ている、見下ろしているその男の、その手の中には、一冊の本が携えられていた。その本の表紙には私の名前が書かれていた......そして、次の瞬間、その男はその本を開いて、その本の頁を引き千切った。その瞬間、私の腕が無くなった。私はそのためにバランスを崩して、その場で倒れてしまう。何が起きた?...私は確かめるように、その腕を見る。すると、そこにはちゃんと私の腕は存在していた。しかし、どうして?私はその腕が他人の腕であるかのように思ってしまう。もし、この感覚を例えるとするなら、普段無意識で行っている、歩いているときの腕のふりの上下を、動きは自然な状態のままで、意識だけその腕の動きに集中してみた時のような、まるで腕が自ら考えて動いていると錯覚してしまうような、そんな感覚だった。私は今その感覚を、その動かない、ただ静止しているこの腕から感じてしまっていた。「ねえ?私に何をしたッ!その本はなんなのッ!」彼はその問いかけに答えない。ただ、その男は私の、腕が動かせなくなってバランスを崩して倒れ込んでしまった私の前に、これが答えだっていうように、私の腕、私が腕だって感じることのできる、ボロボロの何かを晒上げていた。それはあの本から取り上げられた、その一頁だった。
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あなたはどこにでもいるんでしょう?どんな時間だって、どんな場所にだっているんでしょう?自分勝手に、そしてその自分勝手を自己犠牲だって酔いしれて生き続けているんでしょう?それでいて、あなたはそんな生き方をしている自分自身に対して罪の意識を感じてしまったんでしょう?だから、あなたは不自由に閉じこもって、それですべての記憶も失って、嗚呼なんて馬鹿馬鹿しいのでしょうねッ!「私はこの監獄の中で、何をしようとしていたのか、嗚呼、そうだった。私は、私の役割は、この予言の成就だった。嗚呼、なんで忘れていたんだろう。
たぶん、それは私にとって都合のいい存在に、私のすべてを、その責任のすべてを押し付けてしまうため、そしてその世界の中で、私は自分の理想の私を描き出してしまいたかったから。そう、それが私にとっての天国だった。だけど、あまりにも、それは夢だったみたい。都合のいい夢だった。悪魔のささやきに、悪魔の甘言にまんまとのせられて、私は自分の死をカミングアウトしてしまったのね...「おかえり。」私が公園のベンチの上で温めていた夢は冷たくなって死んでいた。そんな私の前で、その悪魔は、彼は、笑い続けていた。」
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7月20日、それはいつも何かが始まる、始まってしまう、そんな日だった。
私は本を探していた。その本は緑色の表紙の本で、その本の中には私のすべてが描かれていると、私は知っていた。私はずっと自分自身に自信と言うものが無かった。私にあるはずのオリジナリティ、私だけのこころ、その存在に対して私はあまりにも懐疑的だった。いつからだろう?いつから私はこんなに自分自身に自信が持てなくなってしまったのだろう?たぶん、それはあの本を夢で見るようになってしまったから。私がその本に触れたその時、私はその本からぬくもりを、他人のぬくもりを感じてしまっていた。そのぬくもりは、まるで抱擁のような、誰かに抱きしめられているような、そんな暖かさだった。一体、どうして私はこの無機物から、そんなぬくもりを感じてしまっているのだろう?なんて思いながら、その本の表紙を見た私は、そこに書かれていた私の名前に戸惑ってしまう。そして私はその本を恐る恐る開いて、その中を見てしまおうとして、その途端に、その本は崩れ去ってしまった。
私はその本に触れてから、その本のぬくもりを感じてしまってから、自分自身の体温に対して、言いようのない気持ちの悪さを感じてしまっていた。その気持ち悪さはまるで、私が今まで感じていた体温が、ぬくもりのすべてが偽物になってしまったような感覚だった。そしてその感覚を前にして、私はどこか裏切られたように、感じてしまっていた。私が今まで感じていた体温は、私が生きているって感じることのできる確かな熱は、誰かと手をつないだ時、誰かとおしゃべりをしたり、そして誰かと喧嘩した時、その時々のぬくもり、私の感情の動きを表現してくれる、暖かさは...まるで、そのすべてが偽物に成り果ててしまったような、そしてそれは今までの私が生きてきた証のすべてが否定されてしまったような、私が私であると、言い切れる今までの経験が偽物になってしまうような、まるで私の体温なんて、もうこの世界には存在していなくて、私の体温はとっくの昔には誰にも温めることが、そのぬくもりをつたえることができないほどに、冷たくなってしまっているんじゃないか......なんて感じてしまっていた。
私はこの、こんな気持ちなんて、見て見ぬふりをして生きていきたいって、そう思っていた。だけど、そう考えるたびに、頭の中に響く声。「お前に選択をする覚悟があるか?」「選択?」「そうだ、まさに選択した過去を受け入れ、前に進むことのできる、そんな覚悟がッ!」「覚悟?」「もう、逃げることをやめる覚悟だよ。そう、今を生きる覚悟だ。」「逃げる?」「お前は今まで、ずっと逃げてきた。すべてを夢にして、この今から逃げ続けていたんだ。そう、まさにお前は卑怯者だったんだよッ!」「そんな、今までの夢は、今まで私が夢だって思っていたすべては......」「紛れもない現実だッ!」「そんな...そんなの嘘だよッ!そんなの信じられるわけがない。」「嗚呼、やっぱりお前は逃げるんだ。そうやって逃げて逃げてを繰り返して、どうせまたお前はすぐにこの場所に戻ってきてしまうんだ。嗚呼、卑怯者よ。お前はこの選択を生涯後悔するだろうッ!」
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かつての私は考えていた。この世の不条理のすべてが自分の所為であったなら、私はもうこんなやるせなさを心に抱くことなんてないんじゃないか?なんて、自分勝手な自己犠牲を...
「やめてッ!やめてッ、そんなこと、もうやめてくれよッ!」私は彼に銃を突きつけた。彼はこの私をあの滲んだ瞳で見てくれていた。そう、私は彼のそんな瞳を見たかったんだ。そう、もうこれですべてが終わる。まさに八人目なんだ。そう、私がこの銃の引き金、彼と私との世界における永遠の自由を決定づける、そんな引き金を引く、まさにそんな時だった。この食堂の中の扉が開け放たれて、そこから一人の男が現れた。それは私だった。
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「五月雨?五月雨だよなァ?なあ、どうしてこの僕を助けたんだ?そんなことに意味なんて無かったというのにッ!」僕は彼女に銃を突きつけた。炎の海に包まれたこの今は、あの食堂で、彼女と僕とが向き合ったあの時と同じ様で、僕はどこか懐かしさを覚えていた。
﨑野預御(委員長)「五月雨?あなたは、あなたは何を言っているの?何を持っているの?」「とぼけるなよッ”!記録世界でのお前の名前だろうがッ”!」「違う...私じゃない、そんなキャラクターなんて知らないッ!」「黙れッ!そんな言葉を信じられるわけがないだろう?僕はあの記録世界の中で見たんだよ。お前の顔をした五月雨のこころの姿を...!」そう、だから、だからこそ、僕はお前が許せなかった。今際の際に、逃げようとするなんて、嗚呼、そうかお前は、卑怯者だったんだッ!「僕は裏切り者だよ。お前の今際の際の言葉を無視してしまうから。でも、先に裏切ったのはあなた...そう、ある意味、これは報いなんだ。僕はお前を五月雨だって認めない、そう僕にとっての五月雨は、あの時、あの瞬間、僕のことだけを想ってくれた彼女、まさにあの死んでしまった彼女なんだッ”!」彼女はおびえたような表情をしていた。見開かれた瞳は恐怖に滲じみ切っていた。そして、僕が彼女の額にこの拳銃を押し当てて、引き金に指をかければ、その表情には諦めなんていう陰りが生まれた。嗚呼、その陰りを見て、僕はようやくすべてが終わると、思うことができていた。その時だった。彼女が笑い出す。「ぁあ、最低ね。この人殺し。まさか、現実で私がまだ死んでいないなんて、さすがの嗅覚ね?」彼女がそう言ったその刹那、僕はこの引き金を引いてしまっていた。僕はその言葉を聞いた瞬間、僕が彼女に感じていたあの確信は消え失せてしまっていた。僕は彼女の顔を見て、そこにいた彼女が、僕が確かに見ていた五月雨の面影が消え失せてしまっていた。なんで、一体どうして。その時、その彼女の瞳にうつる自分の顔が笑った。そして、どうしてか、その瞳の中の自分に、まるで五月雨の、あの死んでしまったあの瞬間の彼女を、貶めてしまうような、彼女の面影を見てしまった。そして僕はその彼女に問いかけた。「お前は誰だッ!」
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