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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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あたし #1

冷蔵庫の扉を開け放ち、この部屋に、この僕しかいない家の中に、バタァッ!、なんて音が唐突に表れて、その刹那消えていった。それは、あまりにも突拍子もない音だったから、僕は本当にあの音を聞いていたのか、あの冷蔵庫の扉を開けた時の音を、聞いていたのだろうか、なんて考えてしまっていた僕の頭はもう微睡みにも似た意識の白昼夢に浸かってしまっていたんだッ!そう、そんな思考がまともな推理をすることができるわけがなかった、だから僕はあの音はそんなような新鮮な音を、まさに今聞きたいと望んでいた僕の心が見せた幻聴なんじゃないか、なんて荒唐無稽な思考回路を正常だって思い込んでいたその刹那、その扉はその自重でもって自然と閉じられた。バタァンッ!


「おいッ!」その扉が閉じられたその音の勢いに重なるように、痛烈な声色の声が遠くから響いてきた。その声に、滲んでいた感情は怒り、焦燥、そして諦めだった。その感情は、その微睡みに浸かって、ふやけてしわくちゃになっていた、この脳みそをそんな微睡からこの現へと無理やり引きずり込まれてしまったみたいだったッ!嗚呼、なんて不快なんだろう。誰かに急かされて、僕の自然に感じていたこの心の感情に干渉するようなこの声は......まるで指向性を持たせて思うがままに僕を動かしたいと思うような、まるで僕を道具だって見なしているような、この声は!


僕はそんなことを思いながら、もう一度冷蔵庫を開いた。しかし、もう僕はあの冷蔵庫の扉を開ける音が気にならなかった。一体どうして気にならなくなってしまったのか。それは、その呼び声が発せられる前と後で、僕の心は変わってしまったから。嗚呼、なんてままならない心なんだろう。さっきまで感じていた価値は、すでに無価値に成り果てて、今じゃあこの心は、僕を急かすあいつへの不平不満に向いてしまっていた。(ハイハイ、わかっていますよッ!)そう心の中で僕が零したその瞬間、その瞬間を無視するように、その急かす声が、もう一度発せられたッ!「おいッ!」(わかっているってッ!味噌だろッ!)僕はその開かれた冷蔵庫の中を見渡して、その奥に鎮座していた味噌を、袋ごと手に取った。そしてそれを持って、僕はその声の持ち主へと向かって駆けだしたッ!


僕は家の玄関の扉を飛び出して、僕の家の右隣り、そこにあった家のインターフォンを鳴らした。

ピンポォンッ!なんて、ありきたりな音が響いて、僕はその音を聞いた瞬間、眠たい気怠さに襲われた。その睡魔()は、なんて強いのだろうッ!僕の弱点を、まるですべて知っているとでもいうような不敵な笑みを魅せて、その眠気は僕の意識を奪い去っていくような、そんな攻撃を、何度も何度も、執拗に繰り返していった。「しかし、アタシは負けるわけにはいかないッ!もう遅れるわけにはいかないんだッ......」


次の瞬間、僕は起こされる。誰かに揺さぶられて起きてしまう。どうして、眠ってしまっていたんだろう。嗚呼、そうだ、うん、そうだった。あのインターフォンがあまりにも退屈だったから、僕は眠ってしまっていたみたいだった。「大丈夫ですか?」僕を揺さぶっていたのは、見知らぬ赤の他人だった。


「誰?デスカ。」僕はぎこちない挨拶で、そんな突拍子のない言葉を発してしまう。そして俺は、あたりを見渡して、ここはあの玄関前でないことに気づいてしまった。そして俺が抱えていた味噌も無くなってしまっていた。一体どうして、どこに行ってしまったのだろう。そしてここはどこなんだろう?「あの......ダイジョウブですか?」俺が戸惑っていると、その戸惑いに寄り添うような表情をして、こちらを見ている誰かの姿が...俺はその誰かに話しかける。「コンニチワァ...」


私は、地面に倒れていた彼を、揺さぶっていた。すると、唐突に彼はその瞳を開いて、こちらをジッと眺めて、突拍子もなく言い放った。私は誰だって、そう彼は問いかけてきた。私はいきなりすぎる、その赤の他人の問いかけに対して、狼狽してしまっていた。私は道端で眠ってしまっている彼を、心臓が止まっていたら、もし死んでなんていたら、なんて考えてしまって、しまったから、彼を揺さぶってその安否を確かめていただけなのに......次の瞬間、彼は上半身を起こし、あたりを見渡した。そして、その男は明らかに戸惑っていた。それはまるでこの状況を呑み込むことができていないというようで......

「あの......大丈夫ですか?」私はそんな様子の彼におそるおそる問いかけた。すると、彼はこちらを見ながら、その唇を震わして(まるでこの今に対しての不安を表しているかのように)、こちらをやんわりと、さっきまでのキツイ視線でなく、警戒と不安が入り混じったような視線で見つめながら、彼は戸惑い交じりの言葉を話し出した。「コンニチワァ......」「こんにちわ?」「・・・」「えっと、大丈夫ですか?」「アタシは......」「あなたはこの場所でうつ伏せに倒れていたのよ?私、万が一のことがあってはいけないと思ってしまったから、あなたを仰向けにして、救急車を呼ぶつもりだったのだけれど、あなたはただ眠っていたみたいだったから......」彼はぼんやりと私の顔を見ていた。「私は、五月雨、五月雨丹っていうの。あなたは?」「アタシは『あたし』......」私は、少し困ってしまう。彼の言葉はつかみどころのない、要領を得ない言葉だったから、そして彼の表情だって、まるで呆けてしまっているような、彼の瞳だってどこを向いているか、定かじゃないみたいだったから......


気づけば、僕はどこかソファの上で横たわっていた。そして俺の視線の先には、先ほどの彼女、五月雨丹の姿があった。「起きた?」「ここは......?」「ここは......そうね。私の仮の住居とでも言おうかな?」僕は周りを見渡してみる。その家には簡易的な台所と、簡易的なテレビ、黒色のカーテンと、対比的な真っ白の壁、床、天井......僕がさっきまで横たわっていた真っ黒なソファと、そしてくたびれた茶緑の葉が茂っている観葉植物が置かれている、そんな空間が広がっていた。そう、この部屋は、まるでミニマリストによって整理されたような、清潔で、そして生活感が無いような、そんな部屋だった。


「ありがとうございます。助けていただいて...」「そんなかしこまらないでいいのよ。私が助けたくて助けたんだし。」彼女は、僕をまるで安心させるような微笑みを魅せていた。僕はその微笑みを見て、つい口を緩めてしまった。「やっと笑ったね。」彼女がそんな僕の緩んだ口元を見て笑うから、僕は恥ずかしくなって、誤魔化すように言葉を捲し立てていった。


僕は自分のスマートフォンで、自身の位置を知ることができた。どうやら、ここは僕の住んでいる町、参峰町の隣町だった。一体どうして、僕がこの隣町の道端で倒れてしまっていたのか、わからなかったけれど、一先ず帰れそうだってことに安堵のため息をついていた。僕は家族と連絡を取ろうとしていたけれど、どうしてか、その電話はもう繋がっていないみたいだった。


僕は走っていた。焦燥感に急かされるこの気持ちを抑え込みながら、バクンバクンとうねるような音を刻み続けている心臓の鼓動を感じながら、僕は走って、走って、走り続けて、そして終に僕は見てしまった。僕の住んでいた町、参峰町の変わり果てた姿を......「なんだよ、これッ!」

そこには、確かに町があったその場所には、まるで原生林のような鬱蒼とした森で覆われてしまっている、そんなありさまが広がってしまっていた。それはまるで、もとよりこの場所には町なんてなかったと、恣意的にこの僕に伝えているみたいだった。思い出される記憶、参峰町で生きてきたその日々が、日常が、この信じられない光景で、この光景を見た時の衝撃でもって、そのすべてが否定されてしまったみたいだった。だから、僕はもうこの今を呑み込むことなんて出来ないで、その場にうなだれたまま、動くことすらできなかった。


背後から足音がして、僕は振り返る。すると、そこには彼女がいた。「大丈夫?」「あなたは......五月雨?一体どうして、ここが?」彼女はなぜかその問いかけに答えてはくれなかった。彼女はその手に何かを持っていた。「これを届けようと思ってね。」それは緑色のサングラスだった。僕はそのサングラスを知らない。なのに、僕はそのサングラスを見たことがある。一体どこでッ!


「ねえ、この場所にあったよねッ!」私はその場でうずくまっている彼に忘れ物を届けるために、彼の居場所を見つけて、ここまでやってきた。だけど、どうして、彼はこんな場所で、うずくまっているのだろう?そして、彼は何のことを話しているのだろう?「あった?えっと、何のこと?」そう、私が思ったように、言葉を告げてしまうと、彼は私に疑うような視線を向けて、そして、次の瞬間、そんな私を疑うようなその瞳は、一転、すべてを諦めてしまうような、絶望を見てしまったような、漆黒が滲んだような瞳に変わり果ててしまった。「参峰町......僕が生きていた町......僕が好きだった町......」「参峰町?参峰市の間違いじゃない?」(参峰市?なんだよッ!なんなんだよッ!)


彼女が運転している車の助手席で僕は窓の外を茫然と眺めていた。もしも今が夢なら、これは今までで一番酷い悪夢だった。でも、もしこの夢が悪夢なら、悪夢であってくれるなら...なんて、思っている僕の気持ちを他所に、彼女は言葉を、絶望を紡ぎ続ける。「あの場所には、元より町なんて無かったわ。あそこは、独自の生態系が形成されている、そんな原生林の自然公園があるだけなのよ。」違う。あそこには、あそこには確かに町があったはずなんだッ!嗚呼、信じられない、信じたくなんてないよッ!「ところで......これ、いい加減受け取ってくれない?」車が赤信号で停まったそのタイミングで、彼女は僕に何かを突きつけた。それは、あのサングラスだった。「いや、アタシは、それを知らないから......」「そうなの?でも、あなたが倒れている時、あなたはこのサングラスを握りしめていたのよ。あなたが意識を失っているその間も、あなたはそれをまるで決して手放すまいというように、強く強く握りしめていたのよ。だから、このサングラスは、あなたにとって大切な物だって、そう私は思っていたけれど...」僕は仕方なく、そのサングラスを受け取った。僕はそのサングラスを眺めていると、そのサングラスが緑色に光ったような、そんな気がした。

読んでくださってありがとうございます。

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