4殺人温泉~無に今までを閉じ込めたなら~ 第15話 #2
「動くなよ?」動くな?動くなって?僕はその投げつけられた言葉を、何度も何度も、頭の中で反芻させて、この状況を、今を呑み込もうとしていた。
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僕の後頭部には、金属の冷たい感触が、重々しい重厚感が突き付けられていた。僕はその感触を、今さっき味わったばかりだった。なんでこんなことになるんだろう。僕は彼女の遺言に従っていただけだっていうのにッ!なんでこんなことになってしまったんだろう。僕はこの部屋を見渡した、その時にはこの室内に誰もいないと、そんな静寂がこの部屋全体を埋め尽くしていたっていうのにッ!わからない、わからないよッ!彼の言う「動くな。」の範囲がわからないッ!もし、彼の動くな、なんて範囲が、この思考を巡らすところにまで及んでいるのだとしたら、極論、その命令が心臓の鼓動にまで含まれてしまっているとするならば、それはすなわち死ねって言っているのと同義じゃないかッ!なあ!今、銃が突き付けられたまま、撃たれないなんてこの状況は、その銃を突き付けている僕の背後の誰かの気まぐれで、そんな気まぐれの前で、何をしても無駄だっていう、そんなことを恣意的に伝えようとしているだけなんじゃないかッ!死んでしまう。嗚呼、死んでしまうッ!嫌だ、死にたくないッ!死にたくなんてないッ!死ぬくらいだったら、死んでしまうくらいなら、こちらから先にやってやるッ!今から振り返って、その額に鉛玉をぶち込んでくれようかッ!嗚呼、そうだよ。お前はその鉛玉がぶち込まれたそんな衝撃で、仰向けに倒れてチェックメイトだッ!こんなどうしようもない今に、終止符を打ってやるよッ!
僕は落ち着いて、探偵らしい冷静な心で、この今を俯瞰するように眺めていた。
僕の背後に立っている誰かは、そのすべてを、顔を、服を、あの夢の中で見た犯人の姿、全身が白装束で包まれているそんな姿で、僕の俯瞰に投影されていた。そしてその、男は左片手に拳銃を握りしめて、その銃口を僕の後頭部に突き付けながら、何処か不安げに、「動くなよ」、なんて言葉を吐き出していた。どうして不安げなのだろう。あなたの手には、自由が、生殺与奪の引き金が握りしめられているはずだっていうのにッ!まさか、その犯人にとって僕の生死なんてどうでもいいのかもしれない。そう、彼は何かを恐れているんだ。僕の生き死に関係ない、それでいてこの僕に、そしてこんな今に関係ある、そんな何かをひどく恐れてしまっているのだろう。そう、例えるならば、ここで彼が僕を殺した後、もし僕がダイイングメッセージを遺したなら、それがきっかけで捕まってしまうかもしれないだったり、もし幽霊なんて高次の存在が存在してしまったなら、それがきっかけで呪い殺されてしまうかもしれないだったり、そして、もし僕が今銃を握りしめていて、握りしめているからそんな脅しなんて効いていないと考えているかもしれない、なんてね。
<数時間後>
僕が後頭部に銃を突きつけられて、動かないように努めてから、一体どれほどの時間が経過したのだろうか?嗚呼、喉が渇いてきた。そう、どうしようもなく喉が渇いてきた。まるで全粒粉入りチョコレートビスケットの一袋(20個入り)を、一気に頬張ってしまったときのような、なんでもいいから水分が欲しいと思うような、そんな喉の渇きを感じてしまっていた。そして、そんな喉の渇きが、僕の生きている今この瞬間の輪郭を際立たせて、僕のこの今から、銃を突きつけられている死と生の境を揺蕩う今から、そんなまるで夢のような現実から、まごうことなき現実へと、緊張を、そして冷静でいられないようにするような心の動きを、置いてけぼりにしたままで、連れ込んでいってしまった。僕は、その連れ込まれた現実の中で、そんな緊張を、そんな緊張を心に抱いてしまっていた自分自身の今までを笑っていた。なんて滑稽なんだろうって。そんな緊張なんて抱かないでも、僕は死んでなんていないよ。嗚呼、今までの緊張も恐怖も、この現実に即した今、見てみればそのすべてが茶番のように見えてしまう。嗚呼、まるで今までずっと死んでいたような気分に感じてしまうッ!そう、僕は今まで死んでなんていなかったけれど、生きているなんて実感も感じてなんていなかったんだってことがッ!僕は振り返る、そしてそこにいた、一秒前の自分自身に銃を突き付けて笑う。「バァ~カッ!どうしようもないあなたよッ!」
僕は推理なんていう仕事を、俯瞰視点を突き詰めるそんな職業を生業として、今までたくさんの事件を冷静に見つめてきたけれど、どうやら灯台もと暗しだったようで、僕は僕を今まで見つめることができていなかったみたいだった。フフフ。僕は一体、何様のつもりだったんだろう。生と死の展開される舞踏を、一番近くで見てきた僕が、一番そんな彼らを他人事に思っていたんだ。だから、僕は彼らをまるで人なんかじゃないみたいな、まさに人でなし、なんて思うことができてしまっていたんだ。そう、僕は、もう死んでいたから......生きている実感を持たず、まるで僕が僕なんかじゃない、そう僕なんてこの世界にいないとでもいうように、この世界に僕の居場所をまるで求めないように、そんな心のままで生きてしまっていたからッ!~その刹那、湧き上がる記憶、連続的なフラシュバックと、そして思い出される今までの事件、名探偵六波羅万華鏡の誕生、そしてその時の僕の姿~嗚呼、そうだ、そうだよッ!僕は、僕の本当の名前は、六波羅万華鏡じゃない、じゃなかったんだッ!それは、僕が好きだった、僕がなりたかった、探偵の名前だった。嗚呼、僕の本当の探偵名は”ゼクス”、そして、僕の本当の名前は、......嗚呼、もう今更なんだよッ!
僕は自分自身が今生きてしまっていることに、とてつもない恥のような感情を感じてしまっていた。まさに、生き恥、もう僕は、僕の名前を見失って、僕の理想になろうとするのではなく、その理想のロールプレイをしている時点で、もう僕は死んでいたんだ。そして、今、僕は意識してしまったよ。僕の今までは、僕が六波羅なんて呼ばれていた今までは、そう錯覚していた今までは、天国だったんだってッ!でも、それが夢だって、幻想だって、そしてそんなことにこの命が脅かされてしまうまで、気づくことができなかった時点で、もう僕の存在は終わってしまっていたんだよッ!僕は持っていた銃の、その銃口をいつの間にか口に咥えてしまっていた。そして僕はその銃の引き金を引く、引こうとした。しかし、銃声はしない。どうしてだろう?僕はその銃の銃口を力強く、握りしめ、何度も何度も引こうとして、だけど、その引き金は固く、動かすことができなくなってしまっていた。僕はその銃の変わりように戸惑って、その銃を床に放り投げてしまう。そして僕は、半狂乱に陥りながら、一つのアイデアを思いついていた。僕が振り返って、その銃を突き付けている誰かに、この包丁を突き付けてしまえば、その誰かは、その持っている銃の引き金を引いてくれるだろう。そう、そんなアイデアが焦点を結んでくれたから、僕はまるで飛びつくように、その点に向かって走り出した。
僕は振り返る。そしてその刹那、何かが爆発するような音がした。僕はそれが銃弾が放たれた音だって思っていた。僕は瞳を閉じて、その弾丸が僕の額を撃ち抜いてくれるその時を待っていた...しかし、そんな瞬間は訪れなかった。僕はおそるおそるこの瞳を開けてあたりを見渡す。すると、そこには、振り返った僕の目の前で仰向けに横たわる五月雨丹の姿があった。彼女は額にその銃口を突きつけて、僕が振り返ったその刹那、引き金を引いていた。それはまるで僕にその死にざまを見せつけているみたいだった。
僕は彼女に、その仰向けに横たわる彼女に近づいていく。近づくって言ったって、彼女と僕の距離はほとんど離れてなんていなかった。だけど、僕はその仰向けに倒れている、その彼女の姿がなぜかとても遠くにあるような気がしてしまって......しょうがなかった。
僕は落ち着いて、ゆっくりと仰向けに倒れている彼女に近づいて、その姿を茫然と眺めていた。まず、僕は彼女の、その顔を、苦痛に歪んだその表情を見て、その額に空けられた風穴を見てしまっていた。嗚呼、間違いなく彼女は死んでしまっている。そう、彼女の握りしめたその拳銃で......その刹那、僕は彼女の手に拳銃が無いことに気づいた。そう、その彼女の手に握りしめられていたのは、一枚のカードだった。僕はそのカードを拾い上げた。そのカードには、「バァ~カッ!どうしようもないあなたよッ!」なんて言葉が印字されていた。そして次の瞬間、この静寂な空間に、まだ銃声の残響が残っているような、そんなこの部屋の中で機械音声が木霊した。「レーベルパターン6、検知。」その音声は、僕の左手から聞こえてきていた。僕はその音が聞こえた方を見て、そして僕は気づいてしまう。僕は、床に捨てたはずの、あの銃を握りしめていたなんてことに......僕はその銃に触れて、嗚呼、その銃は暖かかった......僕はその銃を、その銃口を自分自身に向けた。そして、その引き金を引いて、嗚呼、やっぱりこの銃はその途端、芥に成り果てた。
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読んでくださってありがとうございます。
次回予告 (仮称)
繰り上がり
部屋番号15
この部屋からの脱出
ダイイングメッセージとメッセンジャー
次回 4殺人温泉~無に今までを閉じ込めたなら~ 第16話




