サイン=スパイラル
八段落 地の文の視点の切り替わり
「」→彼→「」→彼女→「」→彼女→「」→彼女→「」→彼→「」→彼女→「」→彼→「」→彼女
彼は今、眠っているのだろうか?それとも、まだ起きているのだろうか?嗚呼、もし起きているなら、この夜空をあの時みたいに、眺めてくれているのだろうか?嗚呼、もし眺めてくれているのなら、あなたの瞳にうつるその夜空を、もう一度眺めてみたいよ。そしてこの、夜空に広がっている、星々のきらめきを、あなたが想像した夜空の光景を、今一度教えてくれないだろうかな。
あなたが思い描いたあの星座【Constellation】の物語は、聞いていてとても面白かった。あなたが思い描いた星座が象ったイメージは決まりきった形のない概念的なものだったから、どうしてそんな概念を、恒星の結びつきになぞらえて、表現してしまうその発想が本当に面白いって、そう思っていたんだ。あなたが話してくれるこの夜空で起きている出来事は、奇想天外なんて言葉なんて一言でとても言い表せないほど、凄まじい発想の突飛が激しい話だったよ。でも、そんな発想の突飛なんて、あの時の私たちには気にならなかったよね。むしろ、その話を肯定してくれるように、まるで私たちの話に都合がいいように動いているような、その星々の配置を見て、星々はまるで私たちの自分勝手な話の筋書きに沿ってくれているように動いているみたいだって、まるで私たちがこの夜空を、思い思いに動かしているみたいだって、そう私は思っていたんだ。あなただって、そう思っていたでしょう?私たちの荒唐無稽な作り話が、いつしか奇蹟のような星の配置でもって、意味を為しているみたいだって感じてしまったことがあったでしょう?
私はね、その経験が忘れられないの。あの、夜空を自分勝手に動かしている感覚が、まるでその漆黒のキャンバスに、星の光で文字を、言葉を紡ぎだすあの美しさが、気持ち良さが忘れられないのよ。その時の、私たちはまるで神の気分だったでしょう。誰のものでもないこの夜空が、そしてひいてはこの世界が、あの時の私たちはまるでそのすべてが私たちのものだって、私はそう思ってしまっていた。あなたもそんな風に思っていたんでしょう?そして、私たちは太陽を恨んでいたでしょう?私たちの夜空なんていうキャンバスを、夜明けなんていう宿命で台無しにしてくれる存在が恨めしくてしょうが無かったでしょう?だから、あなたは考えた。太陽なんて、夜空を拒絶し台無しにする、そんな象徴でなく、夜空を肯定してくれるような、そんな存在をッ!そして私は、その存在を創り出そうとしていたのに、あなたはどうしてこの夜空を見ることをやめてしまったっていうのッ!これは、あなたが私に教えてくれた夢物語、だけど、その夢物語を滑稽なんて、あなたみたいに馬鹿してしまうことなんて、私にはできなかったよ。あなたの夢物語の前半はまさしく私にとって予言のようだった。あなたの話の通り、私はもうどうにもならないところまで落ちてきてしまったよ。そう、本当にどうしようもないほど下に、どん底へと堕ちてしまった。この夜空を見上げようとしても、あまりにも遠すぎて、何も見えない、見出すことができない、そんなどうしようもない袋小路に堕ちてしまったんだよッ!私はもうどうしようもないこの今をどうにかしたいとずっと思い続けていたよ。でもそんな試みの一切は全くうまくいかなかった。そして、私がその行き止まりにぶつかってしまうその度に私はあなたとの幸せだったあの時を思い出して、あなたが語ったあの話を思い出していたよ。その話の中に出てきた一つの星座...そう、あなたが創り出した星座の一つ、完全な円環、まさに世界すべてを象徴するモチーフ、その名は『スパイラル』。そう、この存在を知ってしまったあの時から、私にはもうこの選択しか無かったんだ。たとえ、それが今まで積み重ねてきたすべてを無に帰すことになったとしても、あなたの話してくれたあの世界は、あなたはこの世界は地獄だって、一人よがりだって、そう戒めるように話していたけれど、私にとってそれは天国だったからッ!
嗚呼、完全な円環よッ!この宇宙の星々の色彩を一手に集めて、虹色に輝く、そんな星々の連なり、虹色の円環よッ!もっと大きく広がって、もっともっと速く輪舞れッ!そう、この円環でもって私は私の世界を成すッ!そしてその、世界の中で私は、何千、何万ものサインを手にし、自由意思でもって操り、ついには宿命を殺すだろうッ!
今までの世界がうねり、渦を成す。そう、これが終焉、かつての創り出した神の世界の終わり、そうそれは契約の刻、神が成し遂げられなかった、成し遂げたかった今までの世界の消滅。それが、今まさに成し遂げられようとしていたッ!
私の渦の中心に引力が集まって、そこに現れたのは銀河、まさに白銀の世界、『宇宙』なんて無限から切り取られた私だけの宇宙だったッ!そして私はその中心で、この今を笑っていくッ!なんてこの光景は、綺麗なんだろうッ!この美しい景色を私はずっと思い描いていたんだッ!
「嗚呼、そうかよッ!」私の背後で誰かの声がする。それは、彼の声?
「なあ、選択したんだよなッ!お前はッ!」俺の手には、ナイフが握りしめられていた。自己犠牲のナイフ、アセイミーナイフがッ!彼女は俺を見て驚くような声を出している。「どうしてあなたがここにいるの......ここにいるっていうのッ!」「どうしてって?そうだな。もう、逃げることはやめたんだ。そう、俺もお前に倣って選択したんだよ。」「フフフ。あなたは何もわかっていないようねッ!そんな選択なんて、今更なんだってことがさッ!あなたは私から逃げた。あなたは私を遠ざけた。あなたは私の死にざまを見て勝手に諦めたッ!そんな奴が、どうして今更、恥すら感じないで私の前に立っていることができるって?一体お前は、何様のつもりなんだよッ!」「そうだな、俺は今でもお前のことを友達だって、この世界で一番大切な存在だって、そう思っているよ......っていえばいいかな?」「そうか、あなたはまだ、私と友達みたいな感覚でいるんだッ!そんな舐め腐った言葉をよくもつらつらと並びたてることができるよ、本当にッ!嗚呼、流石、小説家気取りがッ!でも、お前は所詮、お前の世界でその力を働かせることができた、それだけに過ぎないんだろうよッ!遅い、遅いんだよッ!だってもう、この世界は、私の世界なんだからさッ!」しかし、彼はそんな私の言葉を聞いて、その刹那笑い出したッ!「そうか、そうかよ。これがお前の世界かッ!そうか、そうかッ!なんてちっぽけで、なんて寂しい世界なんだろうな。こんな、誰もいない雪原だけの世界に、あなたのそんな自己満足の世界に、何が面白くて生きていたいと思うんだろうなぁ!」その刹那、彼は私にその携えたナイフで切りつけた。その瞬間、私はなぜか痛みを感じていた。どうして、私のこの世界には「死」なんて存在しないのにッ!そう、考えている私の心を読んでいるように、彼は笑い出す。「そう言えば、言ってなかったよな。俺は一体何を選択したのか......」彼はその握りしめたナイフを見て笑い続けている。「残念だったな。これはただのナイフじゃない。これは、俺のサインだ。そう、お前のサインを、その宿命の渦を断ち切るためのナイフだよッ!」空間がうねる。しかし、そんなのは誤魔化しでしかない。この現実をまるで夢の中にいるように誤魔化しているだけなんだ。そう、彼女はそのことをわかっていない。そんなことに意味は無いということに気づいていないんだ。いつか、人は死んでしまう。そんなことはもう、どうしようもない真実だっていうのに、あなたの心にある傷は、思い出は、世界が生まれ変わっても、あなたが生まれ変わってその罪を拭うことができなかったのと、全く同じように、消えることなんてないというのにッ!これからが何だっていうのだろう。今までと向き合うことができていないのに、今までと向き合うことすらできていないというのに、これからと向き合うことなんて出来るわけがないんだっていうのにッ!「お前の選択は気持ちが悪いよッ!所詮、お前は神の真似事をしているだけに過ぎないんだよッ!だから間違えた。そしてその無知蒙昧のお前の絶望の象徴として、俺の存在が今ここに在るんだッ!」私は絶望なんてしていなかった。そう、この光景は、この世界の光景はまごうことなき美しさを称えていたからッ!それに私は彼のその言葉が許せない。そもそも、これは、この話は、お前が話してくれた夢から始まっていたというのにッ!もう、私は後戻りなんてできないのにッ!今更、今更だってことがわからないのかッ!「俺もお前が許せない。そう、それは俺の夢物語だった。そう、ただ夢として、ある意味不幸せな現実から逃避するための手段に過ぎなかったというのに、お前はその希望を俺の今のこの絶望に解釈して、そして実行してしまったんだからなッ!」俺は考える。かつて、神が成そうとした世界の消滅も、この罪滅ぼしだったのかもしれない。そう、神も俺と同じだったんだ。なんて滑稽なんだろう。『始まりと終わりは同じなんてさ......』「これが原罪の、神が起こした最初の殺人の顛末そのものだよ。わかるか?お前は、最初の神と同じ顛末をたどろうとしているんだ。いや、最初の神でなく、最初の奇蹟、まさに最初の『人』と全く同じ宿命を背負っているんだ。そして、俺はようやく今、気づくことができたよ。俺は神の宿命を背負っているんだってッ!まさに、このアセイミーナイフは神殺しのナイフだったよ。まさに俺がこの業の責を贖うためのナイフだった。なんて滑稽なんだろうか...そしてどうやら、俺はお前を解放させることができないみたいだ。嗚呼、残念ながらチェックメイトの様だよ。俺は、そしてお前もなッ!!俺はすべてを忘れてしまうだろう。そして多分、俺は同じようなことを繰り返してしまう。これは、このナイフは俺のこころの傷なんだから。繰り返されるモチーフに成り果ててしまうからッ!」わかっているよ、私はもうとっくにそんなことわかっているよッ!だけど、だからこそ私は理解できない、そんなあなたの選択を......どうしてあなたは、自分自身が犠牲になる道を選ぶの?それこそ意味がないっていうのよッ!夜空を見上げながら、その星を適当につなげていたあの時は、ただ星が綺麗だって思っていたあの時は、私たちが互いの傷を慰めあっていたあの時は、すべて無駄だって、あなたはそう思っていたの?私は肯定したいよ。あの時こそ、私たちが生きていたって、そう思うことができた今だったんだって、そう肯定してしまいたいのッ!そう、私はあの時を肯定するために、それ以外のすべてを否定してしまいいたいの、今までも、そしてこれからだって、この今だって、嗚呼、まさに今のあなただってッ!
読んでくださってありがとうございます。
次回 (仮称)
~~~訣別~~~




