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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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第3・10章 渦を成したプロット #1

俺は俺の姿を見てしまった。記憶を手放さないでいたいこの俺の姿を......そう、俺はそんな俺の姿を見て、なんて滑稽で惨めで、なんて見っともないのだろうと感じてしまった。記憶、その中には確かに俺が俺だって自信を持って言える出来事が、出会いがあった。だけど、それと同じくらい、俺は俺を否定してしまいたいと、自分自身が嫌になってしまうような出来事があった、裏切りがあったんだ。俺はその記憶を見てそのたびに、後悔を抱いて、やり直したいと思い、そんなことができないと思い直して、そんなことを一度でも考えてしまった自分自身が嫌になってしまうんだ。そんな記憶のスパイラルが、後悔の渦が、俺の記憶を、そのすべてを否定して、壊してしまいたくなって、だけど、それは自分自身を殺すことだって、そう思ってしまったから、だから、俺は惰性で今までを生きてきてんだ。そう、俺の記憶が創り出したこの世界に、惰性でまるで海を茫然と漂う海月のように、ふらふらと信念も何も持つこともなく、生きていて楽しいなんて思うこともなく、死んでも生きても変わらないと、そんな風な思いを、ずっと思い続けていたんだ。だから、俺は今、ここで本当に殺されても、なんの文句だって言えないんだろう...


記憶、それはナイフだった。この世界を切り取って、己の心のキャンバスを彩るそんなナイフだったんだ。だけど、俺はそのナイフを、この己を殺すための凶器にしてしまった。俺が生きていた世界なんて、もう不明瞭に成り果てた。まるで、どこにもたどり着けない、堂々巡りの渦の様にッ!嗚呼、その渦が描かれたキャンバスには、何も見つけることなんて出来ない致命的な穴が生まれてしまったよ。どこまでも続いてしまっているような、まさに終わりがないような、底なしの穴ができてしまったんだ。そして俺はその穴の底に辿り着こうとして、でもそんなことできないで、できるわけがなくて......まるでそれは底が無いことはもうわかっているのに、そのことに知らないふりをしているみたいで、自分自身を騙しているみたいだった。いや、むしろ俺は俺を騙してしまいたかったのかもしれない。そして、俺を騙して、その穴の底を必死に追い求めている、その間だけは......俺が俺の仲間たちと、一緒に同じ方向を向いているときだけは、その時だけは、俺は俺じゃないって、そんな風に思うことができるって、そう感じてしまっていたんだ。たぶん、俺はもう死んでいたんだ。そう死人には、口も、瞳も、耳も、そして存在すら認められない、認められるわけがない。認められてしまったら、それは生きているその他大勢の存在を傷つけてしまうから。俺は仲間を、俺自身のために傷つけたくなんて無かったから。


そう、俺は無知で呆然と生きていたから、こんなことになってしまったんだッ!そう、まともに考えるなんてことができていれば、彼を助けることができないなんてことはわかっていたはずなのにッ!そう、俺はこの現実を見て見ぬふりをしていたんだ。そう、俺は俺自身も知らないうちに、別人の振舞いをしていたつもりだったこの今ですら、死人だったってことに気づかされてしまったんだ。そう、ただあの海で漂って、彼女を見殺しにした俺のままだって、あの時から俺は何も変わっていないって、俺は知ってしまったんだッ!だから、これは自業自得なんだって、すべてが、この終わりなんだって、これが報いなんだって、知ってしまったから。俺の仲間は死んでしまった、なのに俺はただ逃げて、逃げて、今、その報いが成就されようとしているッ!まさにそれは、この死に様は、俺が海で漂う俺の姿を見た時に想像した通りの、そんな死にざまだった。この死に様を思い描いたときは、この死に様に恐ろしさを、そしておぞましさをあんなに感じてしまっていたのに、今見れば、これはなんてことのない、ただの死だった。嗚呼、当事者になってしまえば、ただの思い描くことのできるあらましだな。どうやら、俺は死を忘れて、今まで楽していたんだ。嗚呼、なんて馬鹿みたいなんだろう。そう、俺が、そんな風に死を覚悟したその時、俺の目の前にその男は現れた。その男の名は”宇野壱(うのはじめ)”。


俺はその彼の姿を見て、息をのんでいた。その男の首には、その男の首筋には俺と全く同じ傷があったから。彼は言った。「記憶、それを失えば、お前は今のお前ではなくなるだろう。」嗚呼、そうだッ!俺は俺じゃない誰かに、まさにこんな記憶を手放してしまいたかったんだッ!俺はそんな提案を、そんな甘い誘惑のような、その男の契約なんていう言葉に頷いてしまっていた。俺は海の中で、あんな海月のように漂ってなんていたくなかった。例えるなら、俺は海の中で、保持されて、それでわからないように消えて戻ってを繰り返す、そんな水の中で生きることなんてやめて、俺は激しい雨の降りしきる中で生きていたいと、ずっと欠落して消えていく記憶の中で生き続けてみたいって、そんなような世界で生きたいなんて思ってしまったんだ。そう、生まれ変わって記憶が一新されてしまえば、俺はたぶん別人になってしまうだろう。だけど、今の俺はそんな俺を夢想するだけで幸せを感じてしまう。どうしようもないこの今を、この無意味な今に、価値を見出すことが、その俺ならできるって、そう感じることができる今がどんなに幸せなんだろうって、俺は思ってしまったから。だからッ!「もう、俺はどうでもいいんだッ!だから、この選択のすべてはお前に委ねることにするよ...」どうして?どうして、あなたはこの期待を、まさに勝ち逃げ、海から出て、雨が降り続ける連続の記憶の中で生きることのできる予感を感じている今にそんな、すべてを諦めたような顔を、表情をすることができるの?宇野?お前は、そんな瞳を、すべてを諦めたような、お前を出会う前の俺みたいな顔をしてしまっているんだよッ!嗚呼、そうか、あなたは怖いんだ。死ぬことがッ!なら、じゃあ、あなたにはこの俺の記憶を分けてあげるよ。この何度も何度も死んでは、やり直してきた惰性の今までの死の記憶、全く価値のない、そんな記憶をさッ!


互いの記憶をナイフにして、もう後戻りができないように、自身の心を完全な密室にするために、互いの記憶でもって、自分たちの耳を切り落とすッ!そして俺は、その傷が、そのナイフで切った傷痕を見て、死を悟った。その傷痕から始まる走馬灯、今までの連想、まるでそれはキャンバスに描かれた穴に身を投げるように、それは今まで漂っていた海をひっくり返してしまうように、そしてそれは、今までの記憶を否定して、自分自身のこころ、自分だけのこころ、その存在を肯定する、これはそんな儀式だったんだ。俺は落ちていく自分自身を夢想して、そして僕に連れ立って落ちていく雨の香りを、身体に触れた瞬間に自覚する新鮮な雨の冷たさを意識しながら、そしてその雨が口に滲んで、そのしょっぱい味を感じながら、この世界は、落ちていくこの穴の先、無かったはずの世界の地面が雨でぬれていく、なんて光景を想像してしまっていた。なんて美しいんだよッ!この景色は、この光景はッ!来ている服が、この雨で重ったるくなっていく。そう、俺は服を見て、その服は真っ赤に染まっていた。そう、俺の首筋から流れていた血で、俺の今までの流してきた血で、今まで俺が物理的に、精神的に死んでいったたびに流れてきた血でもって、穢されていった。嗚呼、そうだな。そんな虫のいい話があるわけなかったんだッ!最期は自分自身が、この今までに蹴りをつけないといけないんだろうからッ!そう、今のこの醜悪な痴態なら、この今までの汚れが前面に押し出された、こんな雨の水球一つ一つに映し出されたこの顔を見れば、何を躊躇うことがあるだろうか。こんなに世界は綺麗なのに、こんなに俺は汚く、こんなに世界は広いのに、僕が僕だって思うことのできる場所は、限りなく小さくて、そして、今の僕なら、この世界を知ってしまった僕なら、この何もできないと悟ってしまった僕なら、なんだってできてしまうよッ!そう、なんだってッ!だって、できないことは、もう想像することなんて出来ないから。そう、俺の今まではまさに夢だったんだッ!そしてそのなんでもできると感じていた、そんな無責任の夢の今までが現実の俺の居場所を消していったんだッ!そして今、俺はようやく、目覚めることができるようだよッ!そう、これが夢の延長線上だって思えば、何も怖くない。痛くななんてないんだろう。俺の心はもうすでに、動くことはないのだからッ!


記憶のいらない、そんな天国を夢に見て、そんな世界に飛び込んだはずだった。そしてそれは本当の死になっていたはず......だった。なのに、どうしてだろう。俺は消えなかった。俺は、橘自由。俺は宇野から聞いていた話と全くもって違う様相の今に戸惑ってしまっていた。確かに、身体は別人のようだ。それに世界も今までとは全く違ったように見える...ってここはどこなんだよッ!


俺は色とりどりの扉、七色の扉に囲まれた円卓の中央でただ一人ポツンと座っていた。そして俺は辺りを見渡してこの場の情報を掴もうとしていた。しかし、どうにもこの場所が皆目見当もつかない。俺はここに来るまでの記憶を思い出そうとしても、どうしてか、その一切はなく、わかるのは俺がこの場にいる前、高いところから落ちていくそんな夢のような現実のような光景の中で落ちて堕ちていくあの光景と、そこに至る過程だったから。そう、俺は覚えていた。失うはずの記憶をッ!橘自由だった今までの記憶をッ!俺はそのことに気づいたその瞬間、まるで裏切られたような最悪な気分だった。どうしてッ!俺はもう、死んだのに、死んだはずなのに、どうして、こんなことになってしまったというのだろう?あの宇野が話した内容のすべてがただのペテンだったのだろうか?いや、でも彼の、すべてを諦めたようなあの表情は、そして契約なんていう言葉の重さは確かに、その言葉が真実だって、本当のことだって伝えていたと感じることができていた。俺は彼が俺を騙したなんて感じられなかった。むしろ、俺達は、あの儀式をどこかで間違えてしまったのだろうかなんて、俺は考えてしまっていた。そう、俺がそんな風に考えながら周りを見渡したその瞬間、どこからか何かを叩くような音が聞こえてきた。それは、俺の目の前の、赤色の扉を叩くような、そんな音だった。そして次の瞬間、その扉は開け放たれた。そしてそこには一人の少女、見覚えのある少女の姿があった。どうして?彼女はよみ...?


俺が予期せぬ彼女の到来に、戸惑っていると、そんな思いとは裏腹に、この口は勝手に言葉を紡ぎ出した。「遅いぞ。イブ。」イブ?俺は俺の口から出てきたその言葉に戸惑った。イブ、イブだって?どう見ても彼女はよみ......「なによ、ウノ。偉そうにッ!あなたが急に呼び出すから、仕方がないでしょうがァ!」彼女はそう、怒りを滲ませながら俺を糾弾するように、捲し立てる。そう、俺は信じられなかった。彼女は確かによみじゃない......みたいだった。でも、彼女の姿は他人の空似と言うには、あまりにも似すぎていたから、俺は内心......、俺は彼女に対してやりづらさのようなものを感じてしまっていた。そして、この勝手に言葉を発したこの口はどうやら、俺が気づかないうちに、己で動かしていたみたいだった。それはまるで、俺自身が俺に操られている、そんな変な感覚だった。そんな感覚に、何処か狐につままれているような思いを抱いていると、唐突にその彼女を窘めるような声がこの空間に現れた。「まあ、落ち着いてくださいよ。ここで争っても無駄なだけですから......」俺はその声が聞こえた方を向いた。そこには二人の男が、俺の気づかぬうちに、この円卓の長椅子に腰を掛けていた。俺は彼らの一人、その言葉を発した男に、言いようのない既視感を感じていた。彼は天翔?そして、その背後にいるのは誰?その男は緑色のサングラスをかけて、こちらを見た後、その口元をにやりと歪ませた。

その笑みを、俺はどこかで見たことがあるような気がした。一体どこで?


俺は考えていた。彼との契約の顛末を。彼の契約の説明、記憶をすべて差し出して生まれ変わるなんて言葉は、この今を慮るなら全くの嘘だって、そう思えてしまうだろう。しかし、全くの嘘だって考えるには、俺はまだ少し早計だって思ってしまう。


その理由の一つ目は、俺が意図しない言葉が発せられた点だった。彼らの呼び名(と考えられる。)イブやらアトロやらは俺の頭には一切浮かんできていない、まるで条件反射のように現れた言葉だった。そして俺はその呼びかけを、俺じゃない誰かの声色で(たぶん、宇野がかつて話していた声色で、)自然に話すことができていた。


二つ目に、俺のことを、誰も疑っていない点だった。どうやら、俺は未だに自分自身を橘自由であると疑いようもなく感じているが、俺はどうやら彼らに宇野だって、全く疑う素振りもなく信じられているみたいだった。俺はもし鏡があるならはやく、自分自身の顔を見てみたいと、そう感じてしまっていた。


そして三つ目に、俺のこころに湧き上がる警鐘のようなものが挙げられるだろう。俺は何かを忘れている。誰かを忘れている。俺の、橘自由の記憶には、そんなような致命的な欠落がいくつか存在していると、僕は記憶を見つめる中でそんな記憶の欠落、その存在に気づくことができていた。


~~~

その時、俺は俺の記憶に欠落している部分があることに気づいた。誰かが車を用意してくれて、それに感謝していた俺の姿、そして気持ちの悪さを覚えるような建物の中と外との構造のギャップ、うねる空間と渦を成していたあの時、そして、彼らは......そして、俺はもう逃げることしかできなかった。その後に...

~~~


たぶん、俺達にはもう一人仲間がいたはずだ。そうだ、俺達はその誰かを助けようとしていたはずだった。どうして、俺はそう思ってしまうのか。その男、アトロ(天翔)の陰に隠れるように、頷いてばかりのその男、彼らにゼクスと呼ばれている男、彼にも、俺は彼らと同様、いやそれ以上の既視感を抱いていたから。そして同時に警鐘のようなものを、俺は、俺のこころはけたたましく鳴らし続けていた......


俺はわからない。その警鐘の理由が、本当にわからなかった。だけど、その警鐘は、俺の心に鳴り響くサイレンのように、明らかにヤバいというように、今を告げていた。そう、それはそんな風に、あまりにも明らかな警鐘、例えるなら目の前に落とし穴があって、俺はその存在に気づいているというのに、その落とし穴のある方向に向かって歩いていくときのような、記憶や経験に基づいた約束された結果が待ち受けている、そしてその結果は俺にとって悪いことだっていうのに、それを見て見ぬ振舞いをしている......そんなような予感を告げているみたいな警鐘だった。そう、だから、俺はその警鐘の理由がわかっていない今が、とても気持ちの悪く、恐ろしいことのように思えてしょうがなかった。


その時、俺の頭の中に一つの疑問が生まれた。どうして、この警鐘は、こんなにも明らかだっていうのに、俺はこの警鐘がなっていることの明確な理由に気づくことができないのだろう?こんなわかりやすく、この警鐘は鳴り響いているのに、どうして俺は何もわからないのだろう?その時、俺はその疑問に対する一つの答えを思いついた。そう、この警鐘のが指し示しているのは、俺の欠落した記憶の手がかりなんだってことを、今まさに繰り返されようとしている、まさに因果なんだということをッ!そうだ、俺は覚えているッ!宇野が言ったあの言葉ッ!こころは変わらないという言葉をッ!そうだ、これはかつての俺が、俺のこころ(ゼーレ)に刻み込んだ、サインなんだッ!


俺はもう迷わない。もう俺は後悔もしない。そう、俺はもう諦めない、言い訳も逃げもしないよ。俺は卑怯者なんだッ!今までずっと逃げて、逃げてを繰り返して、そうして後悔ばかりを積み重ねた愚か者なんだろうさ。だけど、俺はもう過去の自分とは決別することを決めた。そう、それが生まれ変わったって、そう言うことなんだって、俺は思うことにしたッ!それに、もう俺は、仲間が、『死んで』しまう姿なんて見たくないからッ!俺はこのこころに刻まれた何千、何万ものサインを使い、俺は俺の道を征くッ!

さあ、今を切り開き、道を成せ、サインよッ!

読んでくださってありがとうございます。

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