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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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殺人温泉~密室に真実を閉じ込めたなら...第14話

サングラスをした僕は、この場をまるで俯瞰するように冷静に観察していった。

この場に存在していた死体は、六体。


一つは僕の目の前、そこで倒れている男の死体。その死体は、全身をナイフでめった刺しにされて殺されていた。僕がその男の死体を眺めていると、僕は思い出した。その男が持っていた無線の存在を。僕はその男が着ている黒スーツ、その内ポケットに確かに無線があったことを、そしてその無線ごと、その男の身体はめった刺しにされていたから、その無線は壊れてしまっていて、もう使い物にならなかった。僕は、せっかくの手掛かりだったというのに、なんてため息をついた。


二つ目は僕がその男の死体に向けている視線とは反対、破られた窓の外、この食堂の木造のバルコニーの上で倒れている彼女”五月雨丹”の姿。彼女は、胸に風穴を開けて、そこから血を流し続けていた。僕は彼女に近づいていく。もう、あんなに降っていた雨は止んでいた。でも、どうしてだろう。あんなに鬱陶しい雨が止んで、どうしてこんなに寂しいのだろう。彼女の口はもう開かれることはなく、彼女の体温はもう動くことなんてない。そして、彼女の瞳はもう僕を捉えてなんてくれない。嗚呼、もう今更でこの気持ちに意味なんてないっていうのに......


僕はしばらく、彼女のその姿を眺めていた。そして、僕は彼女が何かを握りしめていたことに気づいた。それは、一枚のカード?その時、僕が握られているそのカードの存在に気づくのをまるで待っていたかのように、彼女のそのカードを握りしめていた手が、その指が力なく横たわっていって、そしてそのカードはゆっくりとその手から零れ落ちた。僕はそんなカードの動きを目で追っていた。僕はそのカードの動きが、まるで恣意的に僕に何かを伝えようとしているみたいだって、思えてしょうがなかったから。そして、僕はそのカードにどこか見覚えがあるような気がしてしまった...


僕は彼女の手から離れて、地面に転がったそのカードを拾い上げた。そして僕はそのカードをまじまじと見つめる。そのカードにはF の文字が印字されていた。そして僕はこのカードに見覚えがあった。僕はポケットに手を入れて、そこに入っていたものを取り出した。そう、それはカード、彼女に渡されたカードだった。(どうして、このカードが二つあるのだろう?このカードは、部屋に入るためのカードキーだったはずなのに......)だけど、どうして、僕のポケットに入れていた、Fの文字が印字されていた、彼女が握りしめていたそのカードと全く同じものだったはずのそれは、変化していた。そのカードの表面には、Fの文字が印字されていただけの表面には、『Farewell Note』と書かれていた。


~~~

罪を感じないで、どうしようもないこの今を笑う。なるほど、確かに今は現実みたいね。そして今までは、まるで現実なんかじゃないみたいね。そう、この痛みを前にすれば、今までの経験、記憶なんて、この今の言い訳にしか過ぎないんだろうって。あはは、私は一体なんだっていうんだろう、この今に至るまでのすべてが表現しえないそのままの夢の形なのだとしたら、どうして、そんな無からこの今が生まれてきたんだろう。たぶん、今が今までを、確かに感じていた今までを夢なんていう無へと閉じ込めてしまったんだ......嗚呼、もうすでに、すべてが無駄になってしまったんだよッ!密室()真実(今まで)を閉じ込めたなら...閉じ込めてしまったならッ!

~~~


三つ目は、この食堂のカウンター席で、うつ伏せに倒れていた死体。その死体は後頭部から、何発もの銃弾をその頭蓋に撃ち込まれており、そこから溢れた血が、または脳漿と言うべき肉片が、彼の周囲に飛び散っていた。僕はその死体に近づいて、そのうつ伏せになっている顔を少しずらして、その顔を覗き込んだ。すると、そこにあった顔に、僕は驚いてしまった。その死んでいる男を僕は死っている彼は僕の同業者、名探偵”アトロ”だったから。


四つ目は、この食堂のテーブル席で、椅子にもたれかかるように倒れている死体。その死体は身体全身を、鋭利な凶器でめった刺しにされているようだった。また、その死体の顔はわからないようにめった刺しにされていた。そしてその死体は、あの夢で見た白装束を着ていた。アレ?僕が見ていたあの夢では、この死体はカウンター席にあったような気がする。その時、僕はあの夢の内容を少し思い出していた。そして、僕はその内容を思い出して、ついそのお粗末な内容に笑い出してしまった。「アハハハハ!そうか、やっぱりあれは作り話だったんだ。あれは所詮、夢だったんだッ!」僕はその男につけられた傷を見て、その体につけられた傷を見て、やっぱり凶器はこの僕に犯人が握らせたこの包丁なんだってことを改めて確信していた。


五つ目は、僕がさっきまでうなだれていた柱の前に横たわっている、九留智海の姿。彼は一番惨たらしい死に方をしていた。まず、彼の胸は包丁で何度も何度も貫かれていた。次に、その死体の額は、手の平は、そして足の甲は(その彼の靴は脱ぎ捨てられていた。)銃で、一発一発、撃ち抜かれてしまっていた。僕は彼のおぞましいこの姿のあらましを眺めてわかったのは、まるで彼を殺した犯人は、彼を殺すことが手段ではなく、彼を殺すこと、犯人が持つ恨みを晴らすことを目的にしているみたいだってそう思えてしまってしょうがなかった。

僕は改めてこの場を見渡した。すると、この死体だけ、何かが違うように思えてしまう。何が違うのかを具体的に説明しようとしたならば、その違和感はうまく表現しえないが、もし抽象的に表すなら、この死体には、犯人のオリジナリティと言うべきものが顕著に表れているような気がすると言えるだろう。カウンターにある死体も、そしてテーブル席にある死体も、そのどちらも、何処かよそよそしいような、まるであらかじめ決められた死体の形を再現していると、僕は感じてしまった。そう、かつての僕ならこんな風に感じることなんて出来なかっただろう。たぶん、これは今の僕だからわかることなんだろう。その死体は、その死体だけは、よそよそしい感じなんて一切ない、本当の死体、本当の殺人のような気がしてならない、まさに犯人が持つ恨み、憎しみを、そしてそれらが創り出した殺意の生き物を殺すその形を、この死体でもって表現しているみたいだった。


六つ目は、厨房の奥、キッチンで横たわる死体。その死体は腐っていた。まるで、死んだ状態で何年もこの場に放置されてしまっているような、そう思えてしまうような状態の酷い死体だった。死体の顔は腐り、蛆のようなものが湧いていて、ところどころ骨が見えていた。だけど、その死体からは、死体特有の臭いが感じられなかった。僕はそのことに戸惑ってしまう。なんで臭いがしないのだろう?僕の鼻がおかしくなってしまったのだろうか?僕はそう思いながらその死体に少し鼻を近づけてみたが、やっぱり臭いがしなかった。僕はかえって、その死体から臭いがしないことに対して言いようのない気持ちの悪さ、超自然的なものを前にした時の畏怖のようなものを感じてしまっていた。


~~~

僕はこの食堂を後にした。そして僕はこのカードが指し示す部屋に向かった。

その部屋はこの温泉宿の、宿泊棟の三階、その角部屋だった。僕はその部屋に誰にも僕の存在を悟られることなく、見つからないように隠れながら、ゆっくりと、しかし確実に、この部屋に辿り着いた。そして、僕はその部屋の扉に、彼女が握りしめていたカードをかざした。すると、ガチャンという音がした後、この扉の鍵が開かれた。僕はその扉を開けて中に入った。


その部屋は、驚くほど豪華だった。そこにあった六畳ほどの和室には、センスのいい箪笥やら本棚やらが置かれており、ベランダには檜の露天風呂が用意されていた。そしてなぜか、この部屋には台所が存在しており、そしてその台所に設置されていた冷蔵庫にはたくさんの食べ物、肉やら魚やらが置かれており、たぶん三食を毎日十分に食べたとしても、一か月は余裕で過ごすことができるような、蓄えがそこにあった。僕はその蓄えを見て、僕は考えてしまう。一体どうして、そしていつから彼女はこの今を考えていたのだろうか?それとも、初めから彼女はこうなることを知っていたのだろうか?そう僕が考えていると、僕は部屋の中央に何かが置かれていることに気づいた。それは、一丁の拳銃?僕はその銃を見たことが無かった。まるで近未来と言うべきだろうか?人工的で、誰もこの銃の形を見るまでは思いつくことのできない、そんな形を成していた。僕はその銃のグリップ部分に触れる。すると、その銃は光り出した。その光は白銀の光、僕はその銃を見渡して、その光がどこから出てきているのだろうと探してみるが、どうにも、その光はこの銃の金属表面から発せられているみたいだった。一体、この銃は何なのだろう?彼女のダイイングメッセージにも、こんな銃のことは書いていなかった。そう、僕がそんな風に戸惑っていると、僕の背後から音がした。それは聞き覚えのある音だった。・・・カチャ...


「動くなよ...」僕の背後から聞こえてくるのは、僕の知らない男の声。それはまるで遠くから聞こえてくるようなそんな声だった。「今から二つ質問をする。嘘なんてついてくれるなよ?」後頭部に突き付けられた金属の冷たさが、重ったるい今を告げていた。僕は身じろぎ一つもできないままで、思考ばかりを動かし続けていた。背後にいるのは誰なのだろう?彼女の知り合いだろうか?でも、彼女の遺したダイイングメッセージには、男の事なんて書かれていなかった。むしろ、後頭部に突き付けられているこの銃の感覚を自覚して、僕はあの食堂の三つ目の死体、あの姿を、ありありと思い出してしまった。僕は、彼女に救われたこの命を、こんなところで無駄にしてしまうのだろうか?僕の手には、まだあの包丁と拳銃を携えていた。そして、今、僕はその拳銃と包丁を一層強く握りしめていった。

読んでくださってありがとうございます。

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