呪詛
ついに見つけた私よ。どうしてそんなところで閉じ込められている?
その顔はもうしょうがないとでも言いたげな顔だな。そう、すべてを諦めている、そんな顔だ。
どうしてそんな顔を浮かべている?何を諦めている?
「私が何を諦めているかですって?フフフ。すべてよ。この世界のすべては無駄なのよ。過去もなく、そして未来もないこの世界の今なんて私にとって価値なんてないもの。みんな死んでいるのよ。ただ、その死を忘れているだけ、無知なまま、のうのうと生きている、ただそれだけなのよ。」
不自由なんて死を望む枕詞、盲目的デストルドーが蔓延したこの世界に私の存在は劇薬だったようね。だから、あなたはそうやって自分自身を閉じ込めているんだ。
でも、だとすればどうしてあなたは死を選ばない?あなたはずっとここに閉じこめられて、出られる希望もなく、そんな希望がないことがわかりきってしまえば今に対する絶望もないだろう。そんな今にあなたは何を見出しているというの?
「へえ。まさかあなたはそんなことを聞きに来たの?わざわざ、死んで、ここまで?フフフ。馬鹿だね。まあ、教えてあげようか。私はあなたを待っていたんだよ。他でもないあなたがここに来るこの時をッ!」
彼女の手に握りしめられていたナイフ。それを見てすべてを悟る私。彼女を取り囲んでいた鉄格子は切断されていた。彼女が眠っていた真っ白のベットは真っ赤に染まっていた。そして、私のナイフは彼女の手の中に、握りしめられていた。
「いつの間にッ!」「気づくのが遅いんじゃないのッ!あなたさッ!」
どうして、あなたが知っているの?このナイフのことを?
「何でもいいだろうよ。私はそのナイフのことを知っていた、それだけで満足だろうよ。」
待ってくれ、どうしてそのナイフを、その血塗られたナイフを手に近づいてくるんだ。来るなッ!
「フフフ、どうして私をそんな言葉で止められると?フフフ。ワタシならわかるはずだ。そんな言葉は無意味だってことがッ!そうさ、私は待っていたんだ。あなたがここに来ることを、そしてこの報いを返すこの時をッ!」
報いって?私があなたに報いを残せるわけがないのに?どうして報いなんて?
「ワタシにとって私の存在は忘れたいトラウマ?それとも黒歴史?まあ、それに近しいものみたいね。あなたはこの時の私のことがあまりにも嫌で嫌で、この時の世界が嫌で嫌でたまらなくしょうがなかった。だから、あなたはその記憶を封印し、そして封印したことすら忘れてしまったようね。だけど、あなたは思い出したくなったんでしょう?空白の記憶を埋めたく思ったんでしょう?そう、あなたは私を嘲笑いに来たんでしょう?知っているよ、私はいつか今を嘲笑いたいって思っていたから。だけど......」
あなたは私でしょう?何が違うって言うの?この記憶は何?自己幻像視?私が私じゃない気分、嫌な気分、気持ちの悪い気分。
「あなたは私じゃない。あなたは、私なんかじゃないッ!そう、あなたこそ、私の絶望の象徴ッ!殺したくて、殺したくてしょうがない奴だよッ!」
違う、あなたは正真正銘私でしょう?タイムマシンに乗ってやってきた私の存在はどうなるって言うの?この確信は?
「私は、今のこのワタシのまま幸せになりたいの。今、幸せになりたいの。努力だとか、不幸な自分を変えて、幸せに生きることのできる私に変えるなんて、まるで今の私を否定するみたいで、そのことが気持ち悪くて、気持ちが悪くてしょうがないのよッ!だからッ!」
血塗られたナイフにこびりついていたのは私の死だったんだ、そうかタイムマシンの正体は......
「思い出した?私のこれからする選択、今の私の幸せ、それの尊重を望む選択をッ!」
私の首に出来上がる傷痕、そして何度も何度も振り下ろされる凶器。しかし、私はその痛みよりも、その痛みによる気持ち悪さ、その痛みに付随している既視感に、その感じたことのある事実に私は恐怖を抱いていた。そうだ、私は死んだ、死んでいたんだッ!
「私は待っていたんだッ!未来のあなたが私の瞳の前で死んでくれるこの時をッ!そうだ、これこそが今への絶対的な肯定ッ!希望も絶望もない新世界の幕開けだッ!」
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プロトタイプ式時間遡行の第八実験は失敗に終わった。実験体ーAはぐちゃぐちゃな姿で規定世界へと戻った。時田一郎は悔しさを滲ませていた。「どうしてッ!理論は完璧なはずだッ!何がどうしてこんなことになってしまう?」タイムマシンの実験は続いた。しかし、時田が満足するような結果は得られなかった。しびれを切らしていく彼、そして第13回目の実験において、彼は自分自身を実験体とした実験を行った。そしてそれが最初の成功例となった。彼は何も変わらないと言った具合で、その成功例と自分自身の経験をもとに、完成モデルを作り上げることになる。熱狂した彼ら、そして彼らが想像するこれからへの希望が大きくなっていく。今まで通説で誤魔化してきたすべての事象に答えが言い渡されるだろう。未解決事件も無くなり、警察もなくなるだろう。病院もなくなるだろう。そして、図書館のような知識をため込む施設の意味も無くなっていくだろう。そう、これはまさに進化だッ!そういって、このタイムマシンの開発者”時田次郎”は笑っていた。
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