Epigraph. Ⅳ 時間遡行 #4
脱獄編 第六話
俺は、いや私は、私の決断と俺の後悔を思い出していた。朽ちていく希代と墜落する夜見、そして何もできなかった俺。そう、俺は傍観者だった。同胞でも何でもないただの卑怯者だったんだ......
(あの時、俺はどうすればよかったのだろう?彼らと何が違ったのだろう?同胞なら、強い絆で結ばれた私たちなら、どんな困難だろうと立ち向かうことができると思っていた......いや、できたはずなんだッ!)←本当に?本当にあなたは彼らを仲間だなんて思っていたの?そう、あなたはそんなこと思っていなかった。そう、思えるはずがないだろうよッ!あなたは自身の能力を使いたくないと思っていたんだ。責任を負わず、ただ逃げて、誤魔化していたかったから。そう、たとえその行為が誰かを殺したとしても、あなたはその手が穢されてしまうことの方を恐れてしまっていたッ!そう、あなたは彼らをあなたのために見殺しにしたッ!そして、それどころか、あなたは、そうやって後になってからその行為を後悔してしまっているんだ。まさに今のようにッ!ふざけるなよッ!お前はずっと、その退屈な言い訳でもって過去を否定することで今を殺そうとしているんだッ!そうさ、私はお前みたいな奴が嫌いだ。責任を負えず、果たせず、何も成せず、ずっと無責任に逃げてのうのうとしている卑怯者のお前が、嫌いだ。そして、お前は誰かを殺すことに飽き足らず、お前自身も殺そうとしているッ!私たちは過去の経験をもとに生きていくしかないというのにッ、私はそんな道を選ぼうとしている今のお前が、この世界で一番大っ嫌いだッ!
彼らは信じていたんだ。彼らの過去を信じていた。そう、俺は過去なんて信じていなかった。過去なんて存在しないと思っていたから。この世界は今の瞬間、瞬間の連なりだって思っていたから、俺は今までを信じることなんて出来なかったんだ。お前は知っていたんだろ?嗚呼、知っていたさ。知っていたからどこか他人事だったんだろ?嗚呼、他人事だった。俺はかつての傷痕を見ていた。その傷跡は、まるで笑っているかのようにこちらを見ていた。そしてその笑みを見て俺は思い出していた。あの時の選択を。嗚呼、遅い、遅すぎるよ。俺は知っていた。彼らの希望を知っていた。そしてその、叶うことのない希望の残酷さを知っていた。だから......そうだ、俺には覚悟がなかったんだ。希望の残骸を見て笑っていたのはほかでもない俺だったんだ。そう、この末路は自業自得なんだよッ!今、彼らの希望を無駄にして、そして後悔をかき消すくだらない嘘なんてついて、そしてここから自由になりたいなんて感情も無駄ならば、俺は何のために生きていたというんだッ!←うるさいんだよ、後からなら何とでも言えるだろうよッ!やっぱりあなたは正真正銘の卑怯者だッ!
流石、神様のつもりがッ!私の前で姿もないまま喚き散らしやがってッ!
彼はすべてを思い出すだろう。黒い渦を見てしまったから、そして希望の存在を見るだろう。その絶望を見つめてしまったから。そう、その希望は奇蹟ではなかった。むしろ、その希望はこの世界の存在を絶望たらしめるものだった。だから彼はもう逃げないだろう。すべてが無駄だと悟った彼はこの希望を胸に抱き、そしてその希望だけを見つめ、かつての仲間の面影を追い、そしてそのまま死んでいくのだろう。
嗚呼、怖くない。むしろ、すべてが輝いて見える。そうか、これが奇蹟。無から生まれた有か......
彼は前へと向き直る。そして彼は目の前に立つ彼に聞こえない小さな声で呟いていた。「ありがとう、そしてさよなら。」彼はその奇蹟の存在を自分自身の無でもって消し去っていた。「そうか、おまえ。向き合ったというのか?この今際の際で?」希代はそう驚いた声を出していた。「嗚呼、そうだ。」「どうして、今更なんだ?もう遅いというのに。」「遅いからこそだよ。もう、言い訳はしたくないって思うことができたんだ。そう、俺は生きている。生きてしまっているんだ。そう、ようやく俺はこんなわかりきったことに気づくことができたみたいだ。」彼は今と向き合うことができたようだ。そして、その残酷な真実を告げに来た彼は、それを信じることができないと言いたげな顔を浮かべていた。「無駄なんだよッ!お前はッ、諦めて死んでくれッ!この裏切者がッ!」彼の殺意が空間をうねらせていく。しかし、その言い訳は彼を前にして陳腐な物へと変わる。そう、この真実の光、白銀の光を前にしてッ!「そうさ、遅いんだ。もうすべてが手遅れなんだ。だけど、そんな言葉に意味なんてないんだ。俺は今を生きることしかできないッ!そう、この血で血を洗う今をッ!」
彼を纏う光は大きくなっていく。それは正真正銘の光。または絶対的な光。そしてその光は彼の心に反射し残虐な形へと変わる。致命的なナイフ、アセイミーナイフへと。そのナイフに反射した俺の顔は笑って言った。「さあ、続けようぜ。俺とお前との殺し合いをよッ!まだ、俺達は今を生きているのだからなッ!」
光と光が拮抗し、無と無が拮抗する。彼らは本能と感情の狭間で揺れ動き、その光の影となりし心は互いに黒く焦げ付いていく。空間のうねり、祝福でもってその焦げ付きは誤魔化され、くすんだ黄色の光が白銀の光をかき消していく。
しかし、彼の瞳がとらえていた現実はそんな言い訳でかき消すことなんて出来ない。そう、それはあまりにも絶対的な真実だった。この事実が、貶められた現実に入れられた楔へと変わる。
「どうやらこの”今”はもう俺のものになったようだなッ!弐趾原ッ!」光に反射してうつる私の死体、それは全身が鋭利な刃物でめった刺しにされていた。消えていく私の表情の色。そして壁が床が、天井がその死体がまき散らしたおぞましい血でもって赤黒く染められていく。「俺は知っていんだよッ!その力は自分勝手な今でしか使えないなんてことはなぁ!」彼は何度も何度も、そのナイフを突き刺していった。
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