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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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四人目(今までのあらすじ、前編)

俺が光で包まれた先には、地平線の先まで何もない砂漠が広がっていた。俺はさっきまでのあの鬱蒼としていた森の景色とあまりにもかけ離れている光景を目の当たりにしてしまって、少しの間この景色を呆然と眺めていた。照り付ける太陽の光が俺の額にじっとりとした汗を浮かび上がらせていた。のどが渇いてきた。俺は辺りを見渡すが、見渡す限り、砂、砂、そして砂だった。俺は小高い砂の山の頂上から遥か彼方、地平線の遠くまで見渡していたが、この水の渇きを潤すことのできる何か、オアシスのようなものは見つけることができなかった。俺はうなだれてしまった。そもそも、どうしてこんなことになってしまったのだろう?どうして俺はこんなわけのわからない場所にいるのだろう?


~~~今までのあらすじ~~~


自転車が好きで、サイクリングが趣味だった俺は、完璧の自転車”TM-Ride” 、その存在に脳を焼かれてしまった。しかし、その自転車の値段は、俺にとって到底手が出せるものではなかった。しかし、そんな俺を神は見放していなかったようだった。この自転車を先着8名様限定でプレゼントするキャンペーンの開催が発表された。この発表に湧き上がる会場と目まぐるしく動き出したタイムライン、そしてその熱狂は画面から俺の心へと伝播した。俺はその熱狂に駆り立てられ、応募写真の撮影を開始した。しかし、俺がこの写真をポストに投函するときにはもう、この自転車を絶対当ててやるなんて気持ちはもう鳴りを潜めていた。タイムラインに流れてくるの写真は、どれも俺の写真なんかよりずっと素晴らしいように感じられた。この時の俺は、彼らと俺の写真を見比べてしまって、そのために俺の写真にあったはずの自信のようなものは消え去ってしまった。そして、彼らのような素敵な写真を参考にして撮り直そうと思っても、彼らは写真を撮るためにT社の自転車を買い替えたりする等、その写真を撮るために彼らはたくさんのお金を費やしていた。そう、俺は彼らのような熱量で、このキャンペーンに対して熱くなることができなかった。むしろ、彼らのその必死さを目の当たりにしたために、俺の心はどこか冷ややかに今を見てしまって、そしてそのために俺の心はこのキャンペーンから離れてしまったのだった。


(どうせ当たらないのだろう。T社だってたくさんのお金を費やしてもらうがためにこのキャンペーンを打ち出したのだろう。そして、T社の計画通り、みんながこのキャンペーンに、あの自転車の存在に乗せられて、いい写真を撮るために、必死にT社の製品を買っているのだろう。嗚呼、彼らの熱量を前にして冷めてしまったこの俺にこの自転車が当たるわけがないのだろうよ......)


そう思っている俺の瞳に映し出されていたのは一枚の写真だった。

”どこかの倉庫に何十台も所狭しと並べられている自転車、その自転車はすべて色が異なっており、その倉庫の中でまるで虹をつくるかのように並べられていた。壁にかけられているT社のロゴと、T社のT-シャツ、そして中央に置かれた巨大な時計と、その時計を背に手を大きく広げ、この場を称えているようなポーズを取っている一人の男、その男の表情は笑っていた、まるで「すごいやろ?」と自慢しているように、そして挑発しているように感じられた。”


その投稿に対する反応は、はっきりうざいと言う感想と、”すごいって言ってほしいんでしょう?”なんて知ったように告げてその写真を勝手に貶めて、その貶められた姿を見て笑う、そんなような姿と、彼のその写真を出汁にした嘘か本当かわからない自慢の化かしあいの応酬、そう、これはそれらが織りなす地獄絵図だった。その地獄絵図を見て、俺は何をやっているのだろう、そう俺はどこか冷静に今を眺めていた。

それから三か月後、キャンペーンの結果が張り出されていた。俺はその結果を見て、驚いていた。その写真には、あの醜悪でどうしようもない地獄の臭いの一切が感じられなかったからだ。選ばれた写真に写っていた自転車は、どれも使い古された年季の入っているものだった。俺はこのキャンペーンに写真を八枚送っていた。様々なシチュエーションの写真を送っていた。しかし、俺はその応募した写真の中に、どうしてあの写真を撮って、そして応募写真にして送ってしまったのだろうと思ってしまう写真があった。それは自転車を水底へと沈めている写真だった。


(あの写真を撮った時の俺はたぶんどうかしていたのだろう。海と自転車のコントラスト?馬鹿馬鹿しい。傍から見れば、まるで不法投棄じゃないかい?たぶん、俺の当選はこの写真の存在のために、ありえないのだろうよ。)俺の諦めの理由、その大部分を占めていたのはこの写真の存在だった。しかし、現実は俺の気持ちをいい意味で裏切っていた。俺は当選していた、そして当選した写真として選ばれていたのは他でもないその写真だった。


俺は幸せに包まれていた。絶対的な幸せと、相対的な幸せとが織りなしているコンチェルト、そしてその奏でられる音色が告げたのは紛れもない今だった。信じられない今を告げていたんだ。これは夢なのだろうか?いや現実だッ!そう、俺は夢を否定したかったんだ。そう、俺は夢が嫌いだった。俺にとっての夢なんて、現実逃避の象徴でしかなかった。そう、夢は現実でもってその存在を能動的に否定せしめることによってはじめて意味が生まれるのだろうよッ!その時、意味という名の真実が俺の頭の中で劇場の幕を開いた。その開かれた舞台上で踊っている俺とT。そして、俺たちに羨望のまなざしを向ける敗者たち。(嗚呼、なんていえばいいのだろう?)そうやってほくそ笑む俺、その姿が今まで俺が気持ち悪いと感じていた彼らと重なっていく。嫌いで醜悪で気持ち悪かったはずの彼らの姿が、今の俺にとっては一番好きな姿だった。その姿へのリアリティが俺の彼らへに対する深い共感を呼び起こし、この共感が導いたのは彼らの仮初の開放と俺の本当の開放、その紛れもない差異を浮き彫りにしていた。そしてその差異が導いた自己肯定感は風船のように膨らんで、俺の頭の中の劇場の協奏曲は終止へ向けてその音階を駆け上がっていった。

続く

読んでくださってありがとうございます。

次回予告 (仮称)

砂漠の中で出会ったのは一人の男だった。

彼は何かを読んでいた。

それは年季が入った本だった。

僕の瞳にはその本は死んでいるように見えた。

次回 四人目(今までのあらすじ 後編)

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