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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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蛮街編

ここはどこなのだろう?私は知らない通りを歩いていた。私はどうしてここにいるのだろう?そんな問いかけが私の心に生まれたその時だった。私は、”私の背後に誰かが立っている、そう、私のすぐ後ろで、私のことを見ている誰かが立っている”、そんなような感覚を抱いた。その感覚は私の心にありありとした情景のように思い浮かび、そしてその情景を目の当たりにした私の心に湧き上がってきた気持ちの悪い恐怖めいた感情が私の心を鷲掴みにした。


(嫌だ。振り返りたくなんてない。怖い。でも......)しかし、私は同時に、この場所がどこなのかわからないことに対しても恐怖を抱いていた。むしろ、私の恐怖は、その誰かの存在よりもこのわけのわからない場所に放りだされてしまっていることに対する恐怖の方が大きかった。そして私には記憶がなかった。そう、ここに来るまでの記憶、ここに来る前は何をしていたのか、という記憶が抜け落ちてしまっていた。そして私の頭の中に残っている記憶ですら、どこかあやふやなものになってしまっており、そのために私はその記憶を時系列に並べることすらできなくなってしまっていた。つまり、この時の私はここに来る前の最後の記憶と言うべきものすらわからなくなってしまっていたのだった。私にとってそのことがこの状況に対する気持ちが悪さと恐ろしさを、より一層助長させてしまっていた。そう、もはや今に対する恐怖は私の背後の誰かの存在よりも大きいものになっていったのだった。


私は後ろの誰かは今の私の状況を説明するための手がかりなのではないかと思い始めていた。そう、私は想像の中で描き出した。私を見ている誰かの姿を......どうしてだろう?私が思い描いたその誰かは私のクラスメイトの一人だった。


私は彼に回し蹴りを喰らわせた。その蹴りは彼の顎に命中し、彼は横になぎ倒されてみっともない姿で地面に這いつくばっていた。その姿を見て私の恐怖心は、呆れのような、物足りないような感覚に変わり果てていった。「どうして私を見ていたの?」彼は無言で何も答えない。たぶん、何か後ろめたいことでもあるのだろう。私は彼を上から見下していた。嗚呼、なんて気持ちがいいのだろう。こうやって他人を正当に見下している今はッ!この時の私の唇は緩んでしまっていた。その緩み切った唇が、私の口角を上げていた。


この通りは人通りが少なく、どこか寂しげだった。もともとここは商店街だったようだ。しかし、その店のほとんどはシャッターに閉じられてしまっていた。そしてこの商店街通りを覆っていた屋根は半分が崩れてしまっており、そしてそのままずっと放置されてしまっているようだった。私の手に何かが触れた。それは水滴だった。そう、その水滴をきっかけにして、私は思いっきり振り返った。しかし、そこには誰もいなかった。私は誰もいないことにため息をついていた。


雨が降り出した。その雨は地面にぽつぽつと波紋を生み出していた。私は私の背後にあった水たまりを見下ろしていた。その水たまりに零れ落ちる水音は朽ちた屋根から落ちる涙のようだった。そう、その水たまりには、他にはない特別な雰囲気があったように感じられた。その雰囲気がうつしだした私の顔は、惨めだった。みっともなくて、見ているだけで気分が悪くなってしまうような、そんな感覚を私は感じていた。


私は持っていたナイフでその顔を何度も何度も突き刺した。しかし、それはその雰囲気の背をなぞっているだけだった。私は持っていた銃をその顔に撃ち込んだ。しかし、それが立てた音は雨音と変わらなかった。私は、その水たまりを踏みつけた。そしてその水たまりを踏みつけたまま、その足を蹴り上げた。水があたりに散らばった。そしてその顔が散らばった。その顔は私を嘲笑っていた。(どうして笑っているの?)「なんでって?わかっているでしょう?あなたが惨めだからよッ!この世界で一番あなたが惨めだからよッ!どうやら私は見つけることができたようねッ!絶対的な希望をッ!ねえ、あなたはずっと私の希望でいてよッ!そうすれば私は、一生天国に住むことができるのだからさッ!」私は問いかけていた。許さなかったから。「お前は誰だッ!一体お前は誰なんだッ!」私のまなざしがとらえてしまった絶対的な絶望がこの世界を地獄へと変えてしまった。そして、その地獄を見ている私を天国を見ている彼女が笑っている。私はそのことが、そんな今が許せなかった。


私は絵を描くことにした。そう、この憎しみを忘れないために。私は何度も何度も書き続けていた。そう、これは私にとって最も身近な復讐だった。私は何度も何度も描いた。何度も何度も情景を切り取って、その切り取った残骸を、私はこの十字架に磔ていた。うずたかく積まれていくスケッチと、それに反比例するように積み減らされていく私の感情のようなもの。私の自分らしさと言うべきもの。私が私だって自己肯定するためのもの。そう、私には記憶なんていらなかったんだ。だってもうここにあるもの。私の手の中に形としてあるもの。わざわざ、記憶なんて不定形の形で残すことに意味なんてないのよ。そう、このホワイトボード(純然たる墓標)こそ、私の地獄を照らす一筋の光となってくれよう。さあ、私の捻じ曲がった”個人的無意識(コンプレックス)”よッ!彼女を地獄へ導き堕とせッ!あなたの言う絶対的な絶望は今、形を持った相対的な絶望へとこの命をもって変わるだろう、いや、変えてくれようかッ!


「おいッ!何をやっているんだッ!」嗚呼、どこかで声が聞こえる。そう、たぶん走馬灯ね。彼の声が聞こえるはずがないもの......「そこから離れるんだッ!」止めてくれるなよ、私はもう死んでいるのだから。私はもうあなたの知る私なんかじゃないのだから。


「ありがとう。」その言葉に思いは込められていたのだろうか?彼女の別れ際に言い放ったその言葉によって僕の心は磔にされてしまった。そう、僕は足を動かすことができなくなってしまった。彼女を止めることができなくなってしまったんだ。そう、彼女はわかっていたんだ。その言葉を言えば、僕は何もできないって。

(言い訳なんじゃないの?そんなの、都合のいい言い訳だよ。)←くたばれッ!


「さよなら......」彼女は僕を見て寂しそうに笑っていた。僕は彼女がどうしてそんな顔を浮かべていたのかわからない。ただ、僕はこの時初めて彼女の顔を見た、なぜかそう思っていた......

読んでくださってありがとうございます。

次回予告 (仮称)

赤、青、黄色、そして緑

色覚の異常?

流れる液体と屈折

次回 第三十三章 You?

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