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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第三十←30章 災禍#4

この小説はフィクションです。

クライアント(赤坂預御)は彼女の両親と彼女の弟のみで構成されていた核家族である。この病院のデータベース、通称”ホワイトボード”の情報では、クライアントと家族との関係は友好であり、問題はないように思える。また、クライアントの遺伝的観点からも問題は見受けられなかった。”吾輩”が持った彼女に対しての第一印象は常に笑顔を浮かべ、明るい雰囲気だという印象だった。


クライアントは明瞭で受け答えにも正常と言うべき理解力や注意力を感じられた。また。彼女の説明は論理的であり、見当識やそれに伴う感情や思考等にも異常は見受けられなかった。そして、彼女の身体所見に異常な点は見受けられなかったが、一つ異常な点を挙げるとすれば、彼女の外見的特徴として彼女の右耳にはいつも紐上の何かがかかっていた。それは西洋の星形のマークをかたどった紐状のものだった。クライアント曰く、これは”アミュレット”と言うもので、悪魔除けのためのものと彼女は言っていた。彼女はそのお守りを片時も離さないで身につけていた。そこにはある種のコンプレックス交じりの期待、そして同時に不安のようなものが含まれているように感じられた。


彼女はこの病院”光陰大学付属病院”に近隣の大学病院の紹介によってやってきた。彼女の母親によると彼女が抱えている精神疾患の症状として大きいものに自分自身の夢を根拠とした被害妄想が挙げられた。彼女にとってその夢は現実と変わりなく、その現実と言う名の夢の中で彼女は、架空の同一人物、彼女曰く悪魔によって殺されていた。彼女はその男についての一切を語る際に普通という言葉を多用した。その男は、普通の服を着ていて、普通の帽子をかぶっている。そしてその彼女の夢の説明はその普通を否定するように、その男は右手にナイフを握りしめていた、と終わる。


彼女はこの自分自身の確信めいた現実を夢だと認識していた。しかし、彼女はその夢があまりにも現実と違いないために、この現実も夢だと彼女は認識していた。そのために彼女はその夢の中で自分自身のことを”﨑野夜見”と言っていた。そして、どうやら﨑野夜見と赤坂夜見には性格には大きな乖離が存在しているようだ。しかし、診察では未だ赤坂夜見の性格を確認することができていなかった。しかし、彼女の現実感の消失、現実と夢の境があいまいな症状と、夢の自分自身を第三者のように話していた点から、彼女は解離性同一障害であると”吾輩”は診断を下した。


﨑野夜見、これは彼女の本来の性格ではなかったようだ。彼女の性格は明るくいつも気丈な振舞いを見せていた。協調性や仲間意識が強く、そして自由と言う言葉に強い執着を見せていた。彼女は自分は自由のために生きていたと答えている。そして彼女にとっての今は不自由のようだ。彼女は”今”を盲目的不自由に囚われてしまっていると表現していた。そして吾輩は診療の中で彼女に今は現実であることを間接的に告げたところ、彼女は軽いパニックを引き起こしてしまった。そしてそのパニックの中で彼女は自分の、”﨑野夜見”の死体を見たと言った。そのパレイドリア的なイメージが診療中に彼女の前に現れたという事実は極めて特異であり、彼女の現実感の消失、その大きさの度合いを”吾輩”達は軽く見てしまっていたということに気づかされることとなった。そして”吾輩”はその現実に対する理屈付けと言うべきイメージの正体が彼女にとっての死であると結論づけた。


赤坂預御、彼女の人格は’’明るい。そう、彼女は明るい。彼女はいつもみんなを照らしていた。彼女はいつも幸せそうな笑みを浮かべていたし、彼女はいつも自由だった。嗚呼、彼女みたいになってしまえば、私たちは幸せに、天国に、そして平和に生きることができるだろうに......’’


ロールシャッハ・テストにおいて彼女は、様々なイメージを想起した。


一枚の画像を見せる。→「何が見えましたか?」と”吾輩”は彼女に問いかけた。→”牢獄に独りで囚われている男、彼はなんでも知っているような笑みを浮かべて私を嘲笑っていた。何がおかしい、何が可笑しくてそんな顔を浮かべているんだよ。しかし、彼は私が持ったはずのイメージを否定した。どうして?私は彼に問いかけた。彼は答える。「いや。知らないね。そもそも情報通が不自由を強いられている様を思い浮かべることなんて出来なくてねぇ。あなたがそんなことを聞くなんて変だよ。そもそもあなたは自身のことすら自覚が怪しいって言うのにそんな奴の言葉をあなたが信じるとは思えないよ。」彼はそう言って笑った。彼は偏屈でめんどくさい、小汚くてよく言えば変わり者の雰囲気を纏って、それでいて彼は頭が回る切れ者で、そして気持ちの悪い男だ。そう、彼は普通じゃない。彼は記憶を失っているし、彼はたぶん私の過去だって知らないだろう。そう、私は待っていたんだ。過去のない人間の存在を......彼に私は名前を付けた。彼の名前はタリスマン。良い名前でしょ??私は彼と一緒にここから出ることにした。はやく仲間と合流しなければならない。そう、私は必要とされているんだ。はやく戻らなければ...” →「・・・どこを見てそう思いましたか?」→クライアント「・・・」


二つ目、”純白、そう色の重なりでなく、それは単体の光によって生み出された独立した色、そう存在しない色、私はその色が好きだった。私はこの色を描きたいがためにキャンバスに色を塗りたくっていたんだ。彼女は俺にその絵を見せた。その真っ黒なキャンバスを見せた。綺麗でしょ?そのキャンバスは白でなくもともと赤かった。” →「・・・どこを見てそう思いましたか?」→クライアント「・・・」


三つ目、”時間は一続きだから意味があるんだよ。そう言った彼は死んだ。彼のいない世界で私は時間をこの瞳で見てどう思うのか?かつて誰かが言った。時間は、空間はア・プリオリ的な概念だって、そして本能もまたア・プリオリ的な存在だって。もう経験なんてしなくたってわかりきっていることなんだって。違うな。私はその本能のア・プリオリには同意するけれど、空間と時間、特に時間のア・プリオリの定義は違う。違うと思う。そう、それはただの言い訳でしかないんだろう。そんなわかりきっているなんて言うからタイムマシンは生まれなかったんだろうよ。さあ、見せてくれようか。私の経験が導いた時間の新しい定義をさぁ!” →「どこを見てそう思いましたか?」→クライアント「説明ですか?たぶん説明をすることに意味なんてないのよ。むしろ説明をしてしまうことで、この言葉は説明を見失ってしまうのよ。フッフッフ...」→吾輩「・・・」


ロールシャッハ・テストにおいて彼女は一つの画像に多くのイメージを持っていた。その中で彼女は架空の人物をつくりだしていた。しかし、その多くは、誰かだったり、彼だったり等、定かでなかったが、タリスマンと言う人物が現れた。吾輩らはその彼女の中で出てきたタリスマンに着目した。そう、それが彼女の偏執的なアミュレットに、そして彼女の抱えている夢の解決の糸口になると考えたからだ。


彼女のそのタリスマンにまつわる「自由連想」の過程は自由から、そしてその自由がいかに幸せから始まって、そしてその男との出会い、そして己自身の死を連想するに至ってしまった。

彼女はそれっきり意思疎通が不可能になってしまった。彼女は彼女が連想したその夢に自分自身を自己投影するかのように、口を瞳を瞑り、そしてそのまま仰向けに倒れて眠りについた。それから彼女は一か月もの間眠り続けている。

~~~

クライアントとのこれまでの対話において、彼女には偏執病、パラノイアと言うべき症状が確認された。彼女の言うその悪魔の特徴は、男と言う点を除けば誰にでも当てはまる点があった。彼女はこの病室の窓から見える大通りに歩いている人を見て、その誰かと、その悪魔を重ねていたこともあった。そして彼女は私たちにもその悪魔を重ねていた。そう、彼女の自由を阻害しているすべてが、彼女にとっての悪魔へとその姿を変えることができてしまうようだった。私たちは、彼女の診療に際して、彼女の夢、妄想の特性を鑑みた結果、女性のみによる診療を行った。しかし、それは逆効果だったようだ。彼女は女性を、そのパラノイア的妄想に落とし込むことのできない他者を、彼女自身の”知らず知らずの心”、いわばこころ(ゼーレ)の中で、彼女(﨑野夜見)はその彼女自身と同一視してしまった。彼女は恐れていた。自己幻像視その存在を...


「嗚呼、その幸せそうに笑っているあなたよッ!ほかでもない、ほほえましく幸福を称えている天使よッ!なぜ笑うッ!なぜ、あなたは”今”、かつての私の、私だけのものだったはずの幸せを握りしめているのかッ!この私の監獄の中で、私のこの不自由の牢獄の中で、他でもない私の不幸の象徴の中でッ!」


彼女はそれっきり動けなくなってしまった。彼女が自由に動かせたはずの足は、手は彼女の意志によって動かすことができなくなってしまっていた。そして彼女は初めから、そう彼女が生まれた時から、彼女の手足は使うことができなかった、と彼女は話し出した。その様子はかなり自然だったために、その様子は”吾輩”たちにとっても不気味に感じてしまうほどだった。


自由連想、その一端

想像上の彼女は強い自由と、今の不自由を比べているようだ。そして、その不自由と自由を彼女は、その空想の中の自分、﨑野夜見の生と死に結びつけていたようだ。彼女はその夢の中でその悪魔と戦っていた。その時、彼女は一種の忘我(トランス)状態であった。彼女は自分自身を、その自由で包み込み、そしてその不自由の象徴であるその男を否定する、そう殺すために疾走した。しかし、彼女はその悪魔を殺すことができない、彼女はその悪魔の顔を見てしまった。彼女はその顔を見て、幸せを連想した、自由だった時を彼女は連想していた、彼女はその夢に出てくる彼女と悪魔以外の二人を”今生希代”と”宇津野潘”と呼んでいた。その二人は彼女にとって自由な象徴だった。しかし、彼女とその二人の強い絆は唐突に終わりを迎えてしまった。彼女は彼らは消えたと言っていた。消えた仲間。彼女は生きている彼らを見て自分自身を省みてしまった。そう、死んでいる彼女自身を...彼女は高校生時代のころを思い出していた。彼女はそこを楽園だって言っていた。彼女はそこで誰かと出会っていた。しかし、その出会いは裏切りの枕詞だったようだ。→・・・


そして彼女はその連想を何度も何度も繰り返し続けていた。何度も、何度も、まるでこの連想を通じて、彼女がこの夢に終止符をつけるかのように、必死に......しかし、彼女は気づかされてしまった。その悪魔の正体に、そして”﨑野夜見”の非存在に......彼女の個人的無意識が奏でる約束された運命を彼女は肯定してしまうに至ってしまった。’’そう、私はこのナイフでもってかつての私を殺したんだ。’’


我々はその悪魔の正体を、彼女の妄想の中に出てきたタリスマン、しいては彼女の弟であると結論づけた。彼女(﨑野夜見)は弟の存在を忘れていた。しかし、彼女の弟”赤坂港”は”港”として彼女の連想の中でもたびたび現れていた。その証拠に、彼女の連想において、希代と港と言う名称は重なり合うことが度々あった。その重なりは、彼女が求めていた自由を、彼女は自分自身の弟に重ねてしまっていたということの証明にもなり、そしてそれが反って彼女の偏執病的疾患の核であると、そう彼女と弟との間には何かしらの確執が存在していると結論づけていた。


’ヒエロファニーの刻は来たッ!’


誰だ?お前は。「やあ。お久しぶりです。先生。」研究所に知らない奴がいた。「誰だッ!お前はッ!」吾輩は彼を睨んでいた。彼は吾輩のその顔に首を傾げていた。「嫌だなぁ?忘れてしまったのですか。港ですよ。この研究所に一年前から配属されていた港です。一緒に研究対象であるクライアントを治療していたじゃないですか?」知らない。吾輩はこの男なんて知らない。しかし、吾輩が把握していないわけがないのに......吾輩は周りの様子を見た。周りの視線は大きな声で彼の存在を追及している吾輩を見つめていた。どうして?吾輩がおかしいのか?吾輩はこの場を愛想笑いで切り抜けた。そして自室に帰って、職員名簿を参照した。そこには確かに、研究員の名簿があった。その研究員の名前は港と書かれていた。この病院に配属された日付は、今からちょうど一年前になっていた。吾輩はこの名簿をまじまじと眺めていた。そして、そこにあったある違和感に気づいた。それは既視感だった。なんで、私はあんな男知らないって言うのに、どうしてこんな既視感が湧いてくるというのだろうか?そしてその既視感はその名簿の上側に貼り付けられていた顔写真によって、その既視感は確信めいたイデアへとなった。そこに貼り付けられていたのは、私の顔写真だった。そうだ、この名簿に添付されているデータの一切は私自身のデータだったんだ。


’集合的無意識、それは「モチーフ」であり、簡単に言えば「お約束」であろう。集合的無意識は、個人的無意識とは明確に異なる。個人的無意識は、簡単に言ってしまえば経験による意識につけられた癖であろう。自分らしさとでも言ってもいいかもしれない。その癖はその人が今まで体験してきた物事によって形作られてきたパーソナリティであり、そしてそれを私たちは自分自身の心だと感じているのである。

その点、集合的無意識はすべての人に存在するこころ(ゼーレ)の一つの性質であり、それは時間をも超越したプロセスである。または本能とでも言い換えてもいいかもしれない。そう、そしてそれは感情と言い換えてもいいかもしれない。そう言語化できないア・プリオリ的な感情と言いかえることもできるだろう。そう、集合的無意識の発露は、この感情の爆発、その間接的な形式の表れであった。’


なるほど、そうか。私、私は......自分自身を知らず知らずのうちに投影していたのね。そう、私の手にはナイフが握られていた。そして私はそのナイフで私の首筋を何度も何度も突き刺した。繰り返される死と言う名の約束されたモチーフが、ここを純然たる白色によって覆いつくしていった。そしてその姿を上から彼女が見下ろしていた。

読んでくださってありがとうございます。

次回予告(仮称)

色彩

反対色

景色

見失った点

次回 第三十三章 You

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