表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/129

第三十三章 Who

僕は彼女が好きだった。彼女は僕にとってのすべてだった。彼女はいつも幸せそうな笑顔を浮かべていた。そう、僕はその彼女の眩い輝きが、暖かさが好きだった。

(嗚呼、どうして今になってそんなことを思ってしまうのだろう?)←死ねッ!

そう、その眩さを僕は当たり前だって思っていたから、普通だって思っていたから、それが普通じゃないことに、奇蹟だってことに気づくことができないで、そしてすべてを失ってしまってから、僕は気づいたんだ。そのかけがえのない意味に、存在に......

僕は彼女のいなくなったこの教室でただ立ち尽くしていた。僕の目線の先には肖像画があった。その肖像画にしみ込んだ誰かの声にあてられて、僕は独りだということに気づかされていく。そう、その肖像画はまるで鏡の様だった。

~~~

彼女の名前は”﨑野預御”。僕が彼女と出会ったのは、文化祭だった。部活動等に参加せず、本を読み漁って、のうのうと生きていた僕は、文化祭が嫌いだった。文化祭期間中は、僕の聖域(サンクチュアリ)は教師や外部の来賓の皆様の控室になってしまうだとか、どこかの部活のブースになってしまうだとかで、いつものように居座っていることができなかったからだ。まあ、文化祭はみんな不自由だろうからこの不自由はもうしょうがないかもね、なんて考えながら、僕は本を借りていた。

「珍しい?あなたが本を借りるなんて。」そう言って事務室からしゃしゃり出てきた司書の先生<以下、この段落の間、彼女と呼ぶことにする。>はうすっらと笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。「ええ、この本を家でも読みたいと思いましてね。」僕は彼女の存在をめんどくさいと感じていた。彼女の存在はこの図書館の静かで落ち着いた雰囲気をまるで殺しているかの様に僕は思っていたから。そう、僕はこの雰囲気を殺したくはなかったんだ。たとえ、それが間接的だったとしても...「えっと...タイトルは”5Wings,1Hero” 。へえ、私も読んだことがない本だ。」彼女はその本をパラパラとめくっていた。すると、その本から小さくパリパリと音がした。「おかしい......こんなことありえないのに......」彼女はそう言って何かを考えていた、しかし彼女はすぐにこちらに向きなおって、そしてこの本を手渡した。「はい、どうぞ。返却期限は二週間後になります。」僕はその本を受け取ってこの場所を後にした。

数日後~~~

文化祭が始まった。「さぁ、始まりました。待ちに待った文化祭、日輪大祭。司会はこの私、時田がお送りしますッ!」開催式は体育館で行われて、クラスと文化部の出し物が紹介されていく。僕たちのクラスは、謎解きアドベンチャーを行うらしい。僕は今になってそのことを知った。

まあ、誰も僕には何も求めていないのだろう。教室でただ眠り続けていた僕は、死んでいるのと変わりないのだろう。僕はどこか寂しさに溺れて、その寂しさが連れてきた諦めを胸に抱いて、僕はその寂しさをその諦めでもって背に隠して、そして僕は仮初の自由へと向き直った。

行きかう人々、周囲にひしめく雑音ノイズ、死んでいる図書館、そして死んだ僕。ふらふらと雑音に紛れながら、見知った場所を徘徊しながら、僕はこれからの振舞いを考えていた。「どうしようかな。棋道部の展示で彼と将棋を時間が許す限り、指していようかな?」そんなことを考えながら、僕はその展示ブースに向かって歩き出した。

僕は道に迷っていた。確かに、ここは僕にとって見知った場所だった。しかし、他人の無秩序な放流によって、僕が見知っていたこの場所は僕の知らない場所へ、気づかぬうちに変わり果ててしまっていたようだ。しばらく階段を行ったり来たりして疲れた僕は、階段近くの椅子に座ってため息をついていた。僕の中にのしかかる徒労が、僕の思考を断絶した。僕はただ座り、思考を放棄し、その場に立ち尽くしたままに、僕は図書館でいつもやっているように、持っていた本を開いた。その本”5 Wings,1 Hero."を......そして僕はその本を読み始める。その行為は傍から見ても自然だった。それはまるで一種のオブジェのように、この雑音が奏でる活気に対する影のように......ただ、いつもと違う点を挙げるとするならば、ここは図書館ではなかった、そして今は普段なら授業に出ている時間だった。そして僕はこの本をよく知らなかった。ただ気兼ねなしに、気になったからなんとなく手に取っただけだった。こんな少しのイレギュラーが僕が本を読むこの行為にどこか不自然な影を落としていた。そう、彼女はその不自然と自然の間を縫うように、唐突に表れた。

「こんなところで何をやってるの?」彼女は声をかけてきた。僕は一度その声を無視してしまった。僕に話しかけていると思えなかったから。「ねえ?聞いてるかい?」彼女に肩を揺さぶられて、初めてその声が狙いすましたターゲットの正体に僕の意識の焦点があった。「・・・僕に何か......」「クラスの展示のシフト、変わってもらおうと思って......」彼女は悪びれもせずそう言った。僕はその言葉の真意を測りかねていた。「えっと......状況がよく呑み込めないのですが......」彼女はそう言った僕の手を掴んだ。「えっちょっと......」彼女は僕の手を掴んで、歩き出す。その唐突で、そして感じたことのない力強さに、僕は思わず持っていた本を落としてしまった。「あっちょっ......」彼女からの有無を言わさぬ迫力とその雰囲気に、そしてその掴まれた腕によって僕はその本を拾いに行くことができなかった。僕は廊下にその本を残したまま彼女に連れ去られていった。この時の僕は疲れていた。そしてその疲れと、言いようのない理不尽のような不自由の予感が導いた諦めが、僕の抵抗を消し去って、僕はこの状況に、他でもない今に、この身を委ねることにした。

続く

読んでくださってありがとうございます。

次回予告 (仮称)

単純で複雑な仕事

Help!

このシナリオはあなたが......

僕がここにいることに意味なんてあるのッ!

彼女は僕を思いっ切り殴った。

次回 第三十三章 you

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ