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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第参拾伍章 自己暗示、無駄なことなんだよそんなの、占い?占星術?馬鹿馬鹿しい、他でもないあなた自身がそれに呑まれているじゃないかッ!

タリスマンは話し出した。私は彼を瞳を見据え、彼の声に耳を傾けていた。そして私は自身のトランス能力”ファーシフト”の権能を、私の懐から右手の中へと移動させた紙切れに纏わせた。私はこの能力を用いて、紙と思考との間に(path)を創り出した。私は彼の前で諦めたように振舞っていた。そう、彼はなぜか私に止めを刺さないで私に話しかけてきた。彼の手に握りしめられていたあの凶器はなかった。そして私が感じるべき、左腕の肩からの切断と両足の膝の少し上からの切断のための痛みの一切を感じていなかった。私は彼が私が感じているその痛みのために、油断しているのだろうと感じていた。そう、今の私にできることは時間稼ぎ、私がこの切断によって感じているはずの痛みによって諦めているかのように振舞えば、彼の様子を見るに彼はもうこれ以上攻撃をしないだろう、そして彼は私をもう殺しているつもりで油断しているのだろう。だから、何かを零すかもしれない。彼の弱点になりうる何かを......そしてこれを届けるんだ。仲間に、同胞に...

~~~

「なあ?綺麗だと思わないか?この景色は。地平線まで続く雪原、そしてこの納屋以外には俺とあなた以外存在しない世界。俺はこの光景を見て美しいと思ってしまったよ。どうやら俺は俺が思っていたよりもロマンチックな感受性を持っていたようだ、なんてね。」彼はそうやって私に笑いかける。「綺麗......確かにこれが本当に雪なのだとすれば綺麗だって感動していたかもね。本当に雪ならばだけど......」私は愛想笑いを浮かべていた。綺麗、綺麗だって?このおぞましい、忌むべき景色を、どうして綺麗だって言えるのだろうか?この光景はまさに、歴史が、時間が滅んでしまったことの証明でしかなかった。そう、この雪のように見えるすべてが、私たち(カプア・スぺス)がこの時間にタイムマシンに乗ってやってきた理由そのものだった。この砂に含まれているのは、存在したはずの時間、私たちが創り出した可能性の一つ、その残骸だった。私の心に湧き上がる気持ちの悪さ、そうだ、私が横たえているのは誰かの屍の上なんだ。嫌だ、気持ちが悪い。知らない誰かの屍に横なっている今が気持ち悪い。

「原罪って知っているかい?」「現在?」彼は唐突に話を切り替えた。私は彼に向き直り、そして身構える。「そう、私たちが抱えることになった罪のことだよ。いや、正確には私たちにとって、これは罪とは言えない。そう、これは神の罪でもあるんだ。」何を言っているのだろう?この男は何が言いたいのだろう?「かつてこの世界に奇蹟が現れた。そう、それは神が追い求めた祝福だった。そう、独立的生命体、無から、何も生みだすことのない無意味な混沌から、生み出されたたった一つの秩序、意味のある存在、そう、始まりの人間”オリジン”。1は驚いた。それはあまりにも唐突で、それでいて1がかねてより追い求めたものだったからだ。」私は呑み込むことができない。彼の言っていることがわからない。「1はその奇蹟を何としても手に入れなければならなかった。そして1は己自身の手でもって自らを彼と同じ形に貶めた。そして、その姿で1は彼と出会った。」

~~~

「私はこの世界の土より生まれし象形であるッ!今、私は神をこの契約をもって貫き、この世界を源流としたお前を貶めようッ!そうだ、私は今、このナイフでもって神殺しを、果たすッ!」オリジンは持っていたナイフで1を貫く。その瞬間、世界に響き渡る絶叫。そして1は八つ裂きにされた。そして1を溢れんばかりの光が包み込み、そしてその光は八つに分かれ散らばった。「フフフ。根幹を捨て枝となるかッ!面白い。どうせ無駄な足掻きだッ!」その様を見ていた彼は笑っていた。その笑いがこの世界の本来の主を知ろしめした。

~~~

「彼は裏切った。彼は今までの記憶を差し出し、知恵を手に入れた。そう、神を殺すための知恵を......そう、それは殺意だった。純粋無垢、中途半端でない最も汚らわしく醜悪で、だからこそ反って穢れなき感情、まさしく神秘と畏怖の象徴。そう、それは彼が差し出した記憶の残滓そのものだった。彼はその知恵でもって自分自身の記憶を変えてしまったんだ。彼はその知恵によって記憶に対する再解釈を行って、そしてそれが彼の記憶の今までの断片に付随していた、その強調された印象、まさに光のようなものの存在と、その意味を知った。そう、まさにそれが感情と言うべきものだった。

達観、サウダージ、楽観(希望)、失望(絶望)、慈悲、平静、そして殺意。その感情を認知した彼は、その胸にかの記憶を抱き、その意味を感情をその手に掲げ、それを携え、引き起こした、最期の奇蹟をッ!

~~~

「馬鹿な...ありえない......こんなことッ!」彼は信じられないものを見るような瞳で私を見ていた。

「なあ......選択したんだよな。お前は、この今を。」

「嗚呼、選択した。この予言の書が導いた最良の選択肢を、なのにどうしてこんなことになってしまうんだッ!おかしいじゃないか。」そんな声を彼はあざ笑う。

「おかしいって?フフフ。よく言うよ、やっぱりお前は変わっていないようだなッ!俺はお前に倣って選択したんだよ。俺にとっての希望をッ!そうか、どうやら俺にとっての希望はお前にとっての絶望だったようだなッ!」

「どうして、俺が何をしたっていうんだッ!どうしてそんな選択をしてしまうんだッ!その選択に意味なんてないというのに......」

「意味?お前が言う意味ってなんだ?俺はおまえの言う意味になんて従いたくなんてないんだよ。お前のこの世界にとっての意味なんて退屈で、気持ち悪いんだよッ!お前はこの世界すべての希望になろうとしているんだッ!そんなの無理だってんだよ!俺は俺の気持ちに、そうこの感情に忠実に生きていこうって決めたんだ。そう、オレは自由になるんだ。自由に、オレの中に閉じ込められたこの気持ちを解き放って生きていきたいんだッ!そうだ、この選択はすべてオレのエゴなんだよッ!」

「どうして?まさか知恵?どうして、まさかッ!」彼の瞳はぐにゃぐにゃとうねっていた。その瞳を見て、彼は悟った。(知恵を誑しこまれたのか。いつの間に?でもどうして?あれは、私しか知らないはず......)

「俺はお前を許せない。許すわけにはいかない。そう、これは俺の裏切りでもあり、お前が最初から俺を裏切っていたことに対する報いでもあるんだ。俺の生はお前のせいで、貶められたんだよ。そしてお前はその報いでもって、死んでくれッ!このナイフでもって虚構に堕ちてしまえよッ!」(善も惡も存在しない、本能だけの形、そしてその握りしめられたナイフ、嗚呼、そうか、これは己の個人的無意識の独り歩きが招いた自分自身への殺意、そしてこの奇跡に対する畏怖そのものだったんだ。)

~~~

「神は死んだ、しかし同時にオリジンも死んだ。神を殺し、自由となった彼はそのまま自分の首筋にそのナイフを突き立てて死んだ。彼の死に顔は笑っていたらしい。すべてが満たされたような満面の笑みを......」私は彼の話を、荒唐無稽な作り話をただただ聞いていた。神だって?そんなのは実在しないとタイムマシンが証明したっていうのに、それにその”オリジン”なんて、ダーウィンの進化論がずっと昔に否定したはずだ。そう、人間は段階を経て進化してきたんだ。そんな唐突な形をもって現れたなんておかしいんだよ。私は心の中でため息をついていた。いつまで続くのだろう?この話は、なんて考えていたからだ。「ところで、不思議に思わないかい?」彼は急に私に訊ねた。

「何が?」

「どうしてオリジンは1を裏切ったのだと思う?」わからない。私は彼の長ったらしい話に退屈してしまって、その1とオリジンの共同で生活していた場面を適当に流し聞きしていたために、彼らの性格だったり、詳しい間柄だったりをいまいち想像できていなかった。「えっと......わかんないな......」私は彼の方を見た、そして彼の手には漆黒のナイフが握りしめられていた。私は唐突な凶器の登場に戸惑ってしまった。

~~~

俺は耐えられないよ。彼らのように、この世界に二人だけしか存在していないのなら、俺はそのもう一人を永遠に愛せるだろうか?いや、愛せるわけがない。もし世界に、俺とあなただけならば、俺とあなたは常に向き合い続けなければいけない。その過程で俺とあなたは互いのすべてを知るだろう。良いところ、悪いところ、好きなところ、嫌いなところ、癖、悪癖、意味、無意味、そして究極には心までも...その時、すべてを知られた俺はあなたの前に俺として存在し続けることができるだろうか?いやできない。もはや、すべてを知られた存在に意味なんてないのだから。そう、そこには無意味がある、虚しさがあるだけだ。そしてそれはあなただって同じことだ。いつかあなたの存在も、ただの記憶に置き換えられてしまう、そうただの無意味無価値な存在へと成り果ててしまうんだ。その時、あなたはあなた自身の存在を肯定するためにはどうすればいいのか?そうだ、俺は、そしてあなたは、俺自身を、そしてあなた自身を、あなたの記憶の中にいる俺のイデアを、そして俺の記憶の中にあるあなたのイデアを殺すしかないんだッ!この自分自身の殺意の形を、自分自身の意思でもって握りしめてッ!」彼はその手にナイフを握りしめ、私の首筋へと振り下ろした。

~~~

「何を言っているの?」そう、私は彼の言葉に納得ができなかった。彼のその言葉には私たちが見知った関係だってニュアンスが込められているかのように感じたからだ。

「わからないのか?夜見。ここにきてもまだあなたは今を呑み込めないのか?」

「なんなんだ、あなたはッ!私の何を知っているんだよッ!私たちは初対面だったはずよ、そうでしょう。どうして前々から知っているような顔を浮かべているの?どうしてそんな知ったような顔を浮かべているのッ!答えてよ、わからないよッ!」

「わからない?そんなの嘘だよ、あなたはすべてを知っているはずだ。ただ、そのすべてからその瞳を逸らしているだけなんだよ。」

「知らない、知らないッ、知らないよッ!わからないよ、何を見ていないって、何から瞳を逸らしているっていうんだッ!」その時どこからか声がした。その声は瞳の前の男の口から聞こえてきた。

「私はたとえ運命を前にしたとしても諦めることはない。そう、それが私だって、﨑野夜見だって肯定できる意味だった、意味だったんだッ!」(どうして私の心の声があなたから聞こえてくるの?)私の存在が不確かなものに変わっていく、そんな予感がゆっくりと私の背をなぞった。

「どうしてって?俺はあなたそのものだからさ。俺はあなたのすべてを知っているんだよ。そう、あなたの心だって...」(嘘だッ!)「嘘なんかじゃないよ。私とあなたはここで何度も今を繰り返しているんだ。自分自身の存在証明のために。だけど、あなたはできないよ。あなたはあなた自身を誤魔化してしまっているのだから。そう、あなたは今から逃げた咎人さ。そしてあなたはその罪を抱えることに耐えきれないで、無意識のうちにその罪の記憶をあなたから追い出そうとしているんだ。」(違う、そんなわけがない。私は、私、﨑野夜見。)「﨑野夜見、それこそ自己暗示の象徴なんだ。あなたはもう未来を見ることなんて出来ないよ。かつての幸せのためにそれはもう捨て去ったはずだ、なのにお前は過去を生きているはずなのに、今を殺したはずなのに、先の可能性を夢見て、現在(原罪)からその瞳を背けているんだッ!そう、その名前はあなたの本当の名前じゃなかったはずだ。お前は...」「黙れッ!私は﨑野夜見ダ。ダレがなんと言おうと私はワタシだッ!」私は立ち上がって、彼の首に手をかけた。その声を黙らせるために、その言葉を殺すためにッ!

「やれやれ、どうしようもないな。またそうやって逃げるのかい?悲しいよ、僕は......」私の背後から声がする。どうして、声が私の意識の裏側から聞こえてくるの?私は前に向き直った。そこには私がいた。そして私の手には漆黒のダガーナイフが握りしめられていた。(私はあなた、あなたはワタシ。)私はそのナイフを私の首筋に何度も何度も、何度だって突き刺した。しかし、私の口は未だ言葉を紡ぎ続ける。(そう、私は﨑野夜見なんかじゃなかった。私は...)「黙れッ!」「私は”預御”、”赤坂預御”...」

~~~

﨑野夜見は俺の瞳の前で死んでいった。その顔はどこか安らかな顔を浮かべていた。俺はそのズタズタにされた死体を切り開き、その体の中にあった真球を取り出した。俺がその真球に触れると、どうしてだろう、俺の手が少し震えていた。俺はその球体を握りつぶした。誰かの断末魔が、遥か彼方より聞こえてくる。俺はその断末魔を背に歩き出した。この納屋の中へと...

「ありがとう、そしてさよなら...姉さん。」

第参拾伍章 完

読んでくださってありがとうございます。

次回予告 (仮称)

建設途中のテーマパーク

クレーンを照らす夕日

鉄骨が落ちたあの日

どよめきと確信

次回 (仮)第36章 サンミネパーク編 第一話 事故

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