第参拾伍章 Before
もし世界に絶対的な希望があるのなら、この世界に絶対的な絶望がないと誰が言えるだろうか?たぶん、その問いに答えることなんて誰も出来ないだろう。だけどもし、私のまなざしが絶対的な”希望”を捉えたならば、その後にうつるのは天国なのだろう。この希望なんて言う奇蹟を今に振りかざし、まさに降りかかる火の粉を振り払うかのように自由に、そしてそのまま私はその奇蹟を胸に抱いて、私の幸せを生きることができるのだろう。しかし、私のまなざしがもし絶対的な”絶望”を捉えたとすれば、その後にうつるのは地獄でしかないのだろう。この絶望が、鋭利な刃物のように私の心へと振りかざして、そのために私の心は傷ついて、そしてその傷を見てその絶望が、私の心の倫理的快楽主義がプロデュースした殺意が笑っているんだ、そしていつの間にか私はその殺意を殺すために私自身の手で私自身の心にナイフを突き刺してしまっている、しまっていたんだッ!
私(﨑野夜見)は今を呑み込むことなんて出来なかった。瞳の前で繰り広げられるのは、希望だったもの、そして今では私にとっての絶対的な絶望だった。私は、この光景を見て否応なしに理解させられてしまった。希望の正体を、その存在理由を...
私は勘違いしていたんだ。絶望と希望はオセロの盤面の駒のように二律背反の関係だって、希望があれば絶望なんて存在できず、逆もまたそうだって...ああ、違った、違ったんだよッ!希望は絶望の中にあった単なる要素に過ぎなかったんだ。絶望があって初めて希望はその存在が許されるんだ、そうだ、まさしくこれは奇蹟だったんだ、奇蹟だったんだよッ!
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彼女は戦闘態勢を取っていた。俺はその姿を嘲笑う。「無駄だよ、夜見ッ!」彼女のトランス能力はサポート特化、そして今の彼女は彼女自身の居所を知覚できないために、彼女は能力を使ってこの場から逃げることもできない。そして、今この場所に充満したスパイラルが彼女のトランス能力の意味を希釈して、無価値なものへと中和していく。まさに、それは感情の上書きに他ならなかった。
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トランス能力はかつて彼らが味わった楽園の再現を成そうとする心の働きだった。彼らは、辿り着いた楽園で何人にも侵されることのない幸せを、すべてに満たされた全能感を、それはまるで神のようにでもなったかのような感覚を抱いていた、まさに幸せだって、自由だって、そう感じていた、感じることができていたのだった。しかし、楽園の追放が、その災禍が引き起こされた。→・・・
そのために彼らは、その全能感の感覚を、そして幸せの面影を心へ滲みのように残したままで、それが失われてしまった彼らにとって残酷な今を生きなければならなくなってしまった。しかし、彼らの心はもう楽園に至る前の心へと戻ることはできなかった。彼らの心は、その満ち足りない心を、決して満たされることのない渇望を、いつも呼び起こしてしまって、楽園へと還るがための無駄な足掻きを続けてしまう。
そう、トランス能力は”今”を、その渇望という名の色彩を伴った感情が、彼らの中に刻み付けられた楽園、その記憶の園へと彼らの心を還そうとする、ある種の防衛機制だった。そして、その防衛機制と言う抽象的な彼らのリアリティのある空想的な”記憶と感情”が、ある日を境に具体の象徴である”力”へと結びついたのだった...→・・・
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タリスマンの掲げた右手に携えた剣から放たれた衝撃、それから嫌な感覚がした私はその直感のままに回避行動をとった。その刹那、私の左肩から右肩にかけて、真っ直ぐな浅い傷が走った。そこから滲む赤い色。そして私の能力が通じないということを告げる解析結果が頭に轟く。(なんだっていうの?Unknown?そんな結果、今まで表示されたことなんてなかったのに...)私はこの浅い傷によって自身の戦闘態勢”ファーレイド”のワイルドカードを使ってしまうことにため息をついた。彼の左肩から右肩にかけて私にあった浅い傷ができた。そして私にあった傷は無くなった。私は戦闘態勢を保持したままで、私は持っていた銃、” Time×M16”を手に彼に近づいた。私は走りながら、彼に銃弾を撃ち込んだ。この銃は照準さえあっていれば、内臓式タイムマシンによって、発射時の速さを維持したままで、合わせた照準の先に瞬間的な移動を行う。それはまるで、ターゲットから見れば弾丸がターゲットの前にいきなり現れたかのように見えるだろう。今までこの銃のターゲットになって、無事だったものはいない。少なくとも私は知らない。生きているものはいたが、この銃から放たれた弾丸を初見で避けたものは誰もいなかった。私は彼に銃弾を五発、持っている武器にそれぞれ二発撃ち込んだ。しかし、彼は銃弾が彼の前に現れたその刹那、彼は彼自身が携えた剣で、その五発の弾丸のうちの三発を弾いてしまった。化け物かッ!私は心の底からそう思っていた。しかし、彼は秤に撃ち込まれた銃弾をその身をもって庇っていた。私はその様子にどこか不自然なように感じていた。彼が銃弾を弾いた姿を見ると、彼は今の銃弾をよけることだってできたはずだ、なのに彼はその秤に撃ち込んだ一発の弾丸を傷を承知で庇ったんだ。その不自然を前に私は一つの考えが浮かんだ。そうか、試してみる価値はあるかもな。私は彼に向き直った。
続く
読んでくださってありがとうございます。
次回予告 (仮称)
わかりきった運命
無駄な足掻き
思い出してしまったよ。
お前らのような存在の殺し方もッ!
次回 第参拾伍章 Before




