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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第三十三章 いつかの私へ 第二話

私はこの事件の深層に気づいてしまった。そんな私の手元には、その深層を引きずり出すための写真と、私の頭の中で結びついた点と線との連なりがあった。私は机から立ち上がった。そうだ、私はいかなければならない。すべてに、この災禍に終止符(ケリ)をつけるために。

~~~

ここは参峰町。この町は人口二十万ほどの町で、豊かな自然と東京へ電車一本でいくことのできるアクセスの良さで、この町に流れているどこか穏やかな雰囲気が、殺伐とした都会の空気にあてられている人々の癒しとして人気を集めていた。

この町は縦長の形を成していた。麓は少し都会の様相を成していて、そしてそこから少し坂を登ってしまうと、そこには青々とした木々が顔を出し、そして遠くに見える山々が麓の都会の雰囲気を黙殺しているような、そんな姿があった。そしてある角度では、麓に広がる町と海、そしてこの雰囲気と雄大な山の姿を一望することができた。その光景はまさに圧巻、その一言に尽きた。押し寄せる海と揺るがない山々、のんびりとしたこの場所と眼下に広がるせわしなさ、そんなコントラストにどこか引き込まれてしまう、そんな感覚が生まれてしまうのも必然だと言い切ることができる、これはまさにそんな景色だった。

この町はこの景色を観光名所としているわけではなかったが、いつの間にかこの景色を素晴らしいと奉る者が現れた。その誰かによってこの町は一躍注目の的として祭り上げられたことになる。そして、そのことによって活気が出たこの町はそのままの勢いで、様々な誘致や催しを行った。その結果、近隣にあった大学が、この町へと移転し、大手企業がこの町に参入した。その影響によって、この町の活気は最高潮に達した。そしてついに始まる新都市計画。それはこの町が人口増加の影響を受けて市へと変わるその時に合わせた再開発だった、いやこの町の町長はこれは”進化”だと言っていた。「ここに宣言しましょうッ!この町の新生を、まさに進化をッ!この町が市へと生まれ変わるその時、世界は大きく変わるでしょうッ!あなた達はその始まりが刻まれる”今”の目撃者となるのですッ!」その声に湧き上がる町民、彼らはその声に想像を膨らませ、彼の見る市の姿に期待を膨らませ、そしてそこにいる彼ら自身の姿を想像して笑っていた。しかし、その期待は、この計画は裏切られることになった。ある事件によって、そこで流れた誰かの血によって、そしてその誰かの死がこの町を殺すことになってしまうとはこの時は誰も知らなかった。

~~~

私はその写真が撮られていた場所に向かった。(そうだ、この事件はずっと前から始まっていたんだ。)私はこの店の暖簾をくぐり、店内に入った。「いらっしゃいませ。」そう言って私を出迎えたのはこの拉麺屋”聖杯”の大将”尺匙豹”、私はこの拉麺屋の常連として長いこと通っていた。そう、だからこの大将とも面識が深く、よくご飯を食べながら、世間話をしたものだった。私は平静を装いながら、いつもの調子を振舞う。「やってる?」私はカウンター席にいつものように案内された。そして私はいつものを注文する。「味噌ラーメン一杯。バター添えで。」「はいよッ!」そんな大将の威勢のいい声が店内に響き、彼は店の奥へと入っていった。私はあたりを見渡す。そしてどうやら、私以外の客はいないようだった。そして私は少し席を立って、店内の奥を覗き見た。そしてどうやら、店内には店主と私以外の人はいないようだった。なんて都合がいいのだろう。私はそう思った。

拉麺が運ばれてきた。私はこの味噌ラーメンにつけられていたバターを溶かし、そして食べ始めた。嗚呼、おいしい。この拉麺は私が今まで食べてきた中で一番おいしい拉麵だった。そして半分ほど食べたあたりで私は彼に話し始めた。

~~~

「ここの拉麵はいつもおいしいですね。」「お客さん。いつもありがとうございます。そう言ってもらえると店主冥利に尽きるってもんですよ。」「でも今日の拉麺は今まで食べたここの拉麺の中でもたぶん一位を争うって感じますよ。」「そうなんですか?それは嬉しいですね。でも、不思議ですね。レシピを変えてはいないのですけどね。」私は懐から一枚の写真を取り出した。それは私のかつての親友”赤坂港”と初めてここに来た時、記念で撮った拉麺の写真だった。その写真には、この味噌ラーメンと、港の顔を正面からとらえていた。そしてその背後、会計カウンターに座ってこちらをジッと見ている店主がいた。そしてその店主は何か黒いものを握りしめていた。そう、それはあの錠剤だった。

その写真を見せられた店主の顔から笑みが消えていった。「たぶん、この拉麺がおいしいと感じるのはこれでこの拉麺も食べ納めだって感じているからですよ。”尺匙さん”。」私は懐から警察手帳を取り出した。「この町で相次ぐ殺人事件はご存じですね?被害者は一週間ほど行方不明になった後、しばらくたって変死体で見つかったという事件です。

この事件には二つの謎がありました。

一つは被害者の身元が特定できなかったということです。顔はナイフでぐちゃぐちゃにされ、身元を特定するための検査はすべて測定不能となってしまう。

そして二つ目に、彼らが発見された場所に決まって残されていた真っ黒の錠剤の存在です。こちらの解析も難航を極めましてね。この錠剤を調べようとしたその瞬間、解析機器が決まって壊れてしまって、解析することができなくなってしまう。そう、私たちはこの大きな謎という壁を前に、行き詰ってしまったのですよ。

この謎を、この事件の犯人を、見つけようと躍起になっていた私たちは、手がかりが全部このざまで、被害者の数もどんどん増える一方で、そんな絶望の積み重ねのせいで私は心の何処かでもう参ってしまったなんて一度思ってしまいました。しかし、どうやら逆努力の法則なんてものがこの世界にはあるようで、私の心に生まれた諦めが、かえって私の心を冷静なものに変えていって、そんな心のために私は冷静な視点を持つことができたのです。そしてその視点で事件を振り返った私はどうやら気づいてしまったようですね。この事件の真相に...そしてもし、この過程が正しいのならなんて考えた結果がこの写真ですよ。どうやら、この事件の始まりはずっと前から、彼の失踪から始まっていたようですね。」

彼はただただ黙ってこちらを見ていた。その姿はただ茫然としているような、彼が瞳の前を呑み込むことができていないような、そんなような印象を私は持った。その様子は少し不気味だった。まるで、宙に浮いているような、中身がまるで無いような、そんな空虚な感じが彼から漂っていた。

「ここに写っているのはあなた、そしてあの錠剤で間違いないですね?尺匙さん。私は驚きましたよ。覚えていますか?私が彼と最初にこの店に来た時のことを。この写真はその時取られた写真です。さあ、あなたはここで私たちを見て、そしてその手にはあの黒の錠剤を握りしめている。まあ、この写真だけなら言い逃れできるでしょう。しかし、」彼は黙っている。そんな彼に私はもう一つの写真を突きつけた。「どうですか?この写真であなたは彼に渡しているのですよ。この錠剤を!」その声を聴いてもなお彼は虚ろな瞳をして一切の反応を示さなかった。彼の瞳は濁りきって淀んだ瞳だった。私はその瞳におぞましい何かを感じ取った。その感覚はこの瞳から視線を背けてしまいたいを感じてしまうようなものだった。しかし、この時の私はその感じたおぞましさの何倍もの気持ち良さに酔いしれていた。ようやくすべてが終わる。この終わりの見えない事件に終止符(ピリオド)をうてる、そんな予感に酔いしれていたんだ。「さあ、この錠剤について、そしてこの事件の顛末について洗いざらい答えてもらいますよッ!」その時、背後でドアが開く音がした。

続く

読んでくださってありがとうございます。

次回予告(仮称)

突き付けられる拳銃。

死んでいく人々

彼らの新生。

どうやら始まりと終わりは同じだったようだ。

次回 第三十三章 ~~~の私へ 第三話

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