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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第(3・10)章 無垢の象徴

「この私に近づいてくれるなッ!」そう叫んだその男は何かを覆い隠そうとしているような()をしていた。その瞳にはまるで吸い込まれてしまうような感じがあった。彼を取り囲んでいる私たち。私がその男の正面に立って、アトロ&ゼクスが追い立てる。つまり、この私がこの男(ターゲット)を正面切って迎え撃つ形になる。なるほど、ウノ。これもあなたの手のひらの上ってわけね。私は持っている聖遺物”無垢の象徴”を再生した。

~~~

無垢の象徴、またの名を最初の唄。この聖遺物には決まった形が存在せず、その神聖はこの唄に祈りとなって込められていた。ただ、この唄はただ唱えるだけでは発動しない。それはこの聖遺物にはその力と積み重ねられてきた神聖とを結び付けるための境が存在していなかったためである。

聖遺物には抽象な概念である神聖を具体な象徴である力へと変換するための中継地点(インターフェイス)が必要だった。彼らの聖遺物の多くはその力と神聖との繋がり(インタラクション)が内包されていたために祝詞の唱えを神聖に対しての証明の契機と定義して、力を行使することができていた。しかし、この聖遺物”無垢の象徴”はこの聖遺物の特性上、この正当性の証書を同じに内包することができなかった。そして無理やりな存在への(くさび)による定義付けは、この概念の廉価へと、そして神聖の揺らぎへとつながってしまい、それは彼女”ドゥクス”の破滅にもつながってしまう行為に他ならなかった。そこで彼女はかつての奇蹟を用いた受け継ぎという名の証明の外付けを開始した。それはレリーフだった。かつての奇蹟を彼女は外付けハードディスク、その動きという名の軌跡を用いてループ再生し、その今の積み重ねをもってこの奇跡の存在を、そして自身の存在をも証明するに至ったのであった。

この力を行使するためには、過去にこの能力を行使した対象に現れているレリーフがあしらわれた物を、その手に携えて、高らかにこの唄を歌い称えることによって発動する。この力は原点への回帰。範囲はこの唄が十分に聞き取ることができる範囲。そしてこの唄は左耳から入り込み、右耳へと出ていく特性の様なものがあり、左耳が聞こえない対象に対してこの力は効果がない。この唄に感化されたものの心に付着した経験を、今にもって洗い流す。彼らの心と感覚記憶との断絶。それによって彼らは瞳が耳が触覚が、そして感覚がまるで消えてしまったかのように感じてしまう。そして短期記憶、心に残っていた感情、そのわだかまりが消えて無くなっていく。そして最終的に心のすべては真っ白な状態へと還る。それは心に宿った自我すらも洗い流した、真なる心へと還してしまうことに他ならなかった。まさに善も惡も存在しない純粋無垢な原初の心に...その心を持った人は本能のままで生きることを強制されてしまう。その瞬間、個としての存在を、そして自己を、維持することは叶わないで、集団としての存在へと成り下がってしまう。(イブは彼らのことを彼女のスレイブと罵り、心底軽蔑していた。そしてそんな彼らを生み出す彼女に対しても軽蔑の瞳を向けていた。)彼らは死人のようにその場にうずくまり何もしない。何もすることなんて出来ない。なのに彼らは笑っていた。幸せそうに笑っていた。こうなってしまえばもうこの能力を解除しても、もうもとに戻りはしない。これが完全支配、希望を持たされたまま死んでいる姿だった。

そして中継地点(インターフェイス)を持っている誰かが、彼らに”誰か自身が持っている信心”(自分自身の存在の価値)を消費することによって命令することができる。かつて聖戦が始まる前、ドゥクスが彼らへと行う命令は一人ずつ行うのが当たり前だった。なぜなら命令の複雑さによって変わる信心の消費量を吟味しながら操作し続けることはとても繊細な操作が必要不可欠で、それでいて命令の内容も体を動かすうえで無意識に行われている筋肉の収縮や力の入れ具合を、彼女自身が意識的に命令によって行う必要があったからだ。これはたとえ一人だったとしても大変な操作が必要になってた。ドゥクスは初め、洗い流された心を持った彼らは嘘を言うことができないという性質を利用して情報収集目的の運用を心掛けていた。しかし、繰り返される聖戦、その過程でアトロがインターフェイスを手にして、操作を行ったことによってこの聖遺物に新たな解釈が付与されることになった。→・・・

そして、彼女の聖遺物の開放、臨戦態勢”カミングアウト”状態においてこの力の制限は解除される。生存に必要な信心以外のすべてが戦闘継続のために使われる。この時の彼女は自身の感情を用いることによって彼らの心に干渉し指向性を持たせることができる。この時、正確な操作をすることはできないが、一度に感化された彼ら全員を直感的に動かすことができる。

彼女の祝詞「生、それは約束された記憶。または名前。それは時間をも巻き込んで大きくなっていく予感。さあ、私は今をもって、今までの証を絶てて告げよう。約束の運命その新生をッ!さあ、爆発し、始まりに終われッ!我が信徒よッ!」その祝詞が彼女のカミングアウト”誤魔化しの時間”その始まりの契機だった。

~~~

彼の目の前で唄を唱える私。この唄は言葉というにはあまりにも儚くて、それでいて言葉でないと言い切るにはあまりにもその詩に込められていた祈りは大きかった。私はずっとこの唄を正当に歌ってみたかった。この唄はあまりにも彼女の力そのものだったから、いたずらに歌うのはどこか憚られてしまっていた。だから私はこの唄が好きだったためにどこか残念だって思っていた。そう、彼女の力がこの唄に込められた祈りを貶めてしまっているとそう私は感じてしまっていたから。だけど、いざこの唄の祈りが、力として私の瞳の前で起きたとき、その光景に私は心の何処かで感動のようなものを覚えていた。ああ、なんて気持ちがいいのだろう。この祈りが現実に現れていく様は。まるで私の口から紡ぎだされているのはもはや言葉ではなかった。そう、これはまさに光だった。すべてを照らす光。そう、彼らは私の口から零れた光にあてられて感化されて、そして死んでいく。いや、彼らはもともと生きてはいなかったな。彼らは死んだまま生きていたんだ。だったら、まだ軽蔑されるべきスレイブに成り下がってしまった方がいくらかマシかもね。死んだまま、生きているために死んでしまう彼らへのこれはある意味祝福なのかもしれないな、なんてねッ!アハハハハッ!

~~~

この図書館の中に響き渡る声。これはある種の誓いのように思われた。アトロ&ゼクスは左耳に耳栓をして軌跡を追っていた。「なあ、ゼクス?どう思う?」ゼクスはその問いかけに首を傾げる。「何がって?この建物のことだよ。おかしくないか?」ゼクスは階段を下りながら彼の言葉、その真意に思いを巡らしていた。「この建物は何もないところにポツンと立っていただろ?それに心なしか外壁はあんなにもボロボロだっただろ?だけど、内装は見違えるほどきれいだった。何かおかしいと思わないか?」ゼクスは少し考えた後、ゆっくりと頷いた。しかし、その話がこれから盛り上がりそうな兆しを見せた時にはもう彼らは一階にたどりついていた。彼らは瞳の前で叫んでいる男を見た。その男は顔を歪ませながら、こちらを振り返っていた。その表情が纏っていたのは殺意だった。その突き付けられた殺意に一瞬呆気にとられてしまった彼ら。その時、彼らの背後からずらずらと動く音がした。それは信者たちだった。彼らはイブの方を見た。彼女は笑いながら祝詞を唱えていた。「あの馬鹿ッ!信心を無駄にするつもりかッ!」彼女の表情は惚気ていた。見ればわかる、彼女は力に酔いしれてハイになっていた。彼女は中央にいる男、そして彼らもろとも図書館にいた人々を贄とした信者の群れによって取り囲んだ。彼女はそのまま彼女の掲げた右手を振り下ろす。彼女の瞳にうつる敵を彼女の気持ちの、本能のまま殺しという名の慈悲を与えるがためにッ!

やれやれ。俺はその姿を見てため息をついていた。やっぱりこうなってしまったか。俺は彼らを見下ろしながら引き金に手をかけた。そしてそのままトリガーを引いた。次の瞬間、信者が動かなくなった。彼らはうつろな瞳で地面に倒れていく。「どうしてよッ!」その光景に彼女はわかりやすく顔を歪ませていた。アトロは彼女が狼狽していた隙を見逃さなかった。瞬時に彼女の背後に回り込み、彼女の持っていた中継地点を奪った。彼女は気を失いその場に倒れた。そして俺達が追っていた男はその様を床に座り込みながら呆然とした表情で眺めていた。

続く

読んでくださって本当にありがとうございます。


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