第(3・10)章 Clock
この建物はシンメトリーの形を成していた。建物の中に入るとそこには尊大な大広間が広がっていた。広間の中央にカウンターが配置されて、その円形状のカウンターの後方には古びたゼンマイ式の大時計が置かれていた。その時計はもう動いていないようだった。時計の針は3時15分を指していた。
私たちはカウンターで退屈そうに座っている一人の女性へ話しかけた。
「こんにちは。ご利用ですか?」「すいません。館内の案内をお願いしたいのですが?」そう言ったのはゼクスだった。
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私は彼のことをよく知らない。ずっと無口で非言語的コミュニケーションだけで意思疎通を図ろうとする変な奴、それが私の持つ彼へのイメージだった。彼はいつもアトロと一緒に行動していた。どうして行動を共にすることができるのだろう?そんな真似は私たちの存在意義を意味を、貶めてしまう行為に他ならないと私は思っていた。アトロとゼクスとドゥクスは互いに協力関係を結び、私たちと戦っていた。確かに彼らの聖遺物はサポート特化だったから、協力することは十分に考えられた。だが、どうして彼らはあそこまで互いを信じていたのだろうか?あんな協定、私はすぐ瓦解してしまうと思っていたのに。そもそも、私たちが互いに協力関係なんて結べるわけがない。だから、私はこの協力関係には何か裏があると踏んでいた。そう、私の知らない何かが...私はこの何かを探ろうとしていた。しかし、聖遺物三個分の力はやはり強大だった。それに、彼らの能力は互いに補完しあっていた。私はしばらくの間、彼らの互いを信じる根拠たる何かと、その凶悪な協定というつながりによって慎重に成らざるを得なかった。しかし、その膠着状態だった戦況はある日突然動き出した。サーが倒された。そして、アトロとゼクスがウノを狙いだした。どうして三人で戦わないのだろう?私は目の前で横たわっているドゥクスを踏みつけながら、そんなことを思っていた。ある意味、これは彼女にとっての裏切りなのだろうよ。お前のその苦痛で歪んだ顔はお前が協力関係だなんて甘いことに逃げた自業自得なんだろうよッ!フッフフフッ!
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なんて私は考えていた。しかし、現実は違った。彼女はセプターをその手で打倒していた。あの殺意の天使を...私はそのことを初めて聞いた時、私はそんなことを信じることができなかった。彼女は私にあんなにもあっけなく倒されたっていうのに。彼女はあんなにも悔しそうな顔をしていたというのに。私は彼女の聖遺物を奪ったっていうのに。どうしてッ!・・・嗚呼ッ!この最悪な今の所為で私の気分は最悪だッ!私は図書館の説明を黙って聞きながら、この気分に打ちひしがれている私はまるで胸の中を火で炙られてしまっているかのような気持ちを味わっていた。
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「ここは光陰大学附属図書館です。こちら三階建ての図書館となっておりまして、一階が雑誌や新聞、そしてプロマイド等を扱っており、二階が工学系の蔵書を扱っており、三階が小説等、文学系の蔵書を扱っております。参峰町に住まわれている方でしょうか?」「違います。ちょっと調べたいことがありましてね。」「かしこまりました。この図書館は解放されているため、利用していただくことはできるのですが、本の貸し借りにつきましては申し訳ありませんが、この町に住んでいる住人のみに限らせてもらっていますので、何卒宜しくお願い致します。」「なるほど、わかりました。ところでこの時計は立派ですな。」彼は急に話を逸らした。「この時計はこの図書館のトレードマークの大時計です。かつてこの大学を開講した学長にその記念として贈られたこの時計は当時一躍有名になったそうです。この時計を見るためだけに図書館を訪れる人もいたそうです。いや、信じられないですよね。私もこの話は少し盛られているかな?なんて考えてはいるのですけどね。」そう言って彼女はその時計の方へと振り返った。その時計はもう止まっていたが、この時計の纏う雰囲気はとても厳かで、この荘厳な図書館の雰囲気はまさにこの時計から出ているのではないかとすら感じてしまう。私はしばらくこの時計を見ていた。辺りに静寂が満ちる。その静寂を破るようにゼクスは言った。「なるほど。確かにこの時計にはどこかひきつける魅力があるようだ。ところで、そんな素晴らしい時計がどうして止まってしまったままなのですか?」彼女はその問いかけを待ってましたと言いたげな顔をしていた。「それがですね。様々な憶測があって理由は定かではないのですが、なぜか直せなかったらしいんです。時計が止まってしまったことを受け、行政はこの時計を直すために多額の資金を投資したそうです。当時、この時計の素晴らしさは、大学内にとどまらず、この町自体のトレードマークにすらなる勢いだったために、その波に乗ろうとしたのでしょう。たくさんの時計職人がこの時計の修理を試みました。しかし、どういうわけかこの時計がもう一度秒針を告げることはなかったそうです。この時計はどうやらオーダーメイドの様でして、これと同じつくりの時計が見つからなかったそうです。それがこの時計の修理を一層難しくしてしまったそうですね。そして、この時計を戴いた本人、初代学長はこの時計が止まってからしばらくたって、原因不明の病によって倒れたそうです。噂では、この時計が止まった時刻は彼が倒れた時間と一致するのだとか...私はその話はあまりにも出来すぎていていると思うのですけどね。」彼女はよくしゃべっていた。本当に退屈だったのだろう。話している彼女は彼女の感じている退屈な今を憂さ晴らししているかの様だった。私たちは彼女に感謝を伝え、その場を後にした。私たちは一先ず三階へと向かった。
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三階は半分が書架で、そしてもう半分には本を読むための長机が置かれていた。私たちは口論をしながら、歩いていた。しばらくたって、新しい反応があった。その反応が見せた動きは私たちが登ってきた階段とは別の反対側の階段から降りていく、そんな軌跡を描いていた。
「アトロ、ゼクス、お前はこの動きを追え、イブ、お前は来た道を戻れ。挟み撃ちにするぞ。」「ウノ?あなたは?」「この建物は吹き抜けだ。俺はここからお前たちをバックアップする。この聖遺物”アスピドケロンの芳香”は遠距離で効果を発揮するのだからな。」
続く
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