朝御飯ト来ル現実 ニ
「せんぱぁい……もうぎぶです……」
「舐めたこと云ってるんじゃないぞ。ほら後三本。」
開始から一時間。俺は先輩にぼろぼろに負けていた。対人格闘なんてやったことがないというのに、遠慮なくかかってくる先輩に当然勝てる訳なく、俺は数えきれないくらい投げられている。身体中が痛いと叫んでいる。
それでも先輩は息も乱さずに何もなかったかのように立っている。何かむかつく。
「なんだ、文句でもあるのか?」
「否、そんなことないです!!」
どうやら顔に出ていたみたいだ。否定して目を逸らす。この様子を見た先輩はため息を吐いて
「ちょっと息抜きするか。」
そう云って俺を引きずっていた。
「ごめんなさい!立ちます、歩けます!!」
だから引きずらないで下さい!!!と大声を出して訴えた。その声は多分情けないものだった。
先輩に連れられて少し歩いた先には射撃場があった。そして昨日貸してくれた銃と似たものを渡された。
「俺は体術の方が得意だが、お前がそうとは限らないだろ。まぁ銃が得意でも体術は必須だけどな。」
「はぁ……」
「やってみろ。」
そう云われてヒト型の的の前に立ったのは良いものの、これも俺未経験なんだが……ゲームとは勝手が違うだろうに。手に汗が滲んだ。
銃を構えると先程まで揺れていた心は凪いで、ひどく冷静になった。波の音しか聞こえない本当に静かなビーチにいるかの様に頭は空になって、余計なことを考えるでもなく銃口を目標に向け、そうして、引き金を───引いた。
「おまえ……」
先輩が驚いた顔をしていた何てのを知らずに続けて引き金を引く。部屋にはその後三回程銃弾が放たれる音が鳴り響いた。
この位か、と銃を下ろすと先輩の方を見たが、先輩は的を真剣に見ている様だった。不思議に思いつつ俺も的を見ると
「はぁ!?!?」
と声が思わずもれてしまった。
だって、だって────
「飛鳥、全弾ヘッドショットなんて無いだろお前。経験者かよ。」
「違います初めてです!!」
全部頭に中っていた。初心者だから、俺。嫌だなぁ……俺がこの学園に来るよりも前に銃を日常的に扱ってる唯のヤバイ奴みたいじゃないか!!そんな訳ないけど。
圧倒的銃撃センス。あの冬馬は長距離射程の武器による後方支援に長けている。十発あれば九発は中る。だがそれは俺の体術と同じで努力の賜物だ。しかしながら飛鳥はそれを凌駕する才能があるのだろう───そんなことを薫は考えていた。
あり得ない現実に戸惑い続けている俺はずっとその場に立ち尽くしていた。
「はは、びっくりはしたが、コレはもう訓練しなくても大丈夫ってことだよな。」
「せ、せんぱい……?」
「じゃあ戻るぞ。対人格闘の続きな。」
銃を取り上げられて再び引きずられながら元の訓練室への帰路へ着いた。まるで夢から覚めたみたいでやっと現実に戻ってきたと思うのと同時に亦あの痛い思いをしなきゃいけないのかという絶望が俺を襲ってきた。
その後訓練室からは飛鳥の助けを求める声が響いたそうな。
ーーーーーーー
訓練が終わり、疲労でへとへとの飛鳥を帰らせた訓練室に薫は一人残っていた。というのもさらっと流したがあの飛鳥の銃の腕に気になるところがあったからだ。
訓練で使用したヒト型の的の銃の痕を見る。
いくつか撃たれた弾は全て頭に中っていて、しかも頭と云ってもほとんど変わらない場所に痕があった。
薫はその痕を静かに撫でた。あの体術もまともにできない、体力も人より少ない、そしてあの人見知りの彼がここまでの銃の腕を持ち合わせているのだろうか。と。
初心者と云っていたあの顔は間違いなく嘘ではない。それなのに、何故。
「あれー薫じゃん!お疲れ、珍しーね。ここにいるなんて。」
「詩か。お疲れ。ちょっと用があってな。」
「ふーん。」
急に入ってきた詩と一言交わす。俺に珍しいと云うがお前も中々ここには来ないだろうと思ったが口にはしないでおいた。自分から聞いておいて興味の無さそうな返事をするのだけは止めてほしかったが。
「この痕、すごいじゃん!もしかして冬馬がやったの?」
「否、飛鳥がやった。」
「はぁ!?!?嘘でしょそれ!」
「本当だ。」
当然の反応だ。誰もこれを見て入学して一週間も経たない、未経験の一年生がやりましたなんて想像もつかないだろう。俺だって冬馬、雨森班長がやりましたって云ってくれた方が良い。
「うわぁ凄いねぇ、今年の一年。恐ろしいや。」
「他にもなんかいるのか?」
「和泉ちゃんっているでしょ?あの方言の子。今日の対人格闘で担当の三年に圧勝したらしいよ。」
飛鳥に似た別での才能持ちがいるのかと驚いた。これは一年生豊作の年だな。
「そんなことあるのか」
「うーん信じがたいけどね?ま、アタシは強い子いっぱいいたら嬉しいし。アタシ達も実力で抜かされない様に頑張んないと!って思うじゃん?」
「嗚呼、そうだな」
「でしょー、ほら、難しいこと考えないで早く戻ろーよ!」
呑気な詩についていって部屋を出る。胸がなんだかざわざわしていたが、それを無視してとりあえず現実を見ることとした。
負けない様、いろんな人を守れる様に俺も強くならなくては。




