朝御飯ト来ル現実 一
翌日───憂鬱。あんなに昨日楽しかったのに今日は普通に学校があるのか、と。少し明るくなりつつある窓の外を眺めながら思う。
《御伽戦争学園校則其ノ三》戦争ハ朝ノ三時迄トスル。
多分先輩達はこの校則があるから、夜中まで気が抜けなかったんだろう。それなのに楽しんでしまって申し訳ない。
昨日だって帰ってきても部屋に凛さんはいなくて、今ぱっとベッドの方を見たら静かに寝ていた。きっと隊長なのだから大変なこともあるんだろう。
ここには食堂なんてものは無いから自分達で食事を用意しなければならない。なんか人手不足らしい。凛さん、起きる気配ないし、疲れてるだろうし。朝は苦手だけど、お疲れの凛さんに迷惑かけるわけにもいかない。そうやって重たい腰を上げてキッチンに立つ。
こんなこともあろうと昨日の夜、食材を用意しておいた自分がなんと誇らしい。一人暮らしの影響で料理は得意だったから、慣れた手つきで準備をする。凛さんに迷惑じゃないといいけれど。
「あれ……飛鳥?」
「凛さんおはようございます。」
そうしていると凛さんが起きてきた。瞑りそうな目を擦りながらゆっくりとした足取りで。長い髪はぼさぼさで昼の姿とはまるで別人のようだ。
「おはよう…もしかして朝ごはん作ってくれてるのか?」
「はい。あの、迷惑じゃなければ是非。」
恐る恐るそう云ってみると凛さんは一つ笑って云った。
「嬉しいよ、ありがとう。」
その言葉がすごく嬉しくてやって良かったと心から思った……そうだ、明日から早起きしよう。朝、起きるのが嫌いとか嘘だ。うん。そうだ。
「アレルギーとか無かったですか?あの、あと嫌いな食べ物とか…」
「大丈夫!嫌いな食べ物とか無いし。強いて云うなら、俺は和食の方が好きってだけだから。」
「分かりました!明日和食にしますね!」
「ありがとう、けどあんまり気にしなくて良いからな」
こうやって会話できるのが何故か楽しくて、ついつい話してしまう。勿論、手は止めずに。今日は軽めにホットサンドを用意してみた。俺が準備している間、凛さんは席に座って静かに待っていた。
清々しい朝日が立ち込める部屋。普段身に纏っている青と対照的な凛さんの赤色の目が光っている様に見えて、美術館に飾られている絵画を見ている感じがした。普段の様子とは全然違う。それに俺は目を奪われていた。
はっと我に帰り、机に朝ごはんを置いて二人で「いただきます」と手を合わせ食べ始めた。
「飛鳥ありがとな。今まで、朝は惣菜パンとか無しの日とかもあったからすごく助かる。本当に美味しいし。」
「本当ですか!?」
「勿論。良ければこれからも作ってくれよ」
「是非任せてください!!」
思えば朝がこんなにも楽しいのは久しぶりのことだったな。小学校を卒業する頃にはもう両親は海外だったし、家に一人だったから。昔とはまた違うけど、こうして自分の料理で喜んでくれるのは嬉しい。憂鬱だった気分は、これで晴れた。
放課後の戦争の時間。相変わらず緊張している───そう云えば、薫先輩大丈夫だったのかな。そんなことを考えながら昨日と同じ部屋に向かう。
「失礼します」
返事があるかも分からないというのに挨拶をして部屋に入った。
「ちょっと遅かったな。もっと早く来い。」
……ん?
部屋の奥を良く見ると、腕や足に包帯を巻いた薫先輩がいた。窓際の椅子に座って、亦薫先輩愛用の日本刀を磨いていた。もう復帰したのか。
「すみません!所で先輩、大丈夫だったんですか?」
「別にあれくらい問題ない。包帯巻いてるのも本当は要らないくらいの傷だ。それに人の替えはない。」
「全くあの病院は……」と文句垂れていた。すっかり元通りみたいだ。心配してたけど、大丈夫だったみたいだ。良かった。
「俺のことはどうでも良い。それより戦争の話だ。」
薫先輩は日本刀を置いて俺の方を向いた。今さっきと打って変わって真剣な顔だった。
「思ったよりREDの動きが早い──から、こっちも動きを早めることにした。呑気に説明している暇は無い。『出席』して俺について来い。」
「は、はい。」
先輩の云う通りに出席し、後を追う。ここは昨日と変わらずみんな忙しそうに働いている。
「ここがA地区なのは知ってるだろ。意味はここが一番“危険”だってこと。」
「どういうことですか?」
「この基地は高い場所に建てられていて、目の前には川がある。川は丁度領地の境目になっていて、ここは境目の中央にある。辺りを見渡して戦況を確認するのには丁度良い場所だ。」
「だからREDが他より多く襲ってくるから危険、ってことですか?」
「そうだ。」
みんなが慌ただしそうにしている理由も分かったし、昨日幹部がここを襲来してきたのも恐らく同じ理由なんだと思う。
そんなこんなで目的の場所についたのだろう、先輩が立ち止まった。『訓練室』と書かれた扉がある。
「何をするんですか?」
「普段の二倍のスピードで進行する訓練。」
……普段の二倍のスピードで進行する訓練?
おい嘘だろ、という言葉が頭の中でぐるぐると渦巻いていた。先輩の方を見ると、笑顔だった───けどあれは、笑ってない。
直面するであろう現実が急に襲いかかってきて、ものすごく逃げたくなった。
だれか、助けて。




