平和ナ日常
あの地獄の訓練初日から数日。俺は──
筋肉痛で本当に全身が、終わっている。
毎日毎日休むことなくトレーニング。薫先輩には何回も投げられ、唯ひたすら走らされ、疲労困憊だ。なのに先輩は容赦してくれない。
飛鳥は机に突っ伏して寝ている。窓の外の青い空を眺めながら。
多分世界でいつも通りに過ごしている人たちは、この同じ空の下で学校の方針で戦争を合法的に行っている生徒たちがいることを知らないんだろうな、なんて。
連日訓練続きだが、当然常に安全だったわけでは無く、別の地区では戦闘が起こっていて、よく薫先輩は戦闘に駆り出されていた。
たまに着いていってたけど、やっぱり強くて、REDの人たちを圧倒していた。相手の人数が少なくて、幹部が居なかったのもあるんだろうけど。
やっぱり、強くなりたいなぁ。
それがここ数日過ごして俺が考えていることだ。痛む手を強く握った。
「しーみず!何寝てるの?もしかして体調悪い!?保健室行く!?」
「綾目……俺は大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」
「本当?なら良かった!ご飯行こうよ!」
「はいはい。」
相変わらず元気な綾目に心が暖まる。最初はちょっと苦手だったけど、今となっては唯の癒しだ。背が高いのだけは許せないが。
「あの、清水くん!ちょっとよか?」
「えっと、和泉、さん。」
席を立とうとしたときに、和泉さんに声をかけられた。和泉さんは微笑んでいて、俺をじっと見ている。
「あの……なんでここに?」
「いや、あたし清水くんと同じ三組やけんね!?忘れとったと?」
「おっちょこちょいやん!」とつつかれる。地味に痛い。
「それで……どうされました?」
「んー、いっつもご飯一緒に食べよる子が今日休みやけんさ、良かったら一緒に食べてもよか?」
和泉は両手を合わせながら静かに頭を下げてきた。ここまでしなくていいのに……と飛鳥は思いながらも、さすがに断るわけにはいかないなと思い、
「別に大丈夫ですよ…?綾目も良いよな?」
「うん!俺気にしないから!!よろしくね!いずみちゃん!」
彼女の要望を受けることにした。その返答を聞いた和泉さんは頭を上げ、満面の笑みで
「ほんま!?ありがとう!ばり嬉しい!」
そう云いながら手をいきなり繋がれ、上下に勢い良く振られた。ちょっと痛い、けど喜んでくれて良かったという気持ちの方が勝っていた。
「ここのラーメン初めて食べたばってん、ばりうまかね!」
「でしょー!俺達のお気に入り!だよね、しみず!」
「否そうだけど……」
綾目と和泉さん仲良くなるの早すぎやしませんか……
昼食をどうしようかと悩んでいたところ、結局いつものラーメン屋に来た。ここのラーメン、結構量があるから和泉さん大丈夫かと思ってたけど……めちゃくちゃ食べてる。なんなら俺より食べてる。羨ましい。
「綾目くんって大きいけん、最初ばり怖く見えとったばってん…かわいいかね~」
「おれが、かわいい?」
「それはホントに分かります……」
「やろ!?毎日の癒しになるわぁ」
「カワイイ?」
「かわいい」の言葉に綾目は頭を傾けていた。でもだんだんと顔をしかめていっていた。どうやら不満らしい。綾目は手を力強く握って云った。
「カッコいいって云ってよ!」
「「かわいい。」」
「なんでぇ!」
ばんばんと机を叩く綾目。
「お静かに。」
と店長から説教が一つ入ると肩を狭め、再びラーメンを啜り始めた。この間に替え玉を注文する和泉さん。
あんまり騒がしいのは苦手だったんだけどなぁ……
ずっとこのまま、誰も傷つかないで平和でいてほしいなぁと、少し思った。
「あ、あの、清水くん。」
「東さん?どうしたんですか…?」
教室に帰ってくると東さんが声をかけてきた。下を向いていて、目に写っている花がふるふる震えていた。
「うぅ、あの、えっと」
目線があっちこっちにいって定まらず、肩は強ばっている。どうやら相当緊張しているらしい。
「す、数Ⅰの教科書を貸していただけないでしょうか!」
その言葉が聞こえた瞬間──東さんは土下座していた。否大げさでしょ、唯教科書借りに来ただけなのに?
「あ、あの」
「やっぱりダメですよね、私みたいなのにすみません……」
「否、そうじゃなくて…教科書ぐらいなら貸すよ。遠慮しなくても……」
俺がそう云った途端に東さんは立ち上がり、目を見開いて
「良いんですか!ありがとうございます!!」
くもり一つ無い笑顔でそう返事をしてきた。それを見て少し心が暖かくなった。
「どうぞ、」と飛鳥が手渡すと東は再び感謝を告げ、
「ほんとに良かったです。あの、帰るときにお礼と一緒に返しますね。失礼します!」
と颯爽と帰っていった。土下座していたときの絶望的な様子から一気に元気になったので安心した。こんな俺でも、頼ってもらえて良かった。
この後綾目にうるさく東さんのことについて質問責めにあったが──それは亦別の話だ。




