7. 大神殿を目指す理由
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「改めて感謝申し上げるぞ、アレックス殿。私はメディナと申すものだ」
「メディナお嬢様にお仕えしております、ラデと申します。私からも感謝を、アレックス様」
ン十本の串焼きを腹に収めてようやく理性が戻ってきたらしい二人に頭を下げられた。
なお、串焼きのおっちゃんは仕込んだ分あるだけ食べ尽くされたので今日は店仕舞いとのことだった。
「あー、まぁ。賭け事で負けたんだったか。そりゃ運が悪かったな」
「聞かれてましたか。お恥ずかしいことです」
とラデさん。
一方で賭け事に興じた当の本人はというと、
「うむ。あの時のスリーカードがイケてたら今頃、素寒貧どころかスッた分の倍額が戻ってきていたものを」
もしかして : 自業自得
イケてたとしても普通スリーカードに全財産は賭けないと思いますよお嬢様つーかちっとは反省の色を見せてはいかがですかお嬢様隣でメイドさんが超怖い笑顔見せてますよお嬢様?
俺がそんな目で見ていると、お嬢様がス、と護符を取り出した。
中央に赤い小さな宝石が仕込んである、魔法陣の描かれた薄い金属板だ。
「本当に受け取ってはくれぬのか?」
「いくら何でもそりゃ、さすがに高価すぎるだろ」
改めて護符を見させてもらったが。
護符の中身が本当に極炎鳥の羽かどうかはわからんが、鑑定系スキルの無い俺でも判るほど濃密な炎熱系の魔力が籠っている代物。
貴族の家宝級とか思っていたが、本当に国宝級かもしれん。
お金というものの価値は、それで何を買うかによって増減するものだ。
金貨一枚、串焼きを買うには多すぎるが、国宝級の護符を買うには少なすぎる。
いくら死にそうなほど空腹だったからと言って、金貨一枚分の串焼きと引き換えにするわけにはいかねぇよ。
「ま、珍しいもの見せてもらったと思えばな」
「なんとも太っ腹な若者であるな。良き良き」
そう。今の俺はちょっと裕福なのである。
冒険者は色々と物入りだったりする。
魔獣と戦えば武器防具が消耗するし、怪我したり毒を食らえば薬を使う。その補充や武器防具の手入れにも金が掛かるわけだ。
複数のパーティが寄り集まる大規模なクランであれば本拠地なんかも持っていたりして、その維持費も必要になる。
そんなわけで冒険や依頼で手に入れる報酬の一部をパーティの共有財産とし、各種必要経費をそこから出すわけだが、アイツら俺を追放する折に、その共有財産の四分の一を俺にわけてくれたのだ。
っていうか、ここまでしてくれるんだったらもう追放じゃないよな、これ。
とにかくそこそこ稼いでいた俺たちパーティの共有財産をいくらか貰ったお陰で、何年か遊んで暮らしても何とかなる程度の貯えを今俺は有しているのである。
大迷界での活動資金だから本当に遊んで暮らすわけにはいかないけどな。それでも金貨一枚くらいならいくらか無駄遣いしても……ま、うんって感じだ。
「それでアレックス殿は」
「あー。どうせしがない冒険者だ、別に敬称なんていらねーよ」
「ふむ、そうか? ではそうさせていただく。私の事もメディナと気軽に呼んでいただこう」
ちらりとメイドさんに向かって視線を向けるが、ラデさんはフルフルと首を振った。あくまで自分は一歩下がった立場である、という事らしい。
「アレックスは旅の途中にこの街に寄ったとのことだが、何か理由あっての事だろうか」
「まぁな。というか、信心以外の理由で冒険者ーーに限らず、腕を頼りに生きる奴らがこの神都に寄るっていうなら理由は一つしかないんじゃないかな」
街の大通りを並んで歩いていた俺たち。その正面にある建物と言ったら一つしかない。
大神殿。
世界最大の信者を抱える大宗教の総本山。
信者であれば人生で一度は参っておきたいと言われる聖地である。
嘘か誠か、関係者でもごく一部の者しか立ち入ることのできない区域には神サマの声を受けることができる聖女がいるとかいないとか。
だが俺をはじめとした信心乏しい者たちにとって、そして武芸で身を立てるものであれば、また別の理由で一度は立ち寄ってみるべきであると言われている。
「【聖魔八絶】であるな」
「正解」
大神殿は一部を完全に一般公開しているのだが、その前庭に、公開どころか訪問者の誰もが触ってもよいものがある。
大きな岩に突き立つ【聖の四剣】と【魔の四剣】ーー八振りの武器。
あわせて、【聖魔八絶】。
聖剣だ魔剣だと言っているが、中には鞭だったり杖だったりもあるんだが、要するに伝説の武器ってやつが安置されている。
「誰でも抜くことができるわけではない、と聞くが」
「その通り。武器に認められた者でないと、どんな怪力自慢だってびくともしやしない。切っ先が岩に数センチ刺さっているだけなのにな。あれはちょっとした不思議体験だったぜ」
風が吹いただけで抜けて転がりそうって見た目なのに、いくら力を込めてもピクリとも動かない。
だが武器に認められた『持ち主』ならば、指に引っ掛けるだけでもスルリと抜けてしまう。
「まるでその言い分だと、アレックス。お主は既に挑んだことがあるみたいな言い方じゃな?」
メディナがちらりと俺を見上げて言う。
「おうよ。三年前にな」
そしてその結果。
俺は【聖剣 颱嵐刀】に認められたのだ。
【聖魔八絶】に認められたその持ち主のことを、『勇者』という。
俺は別に自称で勇者をやっていたわけじゃないし、勝手に勇者バーティを組んでいたわけでもない。
正式に勇者と認められる条件を満たしていたから勇者を名乗っていたのである。
「そう。何を隠そう、俺こそが【聖剣 颱嵐刀】に認められし風の勇者、アレックスである!」
「「おおー」」
メディナとラデさんが拍手してくれる。
(といっても勇者って、別にそこまで珍しい存在でもないがな)
(そうなのですか?)
(【天神剣】と【皇魔剣】だけは記録にないが、他の六振りはちょくちょく持ち主現れるし、代替わりもあるし……)
(あら)
(あと、風の聖剣は割と尻軽というか、結構頻繁に主を変えていたはずだの)
(あらら)
「はいそこー! ひそひそ話なら聞こえないようにね、せめて聞こえないようにね!?」
ラデさんが俺を見た。
「尻軽……刀……先っちょだけ……ふむ」
「なんか不吉な単語だけ列挙して納得するのやめろ!」
キュッとなったわ!
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます。
ここから間違いなく面白くなっていく物語です。
絶対に損はさせません。是非ともブックマークと評価を頂きますよう、よろしくお願いいたします。




