6. 草臥れた二人と目が合って
「とは言え、真っすぐ大迷界に向かうのも芸が無いってなもんでだな。寄ってみたワケ大神殿」
「はぁ」
と、気の抜けた返事をする通行審査官。
顔に「知った事か」と「さっさと行けよ次がつかえてンだからよ」と書いてある。
とにかく通行許可を貰えたので、俺は意気揚々と神都の門を潜り抜けた。
荘厳な白い石積みの門は遠目からも素晴らしい出来栄えだったが、こうして下から見上げても迫力満点だ。
細部にまで装飾と彫刻が施され、神都の威厳を表わしている。
門を超えた先には、神都の大通りだ。
多くの馬車や魔導車人々が行きかうこの目抜き通り、数キロも続く通りの真正面に、これまた真っ白な大神殿が鎮座している。
俺は腰に差した『聖剣 颱嵐刀』をポンと叩いた。
「お前も久しぶりの帰省だな」
するとふわりと風が吹いて、俺の前髪がさらりと揺れる。
まるでこの刀が返事をしたかのように。
俺は肩を竦めると、鼻歌交じりに歩き出した。
根拠は何もないんだが、とてもいい天気だ。こんないい天気の日には、きっといいことが起こるに違いないーー
この神都は、大陸でも有数の大都市だ。
しかもいくつもの街道が集中する一大商業都市でもある。
住民だけでなく、様々な理由で立ち寄る旅人も多い。
そんな旅人向けの装備や道具を扱う店や、小物や食べ物を扱っている露店を冷やかしながら歩くこと半刻。
大神殿の正面入り口の階段付近で、黒いモノを俺は見た。黒いというか、なんというか、全体的に薄黒……いや、薄汚れていた。
その薄汚れた黒いモノは二つあった。なんならモノではなくて、者だった。
例えるなら文無しで二週間くらい街道を旅して野宿しまくったらあんな風に草臥れるだろうなって感じになった、二人の人物である。
「だからぁ。ウチは現金しか扱ってないって言ってるだろう」
「し、しかしだな店主。今妾らは現金の持ち合わせが無いのだ。だからこれ、これでその串焼きを二本売ってはくれぬか……? も、もう四日も飲まず食わずで」
黒い者の片方が露店の店主と押し問答をしている。
手にしているのは、何かのアクセサリーだろうか。離れた俺の位置からでも魔力を感じる強力な奴だ。
「この護符には魔界の奥底に住む極炎鳥の羽が仕込んであるのじゃ。炎熱属性の攻撃を無効化し冷気属性ダメージを大幅に軽減してくれる、冒険者垂涎のアイテムなのじゃぞ? 出る場所に出せば金貨数万枚は下らぬ逸品。夏の日差しも裸足で逃げ出す、今日から貴女も日焼け止め要らず……!」
マジか。
護符にも等級があって、低いものだと気休め程度。黒いヒトが言っている通りの効果なら超特級、買うならば確かに万単位の金貨が必要だろう。
だが、
「そんなもん持ってこられても困るよ。ウチは串焼きの店だぜ? そりゃ火傷防止になるなら有難いけどよ……本物か?」
そりゃそうだ。
そんな炎熱攻撃無効なんて代物、下手したら国宝……とまではいかずとも、どこぞの貴族の家宝になっててもおかしくない代物だ。
いくら腹が減っているからと言っても串焼きの代金代わりに出していいものじゃない。
もっともそれが本物だという証拠も保証もないが。逆に本物だとすれば、露店のおっちゃんは何百万本の串焼きを渡さなきゃならなくなる。
すっげぇ。本物、偽物、どっちにしても超迷惑。
「諦めましょう、メディナお嬢様。現金を持たない我々が悪いのです」
「うう~。お腹が空いたよう、ラデぇ~」
「諦めましょう、メディナお嬢様。道中で賭け事に熱くなり過ぎたお嬢様が悪いのです。有り金全部巻き上げられるってマジですか」
「うう~。だって、次こそ来ると思ったもん……3のスリーカードだぞ、勝てると思うだろう……」
「微妙!? そんな微妙な手札で全賭けしたんですかあの時!?」
「うう~。だって、負けが込んでたから、一発逆転狙おうと思ってぇ……」
もう一人の黒い方……ヨレたヘッドドレスに薄汚れたエプロン。メイドさんだ。
そのメイドさんも露店のおっちゃんもすげぇ顔してる。
だよな。
スリーカード、弱くはないけど全賭けに出るほどの勝負手じゃないだろそれ。
冒険者ってのは命を張る分、刹那的に生きる奴も多い。賭け事で身を崩す知り合いもいたけど、いくら茹った頭でもそこまでじゃなかったぞ。
そんなことを考えてると、ゴキュルルルル! と何か魔獣が唸るような音がした。
こんな街中で!? と俺や辺りに居た人々が身構えると、同時に黒いヒト……メディナと呼ばれた女性が、ぺたりと座り込んだ。
「お腹が減って力が出ないよ……」
「概ねほとんどの生き物は、お腹が空くと力が出ないものですよメディナお嬢様?」
腹が鳴った音かよ!
ふと、そのメディナさんとやらと、目があってしまった。
「…………」
すっ。
(腹を抑えながら無言で護符を俺に差し出す)
「…………ッッ!」
やめろ。
そんな、雨に打たれプルプル震えながら街をさ迷う子犬のような目で俺を見るな……!
「毎度ありぃ。……ニィちゃん、ちょっとオマケしといてやったからよ」
「ありがとよ大将……」
露店のおっちゃんに、弱弱しく返す。
結局あの視線に負けて、俺は黒いヒト二人に串焼きを奢る事になってしまった。
いや、下心とかじゃない。
なんというか、「これを見捨てたら夢見が悪いというか、ちょっと俺、自分で自分の事を少し嫌いになっちまいそうだ」っていう表情で見つめられてしまっちゃなぁ。
「しっかし、良い食いっぷりだぜオイ」
「ちげぇねぇ」
俺は俺で串焼きを食ってるのだが、それ以上に食ってるというか、一心不乱というか、貪っているという表現がぴったりくる勢いで串に食らいついている二人の女性。
周囲には食べ終えた串が何十本か転がっている。
金貨一枚で焼けるだけ全部、と注文したのだがまぁ焼けた端から食うわ食うわ。
護符が本物かどうかはわからんし本当に賭け事でスッたのかは知らないが、路銀が尽きてここ数日飲まず食わずというのは本当らしい。
空腹も極限まで来ると、人はこう、恥も外聞も投げ捨てる事ができるのだと俺は思い知った。
手に二、三本持ってるのに次の串を貰ってるぞ。先に手に持ってるのから食べなさいよ……。
すると、トントンと俺は肩を叩かれた。
見ると隣で飲み物の露店のおっちゃんが、ジュースの入ったコップ三つを盆に乗せて立っていた。
おっちゃんは俺を見た。
続けてがっついて串焼きを頬張る二人を見て、手元の盆に視線を落とし、再び俺を見て頷いた。
すっげぇ。
こんな無言なのに雄弁な売り込み、初めてだよ。
「四分銀貨一枚でいいよ」
「……」
「毎度ッ」
俺が四分銀貨を渡すと同時に、
「ンガンッン」
メディナお嬢様が串焼きを喉に詰まらせ、胸を叩きながら顔を青くさせていた。
全く商売上手だぜ、この街の露店商はよ。
ついに出会ってしまった追放勇者と解任魔王。
そうです。
読者の皆様のご想像の通り、この解任魔王、ポンコツです。
ポンコツです!(大事なry)
正直アレックスは、二人を見捨ててどっか行った方がよかったんでないかと思うよ、作者としても。
さてさて。
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます。
ここから間違いなく面白くなっていく物語です。
絶対に損はさせません。是非ともブックマークと評価を頂きますよう、よろしくお願いいたします。




