道順組立W
「…………そろそろ、山口くんを夜間応援と日曜出勤をさせたいんだけど、どう思います?」
「んーーー、ま、いいんじゃね?」
「大丈夫だろう。ハッキリ言って、他班のカス共よりも山口は使える」
実の言葉に、木下、矢木の2名は了承。
このキツイ班でそこまで任され、提案されるというのは、ある意味で可哀想。
「それでなんですけど」
「んー。言いたい事は分かるけれどよ、俺は初日の山口を教えたんだぜ?」
「俺は2区目を山口に教えたー」
えーーーーっ、皆さん。その反応するのはダメじゃないですかーって、表情が丸わかりの実である。ダメ元で
「ちょっと~、木下さん達。協力してくださいよ~」
「「ヤダ~~、俺達は定時で帰るわ~」」
矢木が一番楽してるだろうがって、ツッコミできるだろうが。
順番的には実が、山口を指導する番である。実際のところ、
「日曜出勤と夜間応援の両方を指導するのは嫌なんですけど。大変なんですよ?」
「大丈夫だ。お前なら余裕だろ」
「お前が№1だ!!」
その自負はあるにしろ、厄介事を押し付けるんじゃーない。
いっそのこと、ここまで来るのなら辞めて欲しいと思ったりもするが。もう一押しで山口が配達員として一人前になろうという状況。
お待ちかね。
おそらく、お客様達にはこっちの方が馴染むし、有り難い事だろう。役所が土日休んでるじゃねぇーよって文句を言いたいように、土日も休んでるんじゃねぇーぞカス共と、そんな業務が日曜配達と夜間応援である。
◇ ◇
「兵多。一つ言っておく」
「なんだよ?」
班の状況を知っている山口部長は、その日の朝。息子を息子と思って声をかけた。
「お前、今日から実に指導されるようだな。夜間応援」
「うん。一緒に出ろって。夜間配達まで間に合うか不安だけど」
この班。夜勤を欠区にして、計年消化などにも充てている状況だ。
「実はな。……ハッキリ言うが、木下や矢木とは比べ物にならないくらい、キツイぞ」
「親父が言うのか」
あんな優しい顔をして、業務だって手伝ってくれる人。手伝ってくれるけど、うるせーし、誤配もする木下さんと違って、困ったら何でも助けてくれる実さんが
「そんなにキツイ事を言う?矢木さんはめっちゃ言葉がキツイけど」
「…………まぁ、お前がそう思うならそうだと思うな。俺は忠告したからな」
「なんだよ、それ」
どうして、実のような人間がこの会社に勤めていて、ブチギレそうな文句を言わないのか。その理由を知っている山口部長にとっては、彼もまた色んな被害者だからと思って、黙認している。
それに巻き込まれる息子と思うと、ちょっと止めてやりたい。
自分で息子を連れてきてるんだけどな。
そんなわけで職場に来た山口。実に挨拶をしたらすぐに、
「山口くん。君はどっちの区をやる?」
山口ができる配達地域の2区。いずれ、実が事前に”大区分”を終わらせてくれたわけだが、
「じゃあ、あっちで(自分が最初に覚えたとこ)」
「分かった。じゃあ、遅くても17時までには局に戻ってくるように頑張ってね?」
「え?応援とかないんですか?」
「あははは、木下さんと矢木さんは超勤がヤバイから定時で帰るんだよ。”他区応援”して定時上がりって、大変なんだよ?」
応援なしで夜間再配の時間までに仕事を終わらすんかい!!
「大丈夫、大丈夫。それくらいで”死なない”から」
あはははははって、どこか木下を思わせる緩やかな表情。変な境地にいるような、今まで見た事がない実の態度。去っていく実の後で、木下が小声で
「あれが実の本心だから、気を付けとけよ」
「?????」
なんだ?あの人、思った以上にヤベェ人なのか!?
矢木に指導された、全部の”道順組立”を一人で指導しろという、パワハラ案件のような指導がヤベェと思っていたのだが。
実はサラッとその上で、時間制限をかけてきた。
「実さんが手伝ってくれますかね?」
「お前の頑張り次第」
木下が少し心配な態度をとる山口を思って、優しく教えておく
「……まぁ、頑張らなくてもいい」
「は?」
「元々、実なら夜間配達はあいつ一人で大丈夫だ。お前を補助に立てるのは、業務を覚えろって意味。まだ力不足と思ったり、実の事をなんとも思わねぇなら素直にできねぇって言え。自分の配達地域だけちゃんとこなせ」
無理する必要はないし、人には人それぞれの考えや力、やれることがあるって事。山口がどれだけ理解してくれるかが、今後を左右すると言っていい。
「まったく。俺は木下さんや矢木さんとは違うぞ」
とはいえ、山口。舐められたり、借りを作るってのは性に合ってない、心は熱い男。負けず嫌いや粘り強さというのは、ゲームで作られるものかもしれないな。
応援がないけど、夜間応援に出られるように自分で頑張れ。
「やってやろうじゃねぇーかーーー!!」
というわけで、デキましたとさ。
「はーはー、終わりましたよ!書留、32本あったけど……俺は終わらせましたよ!」
「おー。山口くん。自力でよくできるようになったね。凄い成長だよ」
喧嘩を買ったような行動ではあったが、やっぱり書留30本以上で17:00前に戻ってくるのは相当負担がかかる。にもかかわらず、今日は実の方が書留も多いというのに。
平気な顔をしてやがる。
「2人でやるから、17時30分でもいいかなって後で思ったんだけどね」
「それ先に言ってくださいよ!!少し休憩をとりにいったよ!」
「いやいや。君に正確な配達をこなす段階はもう過ぎたよ。これからは少しずつスピードを上げて欲しいからね」
意図を一々説明していると面倒であるが。
夜間応援や夜間配達は、時間が勝負になる。言い方が悪い話、通常配達は20時までやっていても構わない。
「今日の物数で配達が18時過ぎたら残業代払わないけどな。まぁ、お前等が仕事ができないと喚いているのも自由だよ」
とんでもない鬼畜な発言をしている部長が、山口の父親だったりもする。管理者だってな、使えない配達員に残業代なんか払いたくないし、むしろ定時で帰ってくる奴にボーナスとして支給してやりたいとか考えている方もいる。
「あ、今朝言い忘れたんだけどさ。いいよね?」
「はい?」
なんだ?すげー、嫌な予感がする。何を言い出すんだ?って時に
「今週、私と山口くんがずーーーっと、夜間応援をする予定だけどね」
「俺ずっと夜間応援するの!?って事は、今週はこの業務をずっと!?」
「うん!」
火曜日~土曜日まで、ずーーーっと、夜間応援が決定。
「矢木さんと木下さんに年休をとらせるからね」
「おええぇっ」
「どうしたんだい?」
「ちょっ、俺。今日、めっちゃ頑張ったんですけど。明日も応援が入らず……夜間応援を?」
「全力で頑張るんだよ!!」
優しい人だと思ったのに、……この人。矢木さんの悪いところをさらに悪くした指導をしてやがる。だから、親父も木下さんも俺の心配していやがったのか!!
5連続で夜間応援を任されるって。っていうか、夜間応援をやるのに”他区応援”をもらう事が0とかイカれてんだろ!この人、やべぇ!!
「大丈夫大丈夫」
「な、なにが」
「そーいう事で死なないって。クロ〇コさんや佐〇さんって、ぶっちゃけ毎日、朝から夜までやってるんだから。それと一緒と思ってよ」
「おええぇぇっ」
夜間応援をする時に覚えておきたい。ちょっとした事。
午前中に出会う、他社の配達員さんも夜の再配でバッタリ会う事は珍しくない。
お互い拘束時間がエグイですよね。
◇ ◇
以前にも書きましたが、このお話は土曜配達がされている時代であり、再配時間に関しても
”午前配”、”12時~14時”、”14時~17時”、”17時~19時”、”19時~21時”、”20時~21時”、”指定なし”
という時間指定のされ方にしてあります。
現在の時間指定は
”午前配”、”12時~14時”、”14時~16時”、”16時~18時”、”18時~20時”、”19時~21時”、”20時~21時、(ゆうパックのみ)”、”指定なし”
という割り振りだと思われます。
「夜間配達に関する”道順組立”の基礎なんだけど」
「はい」
「そこそこあるから、まずは必ず覚えて欲しい事から言うね」
夜間配達の”1回目”の出発時間はだいたい、17時10分頃。
夜間配達の配達地域は、班内全域である。
夜間配達で”1回目”に配達するのは、”再配希望”、”速達”、”AMAZON”、”レターパックライト+プラス”。
「いやぁ~、昔ってキツイねぇ~」
「夜間再配1回目って?」
「夜間再配は2回行かなきゃ行けないんだよ(当時の話)」
「ふぁっ!?」
「だって、再配希望ができる最後の時間は、”19:00”なんだよ。山口くんだって、18時頃に夜間再配を電話でもらった事があるだろう?」
夜間配達の”2回目”、再配希望の取り纏めがあるため、出発時間はだいたい、19時40分頃。
夜間配達の配達地域は、班内全域である。
夜間配達で”2回目”に配達するのは、”再配希望”、”AMAZON当日便”
日勤者が夜間応援できる、最大の残業時間は21:00。これは使用している携帯端末が全て終了していないといけない事である。要約すると、20:50には局内に戻ってこないとダメ。
「ここも時間制限あんの!?朝全力で業務をこなしているのに、夜もぶっ飛ばしていくのかよ!」
「うん。私達は日勤だからね」
いちお、当時のシフトでは夜勤者がいる事は多かったが……。破綻しかける年は、ほとんどの班で夜勤者がいない事は珍しくなかった。




