道順組立U
「え?次は私なんですか?」
この鬼畜過ぎる班内において、一番の実力者は彼である。
「う~~ん、山口部長はちょっとアレなんですけれど~」
殿堂入りというか、神域は山口の父親になってしまうが。
まぁ”人間レベル”で可能という領域になると、この実が最高クラスに入りそうな感じである。
「上には上がいるもんですけど、それで良ければご参考にしてください」
そんな彼が”道順組立”において、上達していったお話となる。
◇ ◇
実の朝は早い。あいさつ代わりに、7時には局内。班の中にいる。普段、8時だぞ。
「おーう、実。おはよーさん」
「おはようございます。今日はいい天気ですね、木下さん」
ちなみに木下もいる。(木下の方がいつも早い。家が近いのずりー)
実の業務で毎朝チェックするのは、今日の担当地域の転居情報のチェックである。旧住所配達を引き起こすと、こちらもお客様も迷惑な話である。
木下と同じく、彼もまたこの班内のエリアを全て任せられる能力を備えているが、実の場合はお客様に対する意識が非常に強く、結果的に早くて正確な業務をこなせて、技の引き出しも非常に多いというのが特徴的。
すでに働いているところもオカシイが……。
パァンッパァンッ
実の”道順組立”の業務……。その前に、”大区分”の時点で彼の動きは新人配達員とは異なっている。その1つに、”転居・還付”となる事が分かっている郵便物は、指定の区分口に入れないというやり方である。
「区分口って小さいですからね。最近、ゆうパケットが大きくて、区分口が足りていないし。そもそも外しておいた方が邪魔になりません」
実の言葉以外にも、誤って組み入れてしまう危険性を減らすため、”大区分”や”道順組立”の業務時による郵便物の落下を抑えるなど、有効な動きである。この方法はその地域の事や郵便物を把握してなければ、そもそもできない”大区分”のやり方である。
「”転居・還付”は道順組立前に終わらせてますね。ま、仕事が全部終わってからで良いですよ。この仕事は悪天候と日没前に配達を片付けるのが、仕事ですから」
郵便の事故処理は片づけておく。
実のやり方が、”道順組立”に及ぼす影響は非常に大きく。以前に、”大区分”した郵便物が転居や還付処理になりやすいというのを説明させて頂いたが。”道順組立”の時、それらの郵便物が”配達原簿”に記載されている郵便物だけになると、とてつもなくやりやすくて、安定したものになる。”配達原簿”に載っていない郵便物は、現地確認が一番簡単だと思われるが……。実際のところは、過去の転居データを確認した方がムダがない。それでも20秒、30秒。そして、その転居データにも載ってない場合もある(昔の住人が転居届出さないで、転居したなどで起こる)。
そうして、居住確認のハガキをご用意する……。
ともかく、”道順組立”に支障が出る時間は掛かるという事だ。始めからなければいいし、お昼頃に来る転出入の届け出で、やってくるかもしれないならそれに賭けてみるのも良いだろう。
ガラララララ
トントンッ
今日、担当する地区の”大区分”が終われば、実のお仕事は次に移行。正直、郵便課がやってくれよって思っている事なのだが、前にも言ったように郵便課は地域の事が分かっていないため、班分けされてやってくる。(他の局だと、郵便課がやってたりするとか聞いた事ありますけど、どうなんだろう?)
”速達・レターパック・AMAZON・ゆうパック(これは小さい奴)”の区分である。
「今日も多いですね」
この班内では、実が担当している。実がいない日は木下がやる。ちなみにこの2人が同時に休むことはない。班が回らないからだ。
長机を用意し、各地域ごとに班ごとに分けてもらった、”速達・レターパック”などを分けてあげる。
こんなことを言うと、あれで申し訳ないのだが。
「私達の方が大事な郵便を分けてますよね~?書留はしませんけれども……」
通常郵便とは違って、お客様が頼んで差し出し、受け取りたいという意志を感じる。しかしながら、こーいった郵便物の特徴として、
「あ、これ。11班の方ですかね?」
「!はははは、そうそう!これこっちー」
差出人も受取人も、住所を間違えて記入している事もある。良くあるのが、”東西南北”といった部分を書き違えてしまう。これを分ける人達は、住所だけでなく”郵便番号”などもしっかりとチェックする。
”追跡郵便”がメインとなる区分であるため、実はこの業務の中で各地域の居住情報を知り得ている。”追跡郵便”だからこそ、99%はその地域に存在しているものだ。10分~15分はかかる作業ではあるが、こいつをやっているから実もまた、木下と同様に色んな地域を回されても、安定した業務ができているのだ。
「”速達”や”レターパック”は、未入居の方の郵便物が来てたりする事が多いので、入れ替わりにも対応しやすいんですよ。はははは」
実は全区をやる身なので、こんな奴おるっけ?、と感じるような”速達”などは、配達原簿を確認したりしてから、班内に交付してくれる。また、昔にいた方の”速達”だったのかもチェックしてくれる。班内のミスが、万が一にも自分に降りかかるのを防ぐため。色んな区をやってると、言い方悪いが
「木下さんの誤配を謝罪するのはお断りです」
「言ったな、テメェ~」
◇ ◇
実を教えた人は木下と山口部長の2名であり、2人の仕事ぶりから良きところを学んでいったという感じがある。良い配達員には、良い指導者がいるもの。
「山口部長には感謝ですね」
特に色々あって、自分をここに連れて来てくれた山口部長には、今でも恩を返すために従っている。
その山口部長がやっていたというか。特に慣れている人なら行っている可能性がある、”道順組立”が存在する。
新人や誤配の多い連中がやっていると、上からぶっ飛ばされるやり方である。しかし、できる人は普通にやってしまうというか、癖として身についてしまっている。やりたくてやっているわけでもない。配達員として、【その”道順組立”を前提とした、業務内容は見直して欲しい】。そんなやり方。
バババババババッ
「……実さん。どうして、定形外の郵便物から”道順組立”をしてるんですか?」
「んーー?まぁ、今日は12万で多いからね。山口くん」
配達地区を2区覚えて本領というのは、自分が知っている地域を別の担当者がどうやって行っているかを見る事ができ、とても参考になるからだ。
矢木がよくやっているケースが多いのだが、彼の場合はほとんど固定された区。それに対して、実は空いた区に入る勤務体制にも関わらず、定形外の郵便物から組立をし
「配達原簿を見なくて大丈夫なんですか?」
「なんとなく分かるよ。ポストに入れなきゃ、誤配じゃないからね」
物数が多い時は、”配達原簿”を見ずに”道順組立”をしていく。それだけ記憶、経験を積み重ねている事なのだろうが。
よく誤配せず、よく誤組立をしない。
「……俺がやれるようになるのは、まだ先だなー」
「はははは、何事も地道にやりなさいよ」
「でも、その組立の仕方だけじゃなくて。どーいう配達をするか気になるというか、……一つに加減が上手いですよね」
「!」
「実さん達って”道順組立”が異常に早いのはそうなんですけど、”出発作業”というか、エレベーターに乗り込むまでが他班の人達に比べて、圧倒的に早い。実さんの場合は特に”道順組立”って感じじゃなくて、積込って感じ」
”道順組立”を瞬時に完了させるのも大事であるが、バイクに積み込むまでの範囲。
山口なりに実の仕事を見て、
「持ち戻りが少ないですよね?全部やり切る姿勢が凄い」
初心者がやりやすい、ミスじゃないけどミスと言える事に、午前中に”道順組立”をし終えた郵便物を配達し切れずに戻ってくるケースがある。
「それは損してる感があるんだよね。郵便物の1通は大した事はないけれど、バイクに積んでいる以上は積載になっているからね。自分の力量を図れてないというミスだよ」
トラブルもあるだろうけど、それを通常の事だと思っているとマズイ。まずは自分がどれだけできるのかを、多少は過大評価してやってみるといい。
「色んな区を回されるとね。バイクに積み込む方法も、確立していかないとミスになるからね。バイクのキャリーケースには台車の籠が入るって言ったじゃん」
「はい」
「私と木下さん、矢木さんはソレをしないんですよ。っていうか、この班の物量はそれじゃできないし。それに任される区や”時間指定”、”天気”によっては、決められた道順じゃない配達をとるだろう?時間指定のある大型マンションから配達するとか」
「確かに……って、俺はまだそれを許されてないんですが」
「まぁ、今は我慢しときなさい」
2パスの道順とは違った配達を試みた方がいい日があるのも確か。積込に時間がかかる事もあるが、配達の自由度と積み込める郵便物の量。そもそも
「山口くんもだけれど、私達は”道順組立”が早過ぎるからね。午前からキャリケースでやるとサボってるように思われるし、午後分を組み上げるのも良いですけれど配達し終えた方がいいでしょ?」
能力ある方が自由な配達ができるのは確かである。だから、実がやっているようなお遊びもできる。




