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海に面した岩場に立ち、トーマは写真を見つめていた。岩場に打ち付ける波の音だけが、先ほどから繰り返し、辺り一帯には響き渡っている。背後からは黄金色の光がトーマの背中を照らしていた。夜明けの虚空には満月が、白い光を地上へと落としている。
写真を見つめるトーマの表情からは、あらゆる感情が意図的に排除されていた。その姿を誰に見られて、何を言われようが、「別に」の一言ですべてを片付けてしまえるほどに。
幾度となく目に焼き付けたその写真を、トーマは改めて観察する。ふざけるハレと、怒鳴る自分。それを驚きながら見守る、ノアとカレント、そしてドボロ。自分の口角が微かに上がってしまっていることを、ハレに気付かれていないといいが、と静かな心でトーマは思う。それこそハレにどんな言葉と表情でからかわれたものか、トーマには分かったものではなかった。
鼻から短く溜め息を吹き出しながら、微かな笑みを浮かべると、トーマは腰のポーチへと写真をしまった。タイミング悪くその瞬間に、誰かが後ろからトーマを呼んだ。
「トーマ」
再び表情を消し去りながら、トーマは背後を振り返る。そこに居たのはモナトだった。トーマが視線だけで答えると、「全員揃ったよ。入ってくれ」とモナトは言った。
岩場の傍らに聳える岩窟の中へ、モナトに連れられてトーマは足を踏み入れる。自分とモナト、そしてアーロン、ユニを含め、合計七人の(白いローブに身を包んだ)男女が、その岩窟には集まっていた。直径十メートルほどの円状に開けた空間には天井がなく、頭上には白んだ青空が広がっている。丁度この時、月は岩窟の真上に来ていた。
モナトが目配せをすると、アーロンは何も言わずに頷いて、階段のように形成された岩窟の内壁を、静かな足取りで上り始めた。誰も動き出さないところを見ると、階段を上るべきはアーロンだけらしいということをトーマは悟る。
岩窟の外まで続く階段を、中ほどまで上ったところから、更に上へと歩きながらアーロンは口を開いた。
「こうして全員が揃うのは久しいな。今日は皆に、新たな仲間を紹介できる記念すべき日でもある」
トーマへと視線をやりながら、「トーマだ」とアーロンは、皆にその名を紹介するように言った。何となく全員へと視線を配りつつ、トーマは頷くような会釈をする。
「トーマにも、改めて皆のことを紹介しておこう」とアーロンは続ける。アーロン、モナト、ユニ以外の三人とは、(オラシオンの占拠中、自分とモナトと共に活動していた大男を除いて)トーマは殆ど初対面であったが、モナトから性別や年齢などの情報を前もって聞いていたトーマには、どれが誰だかの見当くらいは付いていた。一人一人へと視線をやりながら、アーロンは言う。
「――ホド、」
オラシオンで一緒だった大男が、返事の代わりに首を鳴らす。
「――コリン、」
アーロンよりも幾らか年上らしい女性が、トーマへと手を上げて微笑みかける。
「――クロムだ」
筋肉質で寡黙な剣士が、目を伏せて小さく会釈する。
「これで夜明けの月光のメンバーは、俺を含めて合計七名となる。多少の計算違いはあったが、皆の協力のお陰で、ここまで概ね計画通りに事は進められている。活動への尽力に感謝する」
開けた天井の淵の部分とでも言うべきか、岩窟の外側にあたる階段の最上部まで上ると、アーロンはそう言いながら、トーマたちのほうを振り返った。「これより」と両手を広げて、アーロンは更に続ける。
「我ら夜明けの月光の、真なる指導者であるお方をここに招く。こちらからの状況報告と、次なるご指示を頂く為だ。皆、くれぐれも粗相のないように願いたい」
アーロンがそう言うと、彼に降り注ぐ月の光は、急速にその輝きを強めていった。やがて輝きが岩窟全体を覆うほどに強まると、目を覆いたくなるような白銀の光を迸らせながら、〝それ〟はトーマたちの前に姿を現した。
見るも神々しいその姿に、トーマは畏怖と戦慄を禁じ得なかった。多分あれは、自分たちが日頃知覚している世界とは一線を画した、別次元の存在に違いないとトーマは思う。時間と空間が全てを司るこの世界とは、別の世界の者。時間と空間から解き放たれた、高次元の住民。或いは、時間と空間そのものを司る、神の如き存在。
首筋を嫌な汗が伝う。平静を装いながら、トーマはごくりと唾を飲み込んだ。運命の歯車の回転音が、トーマの胸の鼓動と重なる。
(こいつが、俺たちの……――)
月の光がすべてを見ている。過去、現在、そして未来――巨人を連れた少年少女たちの次なる物語、或いは、その行く末までも。




