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エンデラの森の黒き魔女  作者: 暫定とは
六章『終末』
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「ハレ、遅かったじゃないか」

 ハレが孤児院の扉を開くと、そこで待っていたトーマが言った。虚を突かれたように目を丸くして、ハレは間抜けな声で尋ね返す。「トー、マ……? なんだってお前がここに?」

 ハレの言葉に細やかな笑いを零しながら、「なんではないだろ」とトーマは言った。「ここは俺たちの家じゃないか。家に帰るのは普通のことだ。そうだろ?」

 家に帰るのは普通のことだ。トーマの言葉を、ハレは頭の中で繰り返してみる。それは決して間違いではなかった。殆どの場合に於いて、人は何処かへ出掛ければ、いつかは家に帰るものだ。その言葉には奇妙な説得力があった。聞きたかったのはそんなことではなかったはずなのに、思考に蓋をされるように、ハレにはそれを受け入れざるを得なくなる。

 「そりゃそうか。そうだよな。何言ってんだ? 俺は」恥ずかしそうに頭の後ろを掻きながら、ハレは言った。

「寝ぼけてるのか? しっかりしてくれよ。ほら」

 トーマは優しく微笑んで、ハレへと右手を差し伸べる。「行こう、ノアが待ってる」

 ノアが待ってる? そんなバカなことがあるか。この孤児院の扉を開くまで、ノアは俺の後ろに居たはずなのに――。

 ハレが背後を確かめるよりも先に、トーマはハレの左手を掴むと、ハレを引っ張って走り出した。ああそうか、ノアはこの先で待っているんだと、ハレは不思議に受け入れてしまう。ハレの左手を引くトーマは、孤児院のエントランスを駆け抜けると、正面の大扉へと飛び込んだ。ハレの記憶に狂いがなければ、それは礼拝堂の扉だったはずだ。が、扉の先にあったのは、パーティー風の装飾が施された食堂だった。

 「ハレさん! お帰りなさい!」ハレが食堂へと入るなり、エプロン姿のノアが駆け寄ってきた。その姿の何処かに、ハレは一瞬で違和感を覚える。普段は必ず身に着けている、黒いレースのロンググローブを、彼女は着けていなかったのだ。その爪の色をハレは確認したはずだったのだが、続いてノアに話しかけられると、その情報はハレの頭から、綺麗さっぱりに抜け落ちていた。

「みんなでずっと待ってたんですよ。はやくこっちへ来てください」

 空いているハレの右の手を、今度はノアが左手で握る。嬉しいような恥ずかしいような、よく分からない気持ちになりながら、ハレは尋ねる。「みんな? みんなって……――」

「ほら、ハレ」

「ハレさん、見てください」

 トーマとノアが、ハレの正面の風景を手で指し示す。ハレが顔を上げて見てみると、食堂だったはずの空間は、青空の下で、浅い芝のそよぐ草原へと変わっていた。白いテーブルクロスの敷かれた幾つかの長テーブルには、思いつく限りのご馳走がずらりと並べられている。テーブルの周りではハレの知り合い、凡そ全員が、一堂に会して食事を楽しんでいるようだった。ハレに気付いたバロンとカレントが、こちらを向いてハレへと呼びかける。

「ハレ!」

 二人の声を皮切りにして、皆がハレの存在に気付く。ドボロ、クーラン、ルチカ、ラメール、クリス、ピエトロ、ヨーク、ヨークのアーツのティオ、バーンズ、ヘルズ、ジャンヌ、ジャンヌのアーツのデルセン、デュラン、チコ、ナボネブラの住民たち、ノルダ、ナン、ボー。

 お疲れ様、よく頑張ったと、皆が口々に、ハレに労いと称賛の言葉をかける。それは最早、ちょっとした騒ぎだった。狐の姿のプリマギアと談笑していたシンが、騒ぎに耳を傾けると共に、その中心となっているハレの存在にも気が付いた。柔らかな笑みをその頬に浮かべると、シンは言った。

「こっちへ来いよ、ハレ。みんなお前を待ってたんだ」

 ハレの両手を握るトーマとノアが、ハレへと微笑んでその手を引く。ゆっくりと皆のほうへと近付きながら、ハレはそこに、孤児院の仲間たちや、シスターたちが居ることにも気が付いた。不覚にも、ハレの目からは涙が零れていた。こんなに嬉しくて幸せなことが、この世界に存在していいのかとさえ、ハレは考える。

 皆の下へと合流すると、ハレはそこで、しばし彼らと語り合った。色んなことがあったよね、大変だったけど、ここまでやってきて良かったよね、と。ハレにとって、それは夢のような時間だった。

 どうしてこうなったのだっけ、とハレは思い出そうとする。自分はきっと成し遂げたのだ、何かを。世界は平和になったのだろうか。多分、なった。そうでなければ、こんなに素晴らしい日が来るはずもない。ここでは皆が幸せそうにして、共通の喜びを分かち合っている。トーマさえもだ。彼はずっと、何かに苦しんでいたように思う。何に苦しんでいたのだったか、ハレには思い出すことが出来ない。それでもハレは幸せだった。皆と共に、トーマが、ノアが、そして自分が笑っていられることが。

「あ、そうだ」

 ふとしたタイミングで、ハレは一人足りないことに気が付いた。世界が平和になったのなら、もう彼と戦う必要もない。トーマたちへと声をかけながら、ハレは草原へと走り出した。「俺、アーロンを呼んでくる!」

 視界が急速に回転する。「そんなことはしなくていい」とトーマが言う。気が付くと、ハレの身体は宙へと放り出されていた。何かを掴まなければ、とハレは手をもがく。しばらく空中で暴れ回って、ようやく掴んだのは崖の淵だった。眼下にはグィオン荒野が広がっている。居場所が突然に切り替わったことによる驚きは、ハレにはなかった。その代わりに、一つの気付きをハレは得ていた。

 これは夢だ。道理で何かがおかしいと思った。何処からが夢だったのかは分からないが、こんなくだらない夢からは、さっさと目覚めてしまおうとハレは思う。多分ここから先を見ても、碌(ろく)なことにはならないのだとハレの直感が告げていた。

 テントの中で寝袋に横たわった身体の感覚が、一瞬だけ戻ってくる。が、すぐに元通りの崖っぷちへ、ハレの意識は引き戻された。先ほどまで荒野だった崖の下には、溶岩が流れ出してすらいる。ひとまずはここをよじ登らねばと、ハレは崖を掴む手に力を込めようとして、その上に居る人物の存在に気が付いた。白いローブに身を纏った、それはトーマだった。

 トーマ、ここから引っ張り上げてくれ、とハレは言おうとする。が、その喉からは声が出なかった。溶岩が下から迫ってくる。しゃがんだトーマが、ハレの耳元で何かを告げる。それをきっかけに全身の力が抜けて、ハレは溶岩の中へと落ちた。恐怖と戦慄が、ハレの全身を凄まじい勢いで駆っていく。

 全身を嫌な汗に湿らせて、息を切らしながらハレは目を覚ました。身体を起こしてみるとその感覚から、こちらが現実であることをハレは理解する。外は明け方のようだった。夢の内容は次々とハレの記憶から抜け落ちていくが、何やら悲惨な夢だったという事実だけは、ハレの心にくっきりとその跡を残していた。トーマが最後に言った言葉を、ハレにはもう、どうしても思い出すことが出来なかった。酷く悲しい言葉だったことは覚えている。胸の真ん中に焼き付いたその悲しさだけで、十分に泣けてしまうほどに。

「……なんなんだよ」

 小さく零したハレの涙声に、隣の寝袋で眠っていたノアは目を覚ましてしまっていた。が、起き上がったり声をかけたりすることは、ノアはしなかった。それが自分にはどうすることも出来ない種類の悲しみなのだと、ノアには分かったからである。しばらく待つと、ハレは再び寝転がるなり、静かな寝息を立て始めた。自分の無力さを不甲斐なく思いながら、ノアは寝袋に包まったまま、ただ静かに朝が訪れるのを待った。

 朝が来て目を覚ますと、明け方のことなどなかったかのようにハレには元気が戻っていたので、ノアは安心した。彼が苦しんでいるところを見るのは、ノアにとってもまた苦痛だった。

 「俺、何か寝言を言ってなかったか?」とさえ聞いてくるので、明け方の記憶すら、ハレには残っていないようだった。それはそれで良かった、とノアは思うが、それで事態が解決したとは思えなかった。彼の苦悩が完全になくなる時――それはトーマとアーロンが、彼の下へと戻ってきた時だけなのだろうと、ノアには分かってもいたからだ。

 「私は聞きませんでしたよ」とノアは答えておいた。「バロンも」とだけバロンは言った。夜の間ずっと起きているはずのバロンが、自分と同じくハレを気遣ってそう言ったのか、はたまた本当に聞こえていなかったのか、ということは、果たしてノアには分からなかった。


 昨夜(ゆうべ)の時点で、地平線にアルバティクスを視認出来る地点まで、ハレたちは辿り着くことが出来ていた。首尾よく進めば今日の昼過ぎにも、帝都に到着するだろうというのがハレの読みだった。

「……ハレさん」

 道すがら突然に立ち止まったノアを、ハレは振り返る「ん?」

 遠方に何かを見つけた様子で、ノアは或る一点を見つめて固まっていた。「嘘でしょう」と震える声で呟くノアの頬を、小さな一粒の涙が伝う。地平線の彼方から、猛スピードでノアへと接近してくるのは、漆黒の毛並みを持つ一頭の馬だった。

「おいノア、あの馬ってもしかして……!」

 その再会は突然だった。特徴的な高い声で鳴きながら、馬はノアの手前で速度を落とすと、静かにノアへと歩み寄ってきた。馬の頭部へと、ノアは両手を差し伸べる。その手が頬に触れるよりも先に、ノアの両目からは取り留めのない涙が溢れた。

 馬の頸(くび)へと抱き着きながら、うんうんとノアは繰り返し頷く。そこにはきっと、自分には理解することの出来ないやりとりがあるのだとハレには分かった。ぶるる、と鼻を鳴らす馬の頬へ、自身の頬を擦り付けながら、「カミナです」とノアは消え入りそうな声で言った。カミナが頸を上げると、ノアは今度は胸へと抱き着き、カミナの肩の辺りの毛並みを、繰り返し何度も撫でながら言った。

「カミナ、ずっと心配してた。お前、私を置いて一体何処へ行ってたのよ。怪我はしなかった? 寂しくはなかった? 探しに行けなくて、ごめんね。私を探してくれて――」

 一歩を下がり、改めてカミナと顔を突き合わせると、ノアは震える声で言った。

「……ありがとう」

 東アンモスの大地を、爽やかな風が吹き抜ける。長い鬣(たてがみ)を風に揺らしながら、ぶる、と鼻を鳴らすと、カミナは走ってきた方向を振り返った。あっちを見て、と彼女は言っているようだった。ハレとノアはそちらへと視線を向ける。野生と思しき数頭の馬が、遠く離れたところからカミナのことを見つめていた。

 あの群れに、カミナは入れてもらっていたのだろうとハレたちには分かった。だから寂しくなかったと、彼女は言っているのかも知れなかった。「そう、よかった」とノアは言いながら、再びカミナへと視線を向ける。

 「いいの? みんなと一緒に行かなくて」ノアが尋ねると、鼻を鳴らしてカミナは答えた。頷いているようにすら、その姿はハレには見えた。

 人に慣れ親しんだ馬に、言葉が通じるのかどうかということはハレには分からない。が、ノアとカミナのやり取りは、不思議と美しく噛み合っていた。それを会話と呼んだところで、何ら語弊のない程度にだ。『通じるかどうか分からない』、という以前に、それを目の前で見せられたハレには、それを許容せざるを得なくなった。馬には(少なくともカミナには、少なくともノアの)言葉が通じるのだ。

 呆気に取られるハレを尻目に、ノアは今度は、馬の群れへと大きく右手を振りながら、ハレがこれまでに聞いたこともないような声量で、叫ぶように言った。「みんな! カミナを仲間に入れてくれて、ありがとうございました!」

 ノアに続いて、カミナが鳴き声を上げると、馬たちは種特有のリズミカルな足音と共に、何処かへと走り去っていった。

 無言で馬を見送ってから、ノアはハッとしてハレを振り返る。「ハレさん」とノアは黒い瞳でハレを見つめると、恐る恐る、といった具合で問うた。

「孤児院で、馬の飼育は出来るでしょうか……?」

 聞き返したいことは幾つかあったが、聞いていいものかハレには判断が付かなかった。暫しの沈黙を挟んだ後で、ハレは答えた。「シ、シスターたちに相談してみるよ」


 それから数時間後、ハレの読み通りの十三時頃になって、ハレたちはフォックシャル帝国の帝都・アルバティクスのバルド教修道院へと到着した。

 何処かで外れてしまったのか、カミナは手綱(たづな)を着けていなかったが、ノアの言うことをよく聞いて、大人しく付いてきてくれていた。馬に関する知識こそないものの、カミナが利口な馬だということはハレにも分かった。

 修道院の門を通り(門は普段から開け放たれている)、緑豊かな庭園を、向かって左の方向へ通り抜けていくと、正面の修道院とは別棟(べっとう)になった、ハレたちの孤児院が見えてくる。孤児院の中からは子供たちがはしゃぎまわる声と、それを咎めるシスターたちの声が聞こえてきた。何もかもが、ハレには懐かしく感じられた。一年と経っていないはずなのに、まるで数年ぶりにここへ帰ってくるみたいにだ。ここを出てから、それだけ濃密な時間を過ごしてきたのだとハレは思う。そして、状況は随分と変わってしまった。

 孤児院の扉の前に立った時、ハレはハッとした。今朝見た夢の光景が、その脳裏に思い起こされたからだ。扉の向こうにはトーマが居た。その先にはノアと、そして皆が居た。然し、あれは夢で、今ここにあるのは現実だ。現実の自分と、現実の孤児院。ノアは確実に背後にいる。扉の向こうには、トーマは居ない。

「大丈夫ですか? ハレさん」

 扉の前で立ち止まり、神妙な面持ちで手すりを見つめるハレを見兼ねて、後ろからノアが声をかけた。我に返ると、慌てて首を振りながら、ハレは笑い返す。

「ああ、ごめんごめん。大丈夫だよ。ちょっと考え事してた」

 「何か思うところがあるようでしたら、私は一旦離れたところで待ちましょうか?」ノアが続けて尋ねると、「いや」と扉を向き直り、ハレは首を振るって言った。「大丈夫さ。なんでもねえ」

 「……分かりました」とノアは答える。扉を見上げて、ハレは考える。

 自分は帰ってきた。が、一緒に帰ってくるはずだったトーマは居ない。勿論、この扉の向こうにもだ。とは言え、ここが自分のゴールというわけではないし、旅は終わったわけでもない。だから大丈夫。トーマとカレント、そしてアーロンと共にここへ帰ってくる日は、いつか必ず来るのだから。それが、今日ではなかったというだけの話だ。

 落ち込みそうになる心を、ハレは奮い立たせると、手すりへと手をかけ、重い扉を押して開いた。懐かしい孤児院のエントランスが、ハレの視界に飛び込んでくる。カミナを外で待たせると、ハレとバロン、そしてノアは、孤児院の中へと足を踏み入れた。

 院内の荘厳な装飾に、ノアは感嘆の声を上げながら、ハレは懐かしさを感じながら、三人はエントランスの奥側へと、ゆっくりとした歩調で進んでいった。そこへ――。

 「おや!」エントランスを通りかかった一人のシスターが、ハレに気付いて声を上げる。年齢は五十代半ばほどで、栗色の頭髪は一部が白髪交じりになっている。シスター長のガーベラだ。

 「シスターガーベラ!」ハレは喜びの表情を浮かべたが、一方のガーベラはニコニコとした表情を一転、眉間に皺をぐいと寄せ、瞬く間に鬼の形相を浮かべると、「ハレ……」と野太い声で言った。

 「げ……」ハレは口元を歪ませる。

「よくも勝手に出ていって、いけしゃあしゃあと戻ってこられたもんだね……」

 手に持った洗濯籠を床に置くと、肩を怒らせて、両の拳をプルプルと震わせながら、ガーベラはゆっくりとハレとの距離を詰めた。蛇に睨まれた蛙のように、ハレの身体は動かない。

 「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」と両手を上げて見せてから、まずい、とハレは思う。

 『ちょっと待ってくれよ』で対話を求める姿勢を見せ、『俺だけじゃない! トーマだって共犯だぜ!』とガーベラの注意を逸らした上で、トーマをその場に残して走り去るというのが、かつてのハレの常套手段だった。が、今この場にはトーマは居ない。もうその手段は使えないのだ。然し、そんなことはハレにはどうでもよかった。ハレが『まずい』と思ったのは、その事実そのものに対してではなく、その事実がどうしてか齎す激しき悲しみを、自分にはもう耐えることが出来ないらしい、ということに対してだった。

 「……ハレ」俯いたハレの両肩に、ガーベラは優しく両手を乗せる。ハレの両目から孤児院の床へ、大粒の涙がぼとりぼとりと零れ落ちた。

 シスターガーベラも自分も居るのに、ここにはトーマだけが居ない。出ていくときは一緒だったのに、自分だけがのこのこと、ここへ帰ってきてしまった。トーマを大切に思っていたのは自分だけじゃない。ガーベラも、孤児院の皆も一緒なのに。自分の至らなさが、トーマをこの孤児院から失わせてしまった。取り返しのつかないことをした。アーロンを連れ戻しに行ったはずが、もう一人を失って、自分は帰ってきてしまった。

「ごめん……、シスター、俺……、俺が不甲斐なかったから……、トーマを……――」

 助けられなかった、とハレが言う前に、ガーベラはハレの身体を抱き締めた。そんなことは言わなくていい、と彼女の腕は言っているようだった。悲しみと悔しさに駆られ、大声を張り上げてハレは泣いた。ガーベラもまた小さな涙を零しつつ、ハレの背中を擦りながら、「いいんだよ、ハレ」と彼女は言った。

「お前が帰ってきてくれだけで、私たちはどれだけ嬉しいか。シンから色々と聞いているよ。本当によく頑張ったね。今はここで、ゆっくりと休めばいい。先のことは、休んでからお考えよ」

 一分ほど泣いてハレの涙が収まってくると、改めてハレの肩へと手をやりながら、「おかえり、ハレ」とガーベラは優しい声で言った。恥ずかしそうに笑いながら、手の甲で涙を拭いつつ、「ただいま」とハレは答える。

 ノアは省みる。いつもは自分たちの先頭に立ち、どんな時でもニコニコと余裕を見せて笑ってくれる、頼りがいのある(故に意図せず頼ってしまいがちな)ハレだが、彼とて自分と同じように、まだ十五歳の子供なのだと。トーマを失ったことを(そう思う必要はないのに)ハレが不甲斐なく思うように、ノアもまた、ハレの悲しみを受け止めてやれなかったことを、不甲斐なく、そして歯がゆく思った。ハレはまだ強くなるだろう、ならば自分も、彼を支えられるように強くならねば、と。

 こうして、ハレは孤児院へと帰ってきた。親友のトーマを失って。然し、一人の少女と精霊を助け、シンたちやミドの悲願でもあった、アーツ・バロンの再生を叶えて。

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