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「らしくねえと思われるかも知れねェがよ」とデュランは前置きした。
「悲しめることも幸せなんだと、俺は思うことにしてるぜ。思い出すことで悲しめること。それは、俺があいつを今でも想い続けていることの、何よりの証になるんだからよ」
答えを探し求めていたバーンズの胸に、デュランの言葉はしっくりと落ちてきた。まるで、ずっと前からそこにあった言葉に、デュランが光を当ててくれたみたいにだ。
クルトゥーラとの決戦前夜、夜更けまで二人は静かに語り合った。この日より更に数ヶ月前に、時間は遡る。
「リリ、忘れ物してない?」
心配性の妻は、毎朝息子を学校に送り出す前、同じ文言で確認をする。「してないよ。母さん過保護なんだから」と息子はいつも答える。
「お父さんが放任過ぎるのよ」と妻が言うと「放任過ぎるくらいで良いんだよ。僕もう十三歳なんだから」と息子は不服そうに返す。
秋生まれの息子が十三歳になったのは半年ほど前のことだ。この村では十三歳を迎えると、村の北に位置する巨大遺跡への、保護者同伴での入場が認められる。土器造りと金属加工を名産とするこの村にとって、粘土性が高く良い土の取れる巨大遺跡は特別な場所だった。
先日、初めて息子を連れて入った遺跡の奥地で、息子は一体のアーツを目覚めさせた。土の属性を持つドボロという名前のアーツだ。のんびりとした性格だが、とても優しい心を持っており、息子とも良き相棒という感じで、仲良くやっている。
「それじゃ、父さん母さん、行ってきます!」
土間になっている玄関で、鞄を背負いなおしながら息子は――リリは言った。既に準備を整えたドボロは、一段下がった土間に降りて待機している。
「ねえリリ、お弁当は持ったの?」
妻からの再びの問いに「持ったよ!」とリリは答える。「ドボロ、行こう!」
「ンだ!」
ドボロの手を引いたリリが玄関の扉を開けると、柔らかな春の風が家の中を吹き渡った。それは、夢のような心地よさだった。薄桃色の桜の花びらが何枚か、悪戯好きの妖精みたいに家の中へと舞い込んで、俺と妻の周りを漂った。時間の流れがいつもより少しだけ遅くなる。ドボロと共に、リリは葡萄色のケープを翻しながら、玄関を飛び出していく。心からの笑みを浮かべて、妻は二人の背中を見送っている。
「ねえお父さん」と妻は言う。「子供の成長って嬉しいんだけど、こんなにも切ないものなんだね」
「うん」と俺は頷いて答える。妻は続ける。「あたし、あなたと一緒になって本当に良かったな。こんなに愛おしい子供の成長を、こんなに愛おしい人と一緒に、これからも見守っていけるんだもん」
「うん」と俺は頷いて答える。涙が溢れてくる。
嬉しくて、切なくて、そして幸福だった。俺は今、この肉体に宿る全ての神経を使って妻と息子を愛している。こんなに幸せなことはない、と俺は思う。よく晴れた暖かな日和だった。俺は椅子から立ち上がって、細い妻の体を出来る限りに優しく抱き締める。「ありがとう」と俺は言おうとする。
そこで目が覚める。部屋の中は仄暗くて、少しだけ寒い。枕へと零れ落ちた一筋の涙を、左手の指先に確かめる。
ここが現実だ。俺の妻はこの世界には居ない。俺の妻は――リリアは、リリを産んだ後、間もなくして亡くなったのだから。
「リリア」
声を殺して泣く。時折襲い来るこの悲しみは、一体いつまで続くのだろう。あれからもう、十七年もの歳月が過ぎたというのに。
「バーンズ」
三年前の旅が終わってから、バーンズは亡き妻を思うことが増えていた。その追想は唐突に訪れたかと思えば、否応なしにバーンズを上の空にさせた。
「バーンズ、聞こえてるのか?」
目の前の青年から発せられる、自分を呼ぶ声にハッとする。「あ、ああ。済まない、シン。夜明けの月光の追跡、だったな」
青年。青年と呼ぶに相応しい姿に、彼は成長した。自分と彼が初めて会ったとき、彼は十六歳だった。少年と青年の間を、当時の彼は揺らいでいたとバーンズは記憶の中に思う。
「そうだ。アンタとて忙しい身だとは理解しているが、事情を知っている数少ない人間の一人だ。出来ることなら協力してほしい。頼まれてくれないだろうか?」
バーンズがシンから託された任務――それは凡そ一年前から、世界各地に出没しては『黒き爪の巫女』を捜し回っているという、夜明けの月光なる組織の足取りを追うことだった。彼らの動向を探り、彼らに対して有利に立ち回ることは、こちら側の人間に求められる急務なのだとシンは語った。話を聞けば、成程確かに事態が切迫していないわけではないということはバーンズにも分かった。例えそれが杞憂に終わったとしても、行動しておくに越したことはない、と。
「コントゥリでは今、村長不在時にも円滑に村長業務が回るように、代理となる人間を複数人立てて有事に備えようという動きがあるんだ。この一年ほど、リリも含めた数名に業務の引継ぎや共有を進めている。今回簡単に村を出てこられたのもそのお陰さ。土仕事のほうもリリや若い衆が買って出てくれるから、俺も昔ほど忙しくはなくなった」
シンの黒い瞳を見つめ返すと、バーンズは微笑みながら頷いて言う。「勿論、手伝わせてくれ」
バーンズの言葉に、シンは小さく頷きながら、口角だけで微かな笑みを浮かべると、「助かるよ。ありがとう」と返した。
それからシンは夜明けの月光について、確認されている出没場所とその時期、メンバーの人数と特徴などを、淡々とした口調でバーンズに伝達した。その終わりに、それらの情報がリスト状にまとめられた一枚の紙を、彼は綺麗な四つ折りに畳むと、それをバーンズへと差し出した。「よろしく頼む」
「ああ、確かに」
バーンズが受け取ろうとして摘まんだその紙を、シンはすぐには手放さなかった。お互いに摘まんだ紙の両端を、軽く引っ張り合った状態での沈黙が数秒、続いた。短い溜め息を吐き出しながら、シンは唐突にその手を離した。
「バーンズ」とシン。「なんだかボーっとしてるみたいだが、何かあったのか? アンタらしくもない。右腕の痺れ、やっぱりきついのか?」
感付かれていた、とバーンズは思う。次いで当たり前かと悟る。シンを相手に隠し事は出来ない。自身の年齢を鑑みれば、彼と自分の付き合いは特別に長いものではない。然し、共に過ごした時間は短いながらも濃密なものであった。取り分け、観察眼も鋭く、頭の回転も速い彼のことだ。自分の変化に気付くのは、必然と言っても過言ではなかった。
「いや、右腕は本当に何ともない。痛みもない代わりに、感覚ももうほとんどないんだ。ただ……」
それを話すべきか、バーンズは暫し迷った。幼馴染のダグザには話した。リリには話していない。リリに話さないのはリリを信用していないからではなく、彼にこれ以上の重荷を背負わせたくはないからだ。そしてリリは、自分とは年齢も、それに伴う人生観もかけ離れすぎている。然し、それはシンにも言えることだった。それでもバーンズが、彼には話してみようと思えたのはやはり、彼がその年代とは思えないほどに達観した感覚を有しており、そんな彼の存在が前回の旅では、或る意味で自分の心の拠り所となっていたから、ということが言えるだろう。
弱音の吐露とも取れるバーンズからの相談を受けたシンは、「愛とか恋というものは、俺には分からない」と注釈みたいに述べた上で、次のように続けた。
「ただ、それがアンタにとって掛け替えのないものだったということは分かる。命のないものに例えるのは少々気が引けるが、俺にとっての掛け替えのないものといえば学問だ。かつて精霊学から身を引いたとき、声など発さないはずの実験道具や学術書に、俺は呼ばれている気がしてならなかった。科学者のくせに非科学的なことを、と思われるかも知れないが、俺は或る観点に於いては、そういう『魂の声』みたいなものは本当にあるんじゃないかとも思っている。アンタの奥方についてどうこう言うつもりはないが、現実の感覚に捉われずに、そういう可能性に耳を傾けてみることも、時には必要なんじゃないかと俺は思うよ」
魂の声。仮にリリアの魂がそこにあって、その声が自分の見る夢に影響を与えているのだとしたら、それはどういう意味を持った声なのだろう。そもそもあの夢が、額面通りに理想を映し出す(ことを主体とした)良い夢なのか、現実の自分に悲しみを突き付ける(ことを主体とした)悪夢なのか、バーンズには判別することが出来ていなかった。バーンズにとってのあの夢は、まったく異なる二つの側面を持った、不可解な夢だったのだ(然し良い夢のほうが主体であることをバーンズは心のどこかでは願っていた)。
「バーンズさん」
五の月の初旬、リリとルチカと共に帝都でシンと会った後、一度はコントゥリに戻ったバーンズが、村の者たちへの業務の引継ぎを終えて再びコントゥリを発ったのは、更にひと月ほどが経ってからのことだった。その後、シンからの情報をもとに夜明けの月光の足取りを辿ったバーンズは、凡そ四年ぶりに訪れたルドニークの街で、ジャンヌとの再会を果たすこととなった。
「バーンズさん、聞こえてるのかい?」
自分を呼ぶジャンヌの声に、バーンズはハッとして我に返る。「あ、ああ。済まない、ジャンヌさん。欠員が出ている坑道の、採掘作業の応援だったな」
バーンズがルドニークを訪れた時、ルドニークでは記録的な猛暑により、鉱山作業員たちの四分の一ほどが病患に倒れるという事態が発生していた。ジャンヌから応援を要請されたバーンズは、これを引き受け、結果的にシンからの一報を受けてハレたちと合流するまでの凡そ一ヶ月間を、この街で過ごすこととなった。
「折角の旅の途中なのに済まないね。勿論、礼はさせてもらうよ」
依頼を快諾したバーンズに、ジャンヌはそう言った。コントゥリを発ってから移動続きで、一旦何処かに身を落ち着ける場所を求めてもいたバーンズにとって、その依頼は決して都合の悪いものではなかった。
しばらくここに滞在する旨を認めた手紙をシンへと送ると、すぐに返事が返ってきた。『カオスライトという宝石の所在に心当たりはないか、ジャンヌさんに確認してみてほしい』という内容のものだった。ジャンヌに確認をしたところ、自分は名前くらいしか知らないが、弟なら何か知っているかもしれないとのことだったので、バーンズは今一度、その旨を記した手紙をシンへと送った。またしても返事は速かった。その内容にバーンズは驚愕した。手紙は凡そ、以下のような内容だった。
『近いうちに、二組のアーツ使いと一人の少女がルドニークを訪れるので、彼らをジャンヌさんの弟の元へと案内してやってほしい。アーツ使いの一人はミドにそっくりの少年で、名前はハレ。どうやらミドの子孫らしい。バロンのドルミールは彼に反応を示している。恐らくはそちらに、バロンを連れていくことになるはずだ』
死者は戻らない。アーツは戻ってくる。この違いはなんだろう、とバーンズは考える。
アーツは肉体のほぼ全てがフォルスのみで構成されるフォルス体だ。理屈で言えば、消滅したアーツの肉体は、一度はフォルスの流れへと還り、再生可能な状態になるまで回復するのを待つ。再生可能になったアーツは、フォルススポットからドルミールとして再生し、使役者足り得る人物と再び巡り合うまで眠り続けることとなる。これはそもそもアーツという生命体が、同様の生態を持つ超原始的生命体である精霊を模して造られた人工物であるから、という補足を以て説明がつく。早い話が、肉体の再生はフォルス体にのみ許された特権であり、体系的に後続の生命体である人類には、模倣のしようがない芸当というわけである。では魂に関してはどうだろう。
魂なるものが存在するとして、基本的には(人間を含む)通常の生物の魂は、器としていた肉体の死を以てこの世界から失われ、二度と戻ることはないのだろうというのが、バーンズの何となくの感覚であり、延いてはこのアシリアに暮らす多くの人々にとって共通の、何となくの理解であった。一方で、アーツの魂がどのような経路を経て同じ肉体に戻ってくるのかということが、議論の的となることはあまりない。少なくともバーンズはこれまでの人生において、その解答を求めようとしたことはなかった。というのも、(先日のドボロの例のように)一度は消滅したアーツが時を経て再生し、使役者足り得る人物の手によって再び目覚めさせられるシチュエーションというのは、普通の人生を送る上で基本的に遭遇する機会のない出来事だからである。それに加えてこのアシリアでは、消滅したアーツは記憶を失った状態で再生するというのが、これまでの通説であった。仮に記憶を失った状態のアーツと再び巡り合えたとして、そこにかつてと同じ魂が宿っているかと聞かれたら、素直に頷くことの出来る使役者はそう多くはないだろう。記憶イコール魂という等式が成立することこそないものの、人間の感覚的に記憶と魂というものには、密接な関係があるようなのだ。
然し、そんな通説も今は昔。その理由こそ定かではないものの、ドボロは記憶を保持した状態でリリの元へと帰ってきた(この時点では明らかではないが、この後ハレの手によって、バロンも記憶を失うことなく再生したことが確認されることとなる)。改めてバーンズは自分へと問う。現在存在しているドボロの肉体には、かつてと同じ魂が宿っているのだろうか、と。導き出される答えはイエスだ。三年前に、自分たちの元から失われた時と、彼は記憶や仕草、喋り方に至るまで、何一つ変わることなく再生しているのだから。
では、三年前の肉体の消滅から、先日の再生に至るまでの間、ドボロの魂というものは一体何処にあったのか。そして再生した新たな肉体へと、どういう経路で再び宿ることが出来たのか。
「何だか、えらくややこしいことを考えてるんだね。山を掘ることしか能のないあたしには、ちょっと難しいよ」
或る日の仕事終わり、バーンズは内容をぼかしながら、それとなくジャンヌにこの話を持ち掛けた。ビールのつまみの塩豆を口に運びながら、ジャンヌはそう言って笑った。咀嚼した塩豆をビールで流し込むと、何処か懐かしむように虚空を見つめながら、ジャンヌは次のように続けた。
「先代の鉱山長だった母親が死んだとき、あたしも少しは考えたけどね。空っぽになった肉体はここにあるのに、彼女の魂は一体どこに行っちまったんだろう。或いは、魂なんてものはあたしたちの錯覚で、本当は存在しちゃいないのかも知れない、ってね。でも、いつからか考えるのをやめちまった。あたしみたいなぼんくらにとっちゃ、時間が解決してくれる程度の問題だったってことさ」
バーンズとて分かってはいるのだ。自分はことを難しく捉えすぎているだけで、実際には人の死も、あの夢も、そんなに深い意味性を持ったものではない。人の死は単なる事象だし、夢は眠っている間に脳が見せる、記憶の断片と理想の風景を繋ぎ合わせた意味のない幻想に過ぎない。ましてや消滅したアーツの魂が辿る再生までの経路など、リリアの死とは何の関係もないことだ。それを比較することには如何なる意義も存在しない。
時間が解決してくれる程度の問題、というのはまた、バーンズが探し求める答えとは違っていた。仮にそれが正しい答えなのだとしたら、自分は十七年もの年月が過ぎた今になってまで、思い悩むことなどなかったはずなのだ。そこまで考えたところでようやく、バーンズは自分が『答えを探し求めている』ことに気が付いた。何故、自分はあんな夢を見るのか。そしてあの夢が主体とするものは、その光景の輝かしさなのか、それとも現実の悲しさなのか。
「バーンズは頭が良いから、物事を複雑に見過ぎちゃうんだよね。そのくせ何処かに答えを求めようとする。あたしとは正反対。あたしは分からないことなんて、いつか分かればいいやって思っちゃうからさ」
その晩、夢枕に立ったリリアがそう言った。それは自分たちがまだ十代だった頃、実際に彼女が口にした言葉だった。彼女のことを考えることはあっても、彼女のことをゆっくりと思い出すことは、しばらくしてこなかったとバーンズは寝覚めに思った。
この日非番であったバーンズは、珍しく昼前まで眠っていた(バーンズはジャンヌの家の空き部屋で滞在の一ヶ月を過ごしていた)。ソファで横になったり、日用品の買い出しをしながらゆったりとした時間を過ごした後、夕方ごろになってバーンズは、ふと思い立って家を出た。先日、ルドニークの街を散策している時、街の奥から少し山を登った先に、ガゼボとベンチだけがおざなりに設置された、小さな休憩スペースを発見したことをバーンズは思い出したのだ。山肌が開けていて夕日が綺麗に見えそうだったから、非番の日の夕暮れ時にでも行ってみようと思っていたのだった。
ベンチに座ったバーンズは、持参した小さな瓶ビールと、薄切りのジャーキーをちびちびと食らいながら夕焼けになるのを待った。長い時間はかからなかった。そしてそれが訪れた時、バーンズはあらゆる言葉と共に、感情という感情を失った。
うろこ状に空を渡る雲。ゆらめく陽炎の向こう側で、砂の海へと落ちていく赤き太陽。砂埃を巻き上げながら、砂漠を駆ける牛の群れ。鏡面の如く日の光を返して燃え盛る、土の山肌。そこにあったのは圧倒的な大自然だった。夕日と共に、自分自身もが砂の中に飲み込まれてしまうような感覚で、バーンズは我に返った。そして思い出した。若き日、リリアと共に忍び込んだ巨大遺跡の高台から、同じように二人で夕日を見つめた時のことを。
「あたしだって残されたくはないけどさ、死ぬときはバーンズが先に死んでよね」
なんて縁起の悪い話をするのだろう、と思ったことをバーンズは覚えている。その理由を聞くと、彼女はこう言った。
「だってバーンズ、あたしが先に死んだりしたら、あいつは幸せだったのか~、魂は成仏できたのか~とか言って、意味もなく思い悩んじゃうでしょ。下手したらあたしの後を追って死んじゃうかも知れない。あたしそんなの御免だもん」
へらへらしながらそう言って笑った、彼女の予想は当たっていた。実際に、自分はまったくその通りのことで現に思い悩んでいる。
「もしもあたしが先に死ぬとしたらそれは、バーンズがあたしを後追いすることのないように、あなたが守るべきものを、この世界に残せた時かな」
それも当たっている。未来を見る目でも、彼女は持っていたのかも知れない。夕日が目に染みて、涙が零れてくる。
「でも安心して。もしも魂だけになったとしても、あたしはずっとバーンズの傍にいて、あなたのことを見守ってるから。バーンズが死ぬまで、成仏するのは待っててあげる」
どうしてか彼女は自慢げで、親指を突き立ててウインクすらしていたようにバーンズは思い出す。
その言葉が本当なら、リリア。お前は今でもこんな俺を見て、笑ってくれているのだろうか。
『正しい答え』というものは、多分ないのだろうとバーンズは思う。ただ『正しいと思える答え』くらいなら、何処かにはあってほしいものではある、とも。あの夕焼けを見た非番の日以来、リリアの夢に見る頻度は少し減った。バーンズにとって、それは恐らく前進でありながら、寂しさを伴うものでもあった。
「おはよう、ジャンヌさん」
「おはよう、バーンズさん。今日もよろしく頼むよ」
また朝が来る。この旅は終わらない。ハレたちと合流し、彼らと共に訪れたナボネブラで、バーンズが『正しいと思える答え』に出会える、その時までは――。
(見守っていてくれ。俺とリリのことを)




