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約一時間ほどの後、パラム大陸の何処か。
レニとリタに肩を掴ませたモナトとトーマは、ごつごつとした岩場が広がる、或る谷間の低い空中を滑空していた。トーマからモナトを挟んで反対側にはもう一人、白いローブを身に纏った大男が、小型の飛竜に掴まって飛んでいる。夜は間もなく明ける頃合いで、空は群青の色彩を呈している。一帯はぼんやりとした白い光に包まれていた。
「トーマ」
不意に口を開いたモナトに対し、トーマは正面を向いたまま、眉一つ動かさずに答える。「なんだ」
「あのシンという男、彼は相当の手練れだった。ましてや大精霊と契約を結ぶほどの実力者だ。事前にそういう報告があっても良かったんじゃないかい?」
やはり表情一つ変えることなく、「シンさんが出てくるとは思わなかったんだ」とトーマは返した。「それに、大精霊を連れていることも知らなかった。そもそも大精霊が人間との契約に応じるということ自体、俺は今日初めて知ったくらいだ。それはアンタも同じじゃないのか? モナト」
モナトはすぐには答えなかった。その代わりに、微かに細めた、然し何処か優し気な視線で、前方を飛ぶトーマの後ろ姿を、モナトは何かを確かめるみたいに見つめていた。
何処かで朝の鳥が鳴く。それを合図にするように、東の空から太陽が顔を出した。筆についた絵の具をバケツの水に溶かしたみたいに、空はぐんぐんとその形相を変容させていく。白、金、赤、紫、藍、そして青。
暫しの沈黙を挟んだ後で、「……ま、そういうことにしておこう」とモナトは言った。トーマはそれには答えなかった。
それからまた、誰も一言も喋らないまま、三人は暫く滑空した。或るところで、トーマは突然リタの脚を振りほどくなり、二メートルほど下の岩場へと降り立つと、そのまま同じ方向へ、一人静かに歩き出した。
「どうした?」トーマを追い抜きざま、上空からモナトが尋ねると、「少し、一人にしてくれ」とトーマは答えた。
「合流場所は分かっている。予定を狂わせはしない」
何も言わずに頷くと、然しその表情を確かめるようにトーマの顔を覗き込みつつ、モナトはもう一人の男と共に、トーマを置いて飛び去った。
一人、そこに取り残されたトーマは、無表情のまま、寂し気とも昂然とも取れない微妙な足取りで、モナトたちの背中をゆっくりと追った。右手側から黄金の太陽が昇ってくる。朝の光はトーマの脳裏に、様々な記憶を思い起こさせた。
立ち止まり、太陽のほうへと身体を向けると、青いグローブを嵌めた右の手を、トーマはその光へと翳して見せた。遥遠の真実を掴み取るように、トーマは右手を握り締める。不意に、トーマはあの朝のことを思い出す。微かな微笑みを浮かべると、トーマは再び、モナトたちの背中を追って歩き出した。
(あの紙飛行機は――)




