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エンデラの森の黒き魔女  作者: 暫定とは
五章『相克』
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「バローン! よく見てろー!」

 東アンモス平野のなだらかな傾斜を、ハレは凄まじい速度で南の方角へと駆け抜けていく。下りの傾斜でついた勢いのままに、短い上り坂をジャンプ台の要領で利用すると、空中へと飛び出したハレはその場で一回転をした。ハレの姿は見る者に、足に嵌めた板で雪の山を下る雪国のスポーツを想起させた。

「ィヤッホ――――!!」

 空中に緩やかな弧を描いて着地をした後も、速度を落とすことなく走り続けていくハレに向かって、「ハレ、スごい」とバロンは言った。「あんまり無茶をして怪我をするなよ!」と離れた位置からシンが声を上げる。「分かってるよ!」とハレ。

 斯く言うバロンとシン、そしてノアもまた、ハレと同じような速度を以てこの東アンモス平野を駆けていた。駆ける、というよりも、それは滑走と呼ぶに相応しかった。実際に、ハレたちは殆ど足を動かすことはしていない。ハレたちの身体を前方へと押し進めているのは、ハレたち自身の足ではなく、その足首に嵌められた銀色のアンクレットが生み出す効力だった。バロンを含む四人の足首に巻かれたアンクレットは、浅緑(あさみどり)をした風のフォルスを後方に向かって噴出させている。

「それにしてもスッゲーな! フェイ……、ナントカって言ったっけ? シンが造ったこの〝共鳴武装(チェインアーマー)〟とやら!」

 ハレからの呼び掛けを受けたシンは、それに答えるよりも先に、自身の左前方を走るノアへと声をかけた。「大丈夫か? ノア」

 滑走の感覚をすぐに我が物としたハレとは違い、ノアがそれに慣れるまでには、まだ暫くの時間がかかりそうだった。先ほどから沈黙を貫いて、彼女は不安定な加速と減速を繰り返している。

「い、いま、話しかけないでください。……集中、してるので――」

 そう言いかけながら、ノアは誤って加速をしたらしい。普段の彼女からは想像もつかないような声量の悲鳴を上げながら、黒い巫女服を纏ったノアの身体は凄まじい勢いで前方へと飛び出していった。上り坂になっている地形がやはりジャンプ台の役割を果たし、ノアは先ほどハレが行ったのと同じように、(勿論自身の意思とは無関係に)空中へとその身を投げ出した。

 更に前方を行くハレに向かって、シンが呼びかける。「ハレ!」

 シンたちのいる後方を振り返りながら、ノアの所在と誤加速を見知ったハレは、まずは彼女の跳躍に「おお……」と声を漏らして感心した。次いで、彼女が着地するであろう地点を予見して先回りをすると、ハレは落下してくるノアへと両の手を伸ばし、彼女の両手を掴んで着地をサポートした。

「やるじゃん! ノア」

「ハレさん、ありがとうございます……」

 魂の抜けかけた声で礼を告げるノアに、「気にしない気にしない!」とハレは笑いかけた。滑走を続けながら、右の手でノアの左手を掴む体勢に移行すると、「ほら、行こうぜ!」と彼女の手を引いてハレは加速した。

「ま、待って待ってハレさん――ひゃッ!」

 風を切って、ハレたちは平野を駆け抜けた。急な加速への驚きに、初めは目を閉じてしまったノアだったが、数秒の後に目を開き、少しの間ハレに手を引かれていると、自分が足を動かさなくても身体が前へと進んでいくことに彼女は気が付いた。しばらくそうしていると、強張った四肢(しし)の緊張が少しずつ解れていき、正しい呼吸のリズムがノアの身体には戻ってくる。数分のうちには風景の変化を楽しめるくらいの余裕が、ノアの心には生まれていた。

 「身体に力が入りすぎなんだよ」とハレ。「足漕いでみろよ。落ち着いて、力抜いて、自転車乗るときみたいにさ」

 「じ、自転車なんて乗ったことありません……!」とノアは困った表情で言い返す。

「あ、そっか。じゃあほら、馬に乗るときみたいに! って言っても、俺が馬に乗ったことねーから分かんねえけど」

「む、無茶苦茶です! やってみますけど、ハレさん、怖いので手を放さないでくださいね……」

 「ごめんって!」とハレは笑って答える。「放さないから、やってみろよ!」

 ハレの言葉に頷き返すと、ノアは僅かに地上から浮いて滑る自身の右足を、草の大地へと押し当てるように触れた。空気の圧が押し返してくるような感覚と共に、ノアの身体は浮き上がりながら僅かに加速する。『踏めば加速し、踏まなければ減速していく』――それがこの〝共鳴武装(チェインアーマー)〟の基本的な操作方法だと、昨日(さくじつ)シンは語っていた。次いで左足を踏み、同じ感覚をノアは身体に染み込ませる。更に右足、左足と繰り返していくうちに、その感覚は少しずつ、ノアの肉体へと馴染んでいった。

 「出来てる出来てる! その調子!」とハレが応援すると、「は、はい!」とノアは答えた。

 しばらく同じ動作を繰り返して、加減速のコツを掴んだノアがハレの表情を仰ぎ見ると、ハレはそこに嬉しそうな微笑みを浮かべていた。もう大丈夫だ、という意味を込めて無言で頷くと、それを察したハレはノアの左手を放した。

 僅かに減速したハレがノアの隣へと並ぶ。ハレへと頷きかけながら、ノアは緩やかに加速した。彼女の背中を追うようにして、ハレはゆっくりと加速する。風を受け流すように滑らかに、二人は無言のまま、暫し踊るように滑走した。

 時に近づき、時に離れ、手を合わせたりターンをしたりしながら、二人は不思議な浮遊感を楽しんだ。クラシック音楽があれば最高なのに、とハレは思う。クラシック音楽がどういうものか、ハレはあまり詳しくはない。ただクラシック音楽があれば、この最高な時間がもう少しだけ最高になるのだろうということはハレには分かった。

 ハレとノアは時折、互いに目配せをしては微笑み合った。今までに感じたことのない感覚が、二人の中には芽生えていた。敢えて言葉を交わさなくとも、視線や触れた指の先から、お互いの考えていることが自然と伝わってくる、というような。

 彼女の透き通るような黒い眼差しは、そして彼の淡く澄んだ緑青色の瞳は、どうしてあんな風に美しく見えるのだろうということを、二人はお互いに考えずにはいられなかった。そこにどんな名前を付ければいいのかということは、二人にはまだ分からなかった。ただ――、

(ノアも同じ気持ちだったらいい)

(ハレさんも同じ気持ちならいいな)

 小さな胸の内で、二人はそんな微かな祈りを、優しく柔らかく、読み上げるように思うのみであった。

「ハレ、まッてー」

 後方から自身を呼ぶバロンの声に、ハレは振り返りながら減速する。「ごめんごめん!」

 ハレたちの背中へと追い付きながら、「距離を開けすぎるなよ」とシンが言った。「速度が速度なだけに、はぐれたら合流するのも一苦労だからな」

 「おっす! 先生!」ハレは敬礼をしながら答える。昨日からハレが自分のことを先生と呼んでくることに、シンはもう言及するのが面倒になっていた。呆れ顔で短い溜め息を吐き出しながら、「まあ、なんとでも呼べばいいけどな」とシンは言った。

「ともかく気を付けてくれ。先日これが完成した時に一時間程度の試験運用をしただけで、連続した長時間の加速は、まだ実験段階なんだからな」

「分かってるって! でも先生言ってただろ? 理論上は正常動作するはずだって」

 先が思いやられる、とでも言いたげに困った顔を浮かべながら、「理論上はな」とシンは答えた。昨日の昼下がり、シンからこの〝共鳴武装(チェインアーマー)〟を受け取ったところまで、話は遡(さかのぼ)る。


「チェインアーマー? もしかして、例のワープ沼とかいうのを作り出せるっていう、アレか!?」

 歓喜の表情で尋ねたハレに対し、「いや」とシンは首を振るった。「ワープ沼を作り出せるのはセカンドフォルスチェイン。この〝共鳴武装(チェインアーマー)〟とは別物だ。セカンドフォルスチェインの復元には、すまないがもう少し時間がかかりそうだ」

 少しだけ残念そうにして、「そうなのか」とハレは答える。

「そう落ち込むな、ハレ。この〝共鳴武装(チェインアーマー)〟も、お前は気に入るんじゃないかと俺は思ってるんだ」

 そう言って、シンは〝共鳴武装(チェインアーマー)〟についての解説を開始した。解説は凡そ一時間弱に及んだが、ハレに理解出来たのはその半分ほどだった。こういう時にトーマがいてくれれば、とハレは一瞬考えた。が、そういう甘えが良くないのだと、ハレはすぐに思い直した。例え一度聞いただけでは理解出来なかったとしても、複数回聞いたり、自分の中で噛み砕いて考えることで、理解出来る可能性だってあるのだ、と。

(考える前から諦めるなって、怒られそうだな)

 トーマの言葉が脳裏をよぎると、ハレは自然と背筋が伸びるような気持ちになった。自分も変わらなくてはいけない、とハレは思う。トーマやアーロンを、あちら側から連れ戻す為にも。

「そもそもの部分から話をすると――」

 シンによる解説は、以下のような内容だった。

 二十年ほど前、このアンモス大陸の北東にはリ・ウェンという小さな国があった。軍によるクーデターから発展した内乱によって破滅の道を辿ったが、かつては高い軍事力と技術力で、小国ながらも威光を誇った国だったという。

 晩年、リ・ウェンでは元素機構と類似した発明品として、『共鳴武装(きょうめいぶそう)』という武装具の研究開発が行われていた。基本的には元素機構と同じような仕組みを用いた、『意思なきアーツ』と呼べる代物で、その用途を戦闘向けに特化したような内容のものであった。フォルス灯(とう)を始めとした元素機構が、利便性を求めて街々に設置されることを想定して開発されているのに対し、共鳴武装はその名の通り、人がその身に装着して戦闘を行うことを目的に開発が進められていた(とはいえ両者はお互いに、どちらかがどちらかを模倣したというわけではなく、同程度の技術力を持った二つの国家間で、偶々(たまたま)時を同じくして産声を上げた姉妹的な関係の技術だったのだという)。

 結果的には大国フォックシャルと小国リ・ウェンの間にある、研究施設の規模や研究者人口の差が起因してか、元素機構が完成して日の目を見ることになった一方で、共鳴武装はリ・ウェンが内乱の果てにその歴史に幕を下ろすまで、ついに世に出ることはなかった。「完成は遠くなかったようだがな」とシンは言った。

「俺が初めて資料に目を通した時点で、基礎となる部分はほとんど出来上がっていた。あと一歩というところで行き詰っていたのだろう。そんな矢先で内乱が起こった。共鳴武装の開発は、軍部と研究者チームの合同で行われていたんだが、一説によればこの内乱は、共鳴武装の完成後、諸々の権利をどちらが保有するかを巡っての諍(いさか)いが発端となったとも言われているんだ」

 リ・ウェンは歴史背景的に、軍部が強い政治力を持った軍事的国家だった。軍部による強い統率こそが、歴史ある一国家としてのリ・ウェンを支えながらも、結果としては軍部が力を持ち過ぎていたことがその崩壊を招いたのだから皮肉なものだと、シンは残念そうに言った。

「共鳴武装の技術に目を付けた俺は、今から凡そ一年ほど前、廃墟となったリ・ウェンからその資料を持ち帰った。それから一年間、独自に研究を重ね、先日ようやくその第一号となる〝共鳴武装(チェインアーマー)・飛天(フェイティエン)〟を完成させた。このアンクレットが、まさにそれだ」

 曰く、共鳴武装は研究段階より、用途の異なる複数の種類のものを製作することが計画としては定まっており、シンが持ち帰った資料の中にも、それこそアーツと〝共鳴(チェイン)〟をするのと同じように、手から岩の弾丸を顕現出来るようにする腕輪状の共鳴武装や、バックルから炎の剣を生み出すベルト状の共鳴武装なども、案として掲載されていたという。その中からシンは〝共鳴武装(チェインアーマー)〟の第一号として、戦闘用というよりはどちらかというと移動用にその案を練られていた、〝飛天(フェイティエン)〟を選んで製作をすることに決めた。その理由を、シンは次のように語った。

「俺たち――つまり、リリやルチカやバーンズを含めた、四年前の旅のメンバーということになるが、俺たちが今後為すべきこと、いや、為さねばならないことの遂行には、長距離の移動が付き物になってくる。今回お前たちが取ることとなる、エンデラへの進路も含めてな。〝共鳴(チェイン)〟をした状態で高速移動をすることも出来るが、移動の度に使っていたのでは人間もアーツも体力が持たないし、かといって〝共鳴(チェイン)〟もせずに歩いていたら、それこそ途方もない時間と労力がかかる。そこで、俺は数ある共鳴武装の案の中から、まずはこの〝飛天(フェイティエン)〟を開発することを選んだ。情報のない俺たちに求められるのは、何よりもスピード感だ。俺たちやお前たちの目的の達成を、少しでも確実なものにする為にもな」

 シンの解説は続く。「ここからは、実際の〝飛天(フェイティエン)〟の使い方だが――」

 鈍い銀色の輝きを放つ〝飛天(フェイティエン)〟のリングは、足首に装着して使用する、アンクレット型の〝共鳴武装(チェインアーマー)〟である。装着をした状態で、「〝共鳴武装(チェインアーマー)・飛天(フェイティエン)〟」とその名を呼ぶ、または念じることによって起動し、装着者の足元に強力な風のフォルスによる力場を発生させる。力場は装着者の身体を地面から僅かに浮き上がらせ、段差のない滑らかな地形であれば、高速で滑るように移動することを可能とする。また、この力場には共鳴術技(きょうめいじゅつぎ)に使用されるものを簡略化したようなフォルスの術式が組み込まれており、足の動きと連動して、前後左右に風のフォルスを噴出する仕組みとなっている。踏めば加速し、踏まなければ減速していく。細かい足の動きによって、装着者には急旋回や急ブレーキ、高い跳躍などをすることも可能となる。

「ただし、使えるのは基本的に、障害物や段差のない地形に限られる。またそれなりのスピードが出る以上、何かに衝突でもすれば返ってくる反動も大きい。平坦な地形であったとしても、使うときには十分な注意を払ってくれ。長くなったが、俺からの話はそんなところだ」

 シンの解説を聞きながら少しずつ情報の処理を進めたハレが、シンの為したことの凄まじさに気付き、相応のリアクションを返せたのは、解説が完全に終了した後のことだった。話が終わったのにも関わらず、うーんと唸ったり、うんうんと頷いたりを繰り返すハレの理解が落ち着くまで、シンとノアは暫し待たされることとなった。最後のピースを嵌め込んだらしいハレは、最終的には眉を八の字に歪めながら、「ちょ、ちょっと待ってくれよ」と顎を擦った。

「キョーメーブソー? ってのは、未完の技術だったって言ったよな?」

 「ああ、そうだ」とシンは頷く。

「でもそれが、今は完成した状態でここにある。ここまで合ってるか?」

 「ああ」とシンは更に頷いて答える。「実際には、研究当時に想定されていた最終的な仕様とは、微妙に異なる部分も幾つかはあるがな。研究されていたものを完璧に再現出来たわけじゃない。だから別の名前で呼ぶことにしたんだ」

 「そこだ。そこが分からねえ」人差し指を突き立てると、ハレは解(と)けかけていた眉間の皺(しわ)を寄せ直しながら問うた。「キョーメーブソーは元々、ナントカって国の誰かが造りかけてた技術だった。でもそれが完成しないまま、そのナントカって国は滅んじまった。なのにだ。今はそれが完成した状態で、ここに存在している。その上名前までオシャレに生まれ変わってると来てる。その中間が分からねえ。なんで完成しなかったものが、完成した状態でここにあるんだ?」

 多分、ハレは考えることに夢中で、それを自分が造ったというくだりを聞き逃したのだろう。シンはそう思うことにした。咳払いを挟みつつ、シンは今一度、自分がリ・ウェンから資料を持ち帰ってから、〝飛天(フェイティエン)〟を完成させるまでの経緯(いきさつ)を、改めて丁寧に説明した。二度の話を聞き終えてようやくその成り行きを理解したハレは、その事実への驚きに目を丸くさせた後で、呆然とした様子のまま、再びシンへと尋ねた。

「つまりだ。どっかの誰かが造りかけてたけど完成しなかったキョーメーブソーの研究資料を、どっかからシンがパクってきて、勝手に完成させたと。そういうことで合ってるか? ていうか、本当にこれをシンが造ったのか? みんなで俺を騙そうとしてる?」

 身も蓋もないハレの物言いに、シンは渋い顔を浮かべつつも、「いまいち看過のし難い表現ではあるが、まあ結果的にはそういうことになる」と答えた。ハレは尚、信じられないとでも言いたげに唖然とした表情を浮かべながら、次のように続けた。

「悪(わり)ィけど俺は半信半疑だよ。そんなレシピにちょい足しするような感覚で、これって造れるもんなのか? シンって何者? 実は滅茶苦茶すごい人?」

 「何者でもないさ」とシンは答える。「俺はただの、学問の犬だよ。さっきも言ったように、共鳴武装の基礎となる部分はほぼ出来上がっていたんだ。ほんの少しの発想の転換が足りなかった。そして俺は、元素機構の開発でたまたまその辺りのノウハウを持っていた。それだけのことだ」

 何でもなさそうに、シンはそう言った。実際に、シンにとっては自分が為すべきことをした、というだけで、それが彼にとって『何でもないこと』であることは事実なのだろう。然しその一方で、それが称えられるべき偉業であることもまた、ハレにとっては信じ難くもあり、そして紛れもない事実だった。

 「簡単に言うけどよ~」とハレが言うと、「簡単ではないさ」とシンは返した。

「だけど難しいことでもない。お前がよく喋って、よく笑うのと同じことだよ。そうだろ、ノア」

 黒い眼(まなこ)を、シンはノアへと向ける。話を振られるとは思っていなかったらしいノアは、「え?」と一瞬戸惑った様子を見せたものの、少し考えてから柔らかな微笑みを浮かべると、「そうですね、そう思います」と頷いた。

 よく喋りよく笑う自分の姿と、シンが造り上げたという、銀色に輝くアンクレットを、ハレは頭の中に並べてみる。両者は似ても似つかないし、何やら凄絶(せいぜつ)な雰囲気を放つ足輪に対して、へらへらと笑う間抜けな男は何の役にも立ちそうにない。シンにはシンの観点があるのだろう、とハレは思うことにした。そのような、広い視野的なものを持つ人物こそが、多分世界を変えたりすることが出来るのだ。

「そういうもんかね? バロン」

 右後ろに立つバロンの表情を、ハレは仰いで確かめる。いつも通りにしゃくれた下顎を突き出したバロンは、首を少しだけ傾けて何も言わなかった。多分、会話の内容を理解していない。

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