↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独孤皇后物語~隋の皇帝を操った美女  作者: 結城 
第三章 新帝と一人目の独孤皇后
28/116

第三章 新帝と一人目の独孤皇后 五

 しかし幸せとは長くは続かないものであるらしい。


「伽羅、変事が起こった!」


 裾を蹴散らして部屋に飛び込んできたのは、楊堅であった。

 武成二年四月。西暦にして五六〇年の事である。

 もう大概のことでは驚かぬ自信のあった伽羅であるが、夫の形相はただ事ではない。


「少々お待ちを。これ、麗華を別室に」


 心得たように、母にすがっていた幼子を乳母が優しく抱き取る。

 しかし麗華は、父の様子を不安に思ったようだ。声高く泣き始めた。

 それを乳母がなだめつつ連れていく。


 子供と乳母が部屋から遠ざかったのを確認すると、伽羅は覚悟を決めて楊堅に向き合った。

 夫のこの取り乱しようは、これまでの変事以上である。

 此度はいかなることが起こったのであろう。


「陛下が……陛下が……ご崩御あそばされた。

 ああ、もうどうするべきか私にはわからぬッ」


 楊堅は髪をかきむしるようにしてしゃがみこんだ。

 長身の楊堅だが、今はなんと小さく見えることか。

 まるで小さな子供が泣いているようであった。


「陛下が……やはりそうでありましたか。

 お若い陛下が亡くなられたということは、ただの病死ではございませんね。

 宮中に病がはやったという噂も、そもそも聞いてはおりませぬ」


「そうだ……毒殺だ……陛下は弑逆しいぎゃくされたのだ!!」


 楊堅は涙を落としながら声を振るわせた。


「手を下したのは、またしても宇文護でありましょうか」


 感情を押さえつけたような、抑揚の無い伽羅の言葉に楊堅は頷いた。


「そうだ……私はそのとき陛下の所用により席を外していた。

 しかし宮伯(皇帝を警護する衛士)でありながら陛下の毒殺を防げなかった責任を負わされて自邸での謹慎を申し付けられたのだ。

 その『所用』とて、宇文護が陛下にそう行動させるよう、謀ったのに違いない。

 衛士を全て謹慎させた後、宇文護や奸臣共が良いように筋書きを書くだろう」


 楊堅はがっくりと肩を落とした。


「やはり……そうでございましたか」

 

 臣下、民衆に広く慕われた、優しい賢君・皇帝毓。在位は実にたったの二年半であった。

 はかなき事、夢のごとしとはこのことである。


「ああ、あやつを引き裂いてやりたい。地獄に落としてやりたい。

 陛下は警護役として仕える私にも本当にお優しい方であった。

 いや、私に限らず、身分低い給仕係や庭師にまでいたわりの言葉をかけるようなお方であった。

 宇文護のような悪臣に対してさえも礼を尽くされていたのに、どうしてこのような非道な真似が出来るのか……」


 うなだれて涙を流す夫の背を、伽羅はただ優しく撫でさすった。

 けれど伽羅は涙を流さない。

 今度は、伽羅が夫を支えねばならない。強くならねばならない。

 心からそう思ったのである。


 また、今度は悲しみよりもむしろ『怒り』が沸き上がってきた。

 それは炎となって燃え広がった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=565178620&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。