エトセトラ再び
エトセトラ、正式にはetSETOra。
豪華な観光列車じゃないから食べ物はスナック程度だ。
西日本の豪華列車といえば『瑞風』で、チヅルさんはまだ知らないようだった。
僕ら家族は往路の広島駅から尾道駅へエトセトラを使って移動することにした。
二両編成で全席車窓が楽しめるよう比較的大きな窓になっている。
後で知ったんだけどチヅルさんが出産前に希望していたやつ。
列車を止めて景色を楽しむリクエストは忠海~安芸幸崎駅間で行うらしい。
観光列車だけあって粋なはからいだ。
ネットで紹介動画をアップしてる旅女子がいるからチェックしてみればいいと思う。
僕らは2-6の席を三つ予約した。
海がずっと見えてるわけではないと思っていたけれど、
野暮な考え方なのは僕だけだったらしい。
生まれてから移動が多い生活だと景色を楽しむという気持ちがなくなってしまうのかもしれない。
彼女は尾道に着くまで楽しんでいたようだ。
目を輝かせながら海、山、民家、工場。
その繰り返しだったけどずっと流れて行く景色を見ていた。
広島に限らずせとうちは海と山から生活の糧を得て、
工業化を果たしてからは工場が建つようになった。
彼女にとってお気に入りの映画を何回も見るようだったのかも知れない。
そんな彼女を見るのが僕にとっては楽しみだった。
子供はというとずっとスマホをいじっていた。
家族の行事だから来て欲しかったので漫画を数冊買ってあげた。
というわけで僕らは尾道駅に降りて、
ロープウェイ手前の道に入って千光寺公園まで歩いてみた。
丁度、漫画を読み終えた我が子が一言。
「恋人の聖地って……なんか重い」
その一つの単語にいろんな意味あいを込めるのやめてくれ。
返しにくいだろ。僕は恐る恐るチヅルさんの方を見てみた。
ほら、やっぱり昔の大失恋を思い出して涙してるじゃん。
午後は厳しいな……チヅルさんのケアが、と思った次の瞬間だった。
僕の頭の中で点と点がつながった。
新解釈だ。そういう事だったのか。
多分、これに気づいてるのは僕だけだ。
「チヅルさん、みんながやってるように錠前ロックしよう」
「なんで? もう私たち夫婦だし。子供いるし」
「そうじゃなくて、置いてくんだよ。ここに」
「パパ、それってまさか!」
「そうだ、傷ついた恋の心をここに置いて行くんだ。
そうすれば君は新しい一歩を踏み出せる」
「ええっ!」
「へー、ママって浮気すんの?」
「文脈違うよね、移動してエビカレー食べようか?
景色良いしアイスクリームあるらしいよ。
んでもってロープウェイで降りよう」
「そだね」
「カレーなの? そこのお店に黒猫いるらしいよ……って。
やっぱりカイさんって一度ここに来たことあるんだ」
「ないです。偶然です。
もう僕すごく腹減ってます」
「ここでパパ、浮気してたの」
「そのネタ、もういいってば!」




