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広島風と言ってはいけない(後編)

僕は『お好み焼き』といえば、生地と具材を混ぜないのが当たり前だと思っていた。

これは東京よりも大阪よりも初めに広島に住んだのが影響してると思う。

東京で学生をしている頃にみんなと一緒に食べに行くんだけど、生地と具材が一つのボウルに入れられて

目の前に出された時はショックだった。


店の人はそんなに客としての僕らを嫌ってるのか?

僕らが何か粗相でもしたのかと。

東京育ちの仲間は顔色一つ変えずにそれを混ぜだしたんだ。

混ぜちゃったらチヂミじゃんって思いながらね


恐らく納豆みたいにかき混ぜればかき混ぜるほど美味しくなるのだろうと、

生クリームを作る時のように必死に混ぜたんだ。


当然、僕の必死な姿に奇異な視線を送る仲間と店員さん達、

一つの国で同じ言葉をしゃべっていてもドイツとフランスぐらい違うのだ。

ようやく僕は、これはカルチャーギャップだと理解した。


僕は苦笑いして大阪風と呼ばれるお好み焼きを焼いた。

だからこそ広島風とは何者なのかという問いに向き合わなければならないと思った。


広島風お好み焼き……まるで地動説を否定された時のような違和感のあるこの響き。

広島県民はお好み焼きと言えば、コレ……なのにコレじゃないと異端視される。

自分より大きなGDPを持つ大国に否定されてしまう哀しさ。


もうこれだけでも広島県民が立ち上がって、

独立を宣言しても良いんじゃないかと言うぐらいの違和感なのだと思う。


広島風……ではなくお好み焼きは軽さの追及にあると思う。

だから生地はゆるめにするし鉄板焼きで使うような設備が欲しくなるんだ。


僕は未だに広島市のお好み焼き屋さんで食べた時に感じた『軽さ』を

自分で再現出来ていない。

多分これを解決するには蒸す工程と水分を飛ばす工程を見直さないといけないのだと思う。

そこで登場するのが『クローシュ』だ。


鉄板焼きでなぜクローシュが使われるのか?

それは蒸し焼きのためと香り付けをするためらしい。

それをお好み焼きに応用するなら多分こうなる。


①生地を鉄板の上にのばして焼いておく

②生地とは違うスペースで豚肉を焼いた後、その上にキャベツなどの野菜をのせて

 ひっくり返しクローシュをかぶせる。

 多分そうすることで豚の油と肉汁が上から蒸気とともに降りて来る。

③更にとなりで卵を焼く。黄身は半熟の状態を維持する。

④野菜の余分な水分をとばしたら、生地→野菜→肉または卵の順に積み重ねて行く

⑤ひっくり返して出来上がり



麺を重ねる、生地をかけてからひっくり返すというのは好みの問題だと思う。

この作り方はあくまで『軽さ』を追求した場合の話で、

軽さを追い求めるとモヤシを入れなくなる。

食べてる最中に水分が出て来てしまうからだ。


もしモヤシをいれるなら炒めすぎないように、かたさが残るようにしないといけない。

しかしキャベツとモヤシは性質が異なるのでタイミングを合わせるのは至難の業だと思う。

そこまでしてお好み焼きにおけるモヤシの地位は高くないと思う。



このように僕は、真剣な眼差しでお好み焼きを焼くチヅルさんを見ながら考えていた。


「んっ……やって」


これもいつもの光景だ。

なぜか子供の頃から『返し』が誰よりも上手だった。


物体には重心があるからまずコテで前後左右の重心を見極める必要がある。

躊躇していると食べごろを逃してしまうから待ったなしだ。


横から見た時の上下の重心移動は弧を描くようにコテを動かす。

これでは遠心力で具材が飛び出してしまうから頂点に向かって行くにつれ、

勢いを消して行かないといけない。


僕は純粋な広島県民じゃなかったけれど、この持って生まれた特技で名誉県民にしてもらった。


「カイさんって、ホント上手だよね」


「慣れれば誰でもできるよ」


ジャーという音がジューっとなったら食べごろだ。


僕は多分、広島県民にとって都合のいい存在なのだと思う。

具材のチョイスや作り方にこだわりがないから100%、相手に合わせることができる。

僕と食卓を囲む人はそれがどうやら快感らしい。


「味付けは自分でやってね」


僕はそう言って、火力を弱めた。


「カイさんも食べなよ」


「そうだね」



もしかしたら初めて国を作った人は料理人だったのかもしれない。

食べ物から来るあらゆる毒や病気を退け、火を操ることは現代でも難しいと思うからだ。



「ごちそうさま」



そう言われるのが僕は何より嬉しかったし、誇らしかった。

初めての国はとても平和だったのかもしれない。

それを受け継いでいるのは家族なんだろうと思った。


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