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エトセトラ

僕は何日か休みをもらって『せとうち日記』を眺めていた。


チヅルさんは僕の、いつもとは違う雰囲気を察してか

束縛モードにはならなかった。



「カイさん、何読んでるの?」


「ナギさんっていう人から預かった創作メモだよ」


「ふーん、今どうしてるの?」


「この世にはもういないと思う」


「そうなんだ」



チヅルさんは肩を寄せて来て、少し僕の表情を読んでいた。



「僕は、命を燃やして残してくれたこれを、

 世に送り出したいだけだよ」


「そうなんだ……いいんじゃない。カイさんらしくて」



「ねえ、どう思う?」


「何が?」



僕は『せとうち日記』をチヅルさんに見せながら、

せとうちの夕日の描写を伝えた。



『熱したガラス玉』



僕はそんな夕日を見たナギさんの感情を伝えたい。

僕はその感情の、その言葉の先を見てみたい。

絵や色では表せない、言葉でしか表せないものだろうから。

本当に伝えたいことは言葉でしか伝わらない。



「透明感のある言葉だけで表現すると、

 これに行き着くんだよね」


「たぶんそれ、ナギさんって人が見つけたものだからじゃない?」


「どういう意味?」


「この日記を書いてたってことは、

 少しばかり時間があったってことでしょ?」


「まあ、そうだね」


「おばあちゃんが亡くなるちょっと前に、

 手紙をもらったんだけどね。

 文字が乱れたり、力強さがなくなっていったり。

 ちょうどこのページみたいな感じ」


「本当だ、別人が書いたみたいになってる」



チヅルさんは僕の方をじっと見て黙ってしまった。



「カイさんは優しい人なんだよ」



それは違う。



僕はそう言おうとしたけど言わなかった。

ナギさんが一瞬でも発揮した才能に今も嫉妬しているんだ。

僕はやっぱり醜くて、つまらない人間なんだよ。

それをごまかしてくれるのは、チヅルさんだと思った。



「ありがとう」


「なんで?」


「付き合ってくれて。

 晩御飯何にする?」


「なんでもいいよ」


「じゃあ、今日はカキのアヒージョだね」



「私はカイさんの料理する音が好き」


それは自分が料理しなくて良いからなのか?

どうなんだチヅルさん。

僕はつまらないことを考えながら、

ニンニクの芯を取り除いていた。


包丁とまな板が当たる音や材料を切る音。

僕が料理の時にたてる音は彼女にとって心地よいらしい。



SNSではASMRというジャンルの動画がある。

炭酸飲料をグラスに注いだ時のシュワーっとした音とか、

チャーハンを炒める音とか雨の音とかを配信するというもの。

立体録音用のマイクは百万円を軽く超えるほどの値段だ。


Podcastで似たようなことをしているようだけど

BGMを電車の音だけにして、ハスキーボイスのお兄さんに

ナレーションしてもらったら需要あるかな?



「ねえ、チヅルさん。

 今度、エトセトラで広島と福山を往復してみない?」


「ん? 何企んでるの」


「いや、ちょっと試してみようと思って」


「ふーん、良いけど」


「お母さんたちには内緒ね、ノイズが凄そうだから」


「何それ、ウケる」



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