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女の情念(後編)

僕らはコンドーさんのリクエスト通り、

ラストシーンを大山祇神社で撮ることにした。


「じゃあ、カイさん地面にバツマークあるじゃないですか」


「はい」


「そこに立ってカメラとは逆の、

 ちょうどチヅルさんの方を向いて下さい」


「わかりました」


撮影に緊張していたのか、チヅルさんをじっと見ていたのか、僕は少し鼓動が速くなっていた。


そういえば彼女の連絡先まだだったな。

そう思っていたら撮影が始まった。


ラストシーンは見映え良く、鶴姫と恋人が抱擁するというものだった。


「カイさん、もっと力強くハグしないと絵にならないよ」


僕は言われた通り、腰にまわした手を背中へ移動した。


なんだかチヅルさんの表情が曇っているようだった。

気持ちとは別に、腕の中の感触は柔らかくふわふわとしていた。

どんどん険しくなって行くチヅルさんの表情に、僕は視線を逸らしてしまった。


撮影は数分で終わったのだけど随分長く感じた。

僕はお辞儀をして片付けを手伝った。


一段落した頃、僕はチヅルさんの連絡先をもらおうと思って歩み寄った。


「あの、チヅルさん」


振り向いた彼女には悔しさと怒りと哀しみがにじみ出ていた。

それを隠そうとしていたのだけれど、僕は読み取ってしまっていた。

そんな僕を同じように、彼女も読み取っていたようだった。


「ごめん」


この局面で言ってはいけないセリフだったことは後で知ることになるんだけどね。


あの時はそこまで気が回らなくて、自分の連絡先を渡すだけで良かったのに残酷なことを彼女に強いてしまっていた。


「彼女の香水、カイさんの体から匂ってる」


そういって、チヅルさんは背を向けて離れていった。


まあ、あの雰囲気からのこれはないよな。

僕は宮司さんに明日も少し片付けがあることを伝え、その場を後にした。



翌日、神社に行くとチヅルさんが鳥居のそばで待っていた。


「昨日は大人げない態度してしまってごめんなさい」


そういって彼女は自分のスマホを差し出した。

僕はそれを読み取った。

彼女は仕事の関係で、これ以上島にはいられなかったようだ。

すぐに広島へ戻らないといけないらしい。



「少しいい?」



彼女は僕を引き寄せた。

鼻先が僕の首に触れて少しくすぐったかった。


「ねえ、どうしたの?」


「ううん、何でもないよ」


そう言って彼女は背を向けて歩きだした。


「じゃあね!」


僕は二つ、思った。


男と女は違う生物だ。

どうやら僕は合格みたいだ。


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