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あいさつをしに淡路へ行く

淡路企画は、お客さんにまあまあウケた。

案の定、生のウニをくれって言いだすお客が出て来たけれど。


「お客さん、それは本場に行かないとダメですよ」


「本番ってどこなの?」


「淡路の由良です」


赤ウニの養殖は今後、瀬戸内域内へ広がって行くんだと思う。

これはどこかが不漁になってもどこかが補えるように、

ピンポイントにしないことが良いのかも知れない。



ツムギさんの所へ会いに行くのは何だか気恥ずかしかったけれど、

僕は有休を利用して淡路の漁業組合に挨拶しに行くことにした。

ついでに江埼灯台で夕日を見ようと思っていた。

海岸線に沿って光の道が現れるらしい。


神戸でレンタカーを借りて淡路インターチェンジを下り、漁業組合の親分にお礼に伺った。

僕の叔父さんと同じでやっぱり近寄りがたい。

海賊の末裔なんじゃないかっていう、この雰囲気は都会暮らしの自分には圧が凄かった。


「ツムギちゃんの元彼氏、よう来たな!」


これ絶対、奥様方がお話しに尾ひれつけて放置したやつだ。

否定した方が良いのかな……でも機嫌損ねたらヤバいよなー。

ここはひとつアレだ。


「いやー、僕はなよっとしてるので彼女から相手にされませんでしたよ」


「あらっ、やっぱり噂はほんとだったんだなー。

 まあ男はなんだかんだ腕力だからなー」


はい……あなたのおっしゃる通りです。事実は違いますけれど。


「ツムギちゃんは病院から戻るころじゃないか。

 ここまで来たんだ会いに行きな」


親方の言うことが少し受け止められずにいた。

僕は親方が運転する車の後をついて行き、彼女の実家に着いた。


「じゃあな」


「ありがとうございました」


親方と別れた僕は今、由良の南に行ったところにいる。

ここは面白い地形で港が一筆書きのように細長い島で囲まれているんだ。


「カイさん、久しぶり。元気だった?」


振り返ればツムギさんが声を掛けて来た。


「久しぶりです」


ツムギさんのお腹は大きくなっていた。


「歩いても大丈夫なんですか?」


「まだ先だから大丈夫だよ」


「あの、旦那さんは?」


「今、本土の方に行ってて帰るのはまだ先よ」


なんだか僕はツムギさんが羨ましかった。

これは恐らく親世代の価値観が刷り込まれているからだと自分に言い聞かせた。


「カイさんもお嫁さん探したら?」


多分、僕がツムギさんの大きなお腹をじっと見ていたからだろう。

僕は作り笑いをするだけだった。


「あのツムギさん……相談が」


「何?」



「由良では僕とツムギさんが付き合ってたってことになってるんで、

 これって問題になりそうだからツムギさんの口から否定して欲しいです。

 ここ、ちゃんとしとかないといけない気がするんです」


ツムギさんの笑い声は大きく、静かな由良の海を響かせていった。

その後は仕事の話とか、いろいろとしたはずなんだけど結局、今になっても思い出せない。

まるで僕は誤解を解くためだけに淡路へ乗り込んだ形になってしまっていた。


「じゃあ、カイさん気をつけて。

 どこか寄ってくの?」


「いいえ、もう本土の方に帰っちゃいます」


これから江埼灯台に行くのだけれど余計な心配になるからね。

僕は由良を後にして、県道31号線を北上する形で車を走らせた。

最後の十分程度は海を眺めながらのドライブだった。


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