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ヒラノさんもアブダビへ(後編)

私はコンドーさんとSNSでアブダビ行きについて話をしていたの。


[動画見た?]


[面白そうだね、見栄えが良いよ

 このマシーン誰が作ったの?]


[大学の先生と学生さん達]


[直近で派手に負けてるから前座ならいけるんじゃない?]


[この前コンドーさんに買わされた株券売れないから

 アブダビまでの費用全部持ってね]


[ところでコスプレOK?

 同じ時期に開催予定のアニメフェアあるから

 ヒラノさんの話題作りのために利用しよう

 そのマシーン持ってこれる?]


[大丈夫なんじゃない?]


[主催者側に話通しとくよ]


[ところでカイさんは元気?]


[彼もアブダビに来てもらうよ]


[ならサプライズだね]



最後の試合から評価が下がり始めるのは数週間後。

事実上、最後のチャンスってことになるのかな。

と言うわけで私はアブダビに着いた。



アブダビについてからはトレーニング用のマシンの組み立てと調整のために

アニメフェアの会場の一角に私はずっといた。

会場の人たちはスマホで撮影をしていたの。

コンドーさんの読みは当たったみたいね。

私はネットにいる学生君に話しかけた。



「みんな聞こえてる?」


「シミュレーターはオールグリーンです。

 ヒラノさん、テストしたいのでいつもの位置に立って下さい」


「これでいい?」


「ヒラノさん……そういう趣味があったんですか?

 データ自体は取れるので構いませんけど」


「客寄せなのよ、気にしないで。

 私も気にしないようにしてる」


「まあ試合ではもっとあれですからね

 似合ってますよ、その衣装」


「うっさい、始めるわよ」




*  *   *    *   *  *




そんな経緯があったみたいで僕はリングの中のヒラノさんを見たんだ。

リングはフェンスで囲まれてて……これ大昔、アニメで流行った金網デスマッチだよね。

アラブの王様はとことん日本のアニメが好きみたい。


試合が始まって一分、二分と経つにつれ相手の動きが鈍くなって最後は棄権しちゃったみたい。

終始、ヒラノさんは低姿勢だった。まるで前島でキャベツの収穫を手伝った時の姿勢のまんまだった。

相手の顔を殴るのが嫌になったからなのか、言葉通りの戦い方になっていた。



ヒラノさんは日本に帰らず、興行先を転々とするらしい。

どうやらスポンサーがついたみたい。

あのマシーンも持ってゆくのかな? 彼女の代名詞みたいなものだからね。


アブダビで一番のサプライズはイスラム文化じゃなくって、

ヒラノさんのイタいコスチュームだったかな。

がんばれヒラノさん。僕も無責任にあなたを応援するよ。



僕の疑問に応えてくれたのはコンドーさんの仕事仲間のカリムさん。


「じゃあ、カイさん良いもの見せてあげるよ」


カリムさんは砂漠まで僕を連れて行ってくれた。


見せてくれたのは夕日だった。

見渡す限り砂の海が広がって太陽が地平線に沈もうとしている頃だった。


「カイさん、私たちはもともとこの景色の中で生きて来たんですよ。

 だから売るものがなくなったらそれでおしまい。

 車が動かなくなったらラクダに乗り換えるだけです。

 いつかその日が来る。だから忘れないように、ここに来るようにしてるんですよ」


その太陽は熱したガラス玉のように輝いていた。

せとうち……それに似ていた。


「カリムさん、似たような景色が日本にもありますよ。

 日本に来た時は是非、いらして下さい」


「それはどこですか?」


「せとうちって言います」


カリムさんに宿まで送ってもらったんだけど、

きっちりデザートサファリと送迎料金を請求された。

ですよね……商売ですもんね。



滅多によこさないヒラノさんからメッセージが届いていた。


[観てくれてたんだね。ありがとう。

 今、飛行機に乗ってる。またね]



僕はアブダビから一人で帰国することになった。

コンドーさんはもしかしたらヒラノさんのプロモーションに絡んで行きたかったのだろう。


「自分はこれからアメリカに行ってくるよ」


「わかりました、行ってらっしゃい」


「職場のことでなんかあったらメッセージちょうだい」


「ありがとうございます。十分、ホワイトなんで大丈夫ですよ」



「それじゃ」



僕は少しお辞儀をしてコンドーさんを見送った。

ヒラノさんと同じく、振り返りもせずにゲートへ吸い込まれていった。


僕の便も搭乗時間が迫っていて早歩きで自分のゲートに向かった。

そこから成田まではひたすら座って、ひたすら寝ていた。


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