第77話「見えない航路」
グランデル。
通信塔の最上階。
風が強く吹いている。
その中心で、エリスが指示を飛ばしていた。
「航路更新、三分前倒し」
「船団アルファ、ルート変更」
「遅延は許容しない」
伝令が走る。
旗が振られる。
光信号が飛ぶ。
世界基準通信網。
それが今、すべてを支えている。
レオンはそれを見ていた。
「ここが心臓だな」
エリスが頷く。
「はい」
「航路も、保険も、契約も」
「すべてここを通ります」
沈黙。
つまり。
ここが落ちれば、終わる。
その頃。
黒海。
ラグナーの前に、数人の男が跪いていた。
船員ではない。
通信係。
捕らえられた者たち。
「分かってきた」
ラグナーが言う。
「航路は固定じゃない」
「だが必ず通る場所がある」
部下が問う。
「どこです?」
ラグナーは指で机を叩く。
「情報だ」
沈黙。
「連中は情報で動いている」
「なら」
目が細くなる。
「情報を奪う」
その頃。
グランデル通信塔。
夜。
静かだ。
だが影が動く。
黒い影。
壁を登る。
警備の隙。
短剣が光る。
一人、また一人。
見張りが倒れる。
静かに。
確実に。
内部へ侵入。
その瞬間。
「止まれ」
低い声。
ガルドだった。
剣が抜かれる。
影たちも動く。
戦闘。
狭い通路で激突。
金属音が響く。
一人が叫ぶ。
「情報を奪え!」
その言葉で、すべてが明らかになる。
レオンの予測通り。
次はここだった。
エリスが叫ぶ。
「通信を止めないで!」
兵たちが踏ん張る。
だが敵は強い。
精鋭。
黒海の暗殺部隊。
一人が塔の中心へ突入する。
「航路記録だ!」
手を伸ばす。
その瞬間――
ガルドの剣が振り下ろされる。
止まる。
血が落ちる。
侵入者が倒れる。
だが。
もう一人。
別の影が奥へ走る。
「逃がすな!」
追う。
だが間に合わない。
通信記録の一部が奪われる。
夜が静まる。
戦いは終わった。
だが。
完全ではない。
エリスが震える声で言う。
「……一部、漏れました」
レオンは静かに頷く。
「想定内だ」
カイナが低く笑う。
「やられたね」
レオンは答える。
「いや」
窓の外を見る。
夜の海。
「これで条件は揃った」
全員が彼を見る。
「相手は情報を持った」
「なら次は――」
一拍。
「偽情報を流す」
沈黙。
エリスの目が開く。
「……罠ですか」
レオンは頷く。
「信用の中に、偽りを混ぜる」
「敵だけが引っかかる形で」
カイナが笑う。
「性格悪いね」
ガルドが言う。
「だが効く」
その頃。
黒海。
ラグナーは奪った情報を見ていた。
航路。
時間。
信号。
「取ったな」
低い声。
だがその目は鋭い。
「……だが」
紙を閉じる。
「簡単すぎる」
沈黙。
ラグナーは笑う。
「来るな」
「これは来る」
信用の戦争は、
次の段階へ。
情報を巡る罠へと進む。
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