第76話「動く道」
グランデル港。
地図が張り替えられていた。
昨日までの航路は消えている。
代わりに――
複数の線。
細かく分岐し、交差し、消える。
商人たちがざわつく。
「どれが正規航路だ?」
役人が答える。
「すべてです」
混乱。
エリスが前に出る。
「航路は固定されません」
「出航ごとに最適経路が通知されます」
「最新情報で更新されます」
カイナが笑う。
「読めない航路か」
レオンは頷く。
「罠は固定を前提にする」
「なら固定を捨てる」
ガルドが腕を組む。
「だが混乱するぞ」
レオンは静かに言う。
「だから情報を売る」
エリスが補足する。
「世界基準通信網を使います」
「出航直前に航路を通知」
「途中も更新」
商人たちが息を呑む。
「そんなことが……」
カイナが肩をすくめる。
「外洋じゃ普通さ」
風と潮を読む世界。
それを制度化する。
数日後。
新たな船団が出航する。
航路は公開されない。
船ごとに違う。
時間ごとに変わる。
黒海。
ラグナーは報告を受ける。
「航路が特定できません」
部下が苛立つ。
「罠が無意味です」
ラグナーは黙る。
そして笑う。
「いい」
「面白い」
港を見る。
来ないはずの船。
だが――
少しだけ戻ってきている。
「ゼロにはならない」
小さく呟く。
「ならそこを取る」
部下が問う。
「どうやって?」
ラグナーは答える。
「人だ」
沈黙。
「航路は読めない」
「だが人は読める」
その頃。
海上。
基準船が静かに進む。
護衛船が周囲を巡る。
通信が入る。
「航路変更」
舵が切られる。
船は滑るように進む。
罠はない。
敵影もない。
港へ到着。
無事。
数日後。
統計が出る。
成功率回復。
商人が呟く。
「……安全だ」
「やっぱり基準航路だな」
信用が戻る。
だが。
レオンは言う。
「次が来る」
エリスが問う。
「次?」
レオンは静かに答える。
「ラグナーは学んでいる」
その頃。
黒海。
ラグナーは一人の男を見ていた。
捕らえられた船員。
震えている。
ラグナーは穏やかに言う。
「怖いか?」
男は頷く。
「当然だ」
ラグナーは笑う。
「安心しろ」
「すぐには殺さない」
沈黙。
「お前は役に立つ」
低い声。
「航路を教えろ」
男は首を振る。
「知らない!」
ラグナーは頷く。
「そうだろうな」
「だから」
目が冷たく光る。
「誰が知っているか教えろ」
空気が凍る。
航路は動く。
だが人は動かない。
信用の戦争は、
次の段階へ進む。
情報戦へ。
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