第71話「失われない価値」
会議室は静まり返っていた。
焼失したリベラ号。
その報は、すでに各地へ広がっている。
「基準船でも沈む」
その事実は重い。
エリスが言う。
「保険請求が来ています」
「当然だ」
レオンは頷く。
「だが問題はそこじゃない」
ガルドが腕を組む。
「信用が揺らぐ」
「そうだ」
沈黙。
信用は積み重ねだ。
だが崩れるのは一瞬。
カイナが言う。
「どうする?」
レオンは机に一枚の紙を置く。
「全額即時支払い」
空気が止まる。
エリスが目を見開く。
「……それは」
「可能ですか?」
レオンは答える。
「やる」
「遅れれば信用は死ぬ」
ガルドが低く言う。
「だが資金が……」
レオンは続ける。
「保険組合を動かす」
「各国共同保証」
エリスがすぐに理解する。
「分散するのですね」
「そうだ」
一国では重い。
だが複数なら支えられる。
「信用は個人じゃない」
レオンは静かに言う。
「構造だ」
その日。
グランデル港に張り紙が出される。
――リベラ号被害、全額補償完了。
速さ。
それがすべてだった。
商人たちがざわつく。
「もう支払われたのか?」
「三日だぞ……?」
「いや、二日だ」
情報は瞬時に広がる。
協議会。
帝国。
外洋連盟。
すべてに伝わる。
カイナが笑う。
「やるね」
エリスは息を吐く。
「これで一応……」
レオンは首を振る。
「まだ足りない」
港を見下ろす。
「一隻沈んだ」
「なら二隻動かす」
その言葉に、カイナが目を細める。
「倍返しか」
「違う」
レオンは言う。
「速度だ」
数日後。
新たな基準船団が出航する。
五隻。
リベラ号の倍以上。
そして全てに、
強化された保険証と公開契約。
さらに――
護衛船。
外洋連盟の高速船が並走する。
カイナが舵を握る。
「信用+速さ+護り」
「これが新型か」
レオンは頷く。
「信用は壊れる」
「だが再生できる」
その頃。
黒海。
ラグナーは報告を聞く。
「補償……完了?」
眉がわずかに動く。
「三日で?」
部下が戸惑う。
「ありえません」
ラグナーは黙る。
そして小さく笑う。
「面白い」
港を見る。
奴隷。
暴力。
恐怖。
それが彼の世界。
だが今。
別のものが現れた。
壊しても終わらない秩序。
ラグナーは呟く。
「信用は、しぶといな」
そして立ち上がる。
「ならもっと壊す」
戦争は終わらない。
だが今。
信用は一つ、証明した。
奪われても、
終わらないと。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




