第72話「護る者たち」
黒海航路。
風は強い。
波は高い。
そして――緊張はさらに高い。
基準船団、五隻。
その周囲を囲むように、
外洋連盟の高速船が並走する。
カイナは舵を握る。
「来るよ」
その一言で空気が変わる。
見張りが叫ぶ。
「敵影確認!」
黒い帆。
今度は三隻ではない。
七隻。
黒海同盟の艦隊。
数で押し潰す構え。
ガルドの部下が歯を食いしばる。
「多すぎる……」
カイナは笑う。
「いいね」
目が鋭くなる。
「逃げない」
レオンの命令は一つ。
――信用を守れ。
敵艦が迫る。
矢が飛ぶ。
だが今回は違う。
「盾展開!」
外洋船の甲板に、
簡易防盾が展開される。
矢が弾かれる。
距離が縮まる。
接舷戦の距離。
その瞬間。
カイナが叫ぶ。
「分散!」
船団が動く。
五隻がバラバラに散る。
黒海艦隊が一瞬迷う。
「どれを狙う!?」
カイナの船は加速する。
風を読む。
波を読む。
「一隻ずつ削る!」
高速船が一隻に集中する。
側面から衝突。
衝撃。
黒海船が揺れる。
そこへフック。
「乗り込め!」
今度は逆だ。
外洋連盟が攻める。
短時間で制圧。
一隻撃破。
だが敵は多い。
残り六隻が包囲を狭める。
その時。
基準船の一隻が叫ぶ。
「こちら被弾!」
帆が裂ける。
速度低下。
狙われる。
カイナが舌打ちする。
「来たね」
ラグナーの船が前に出る。
一直線。
弱った一隻を狙う。
「止める!」
カイナは舵を切る。
最短距離で割り込む。
衝突寸前。
ラグナーとカイナの視線が交わる。
一瞬。
そして――
激突。
船体がぶつかる。
衝撃が走る。
「踏ん張れ!」
甲板で戦いが始まる。
剣。
斧。
拳。
混戦。
ラグナーは笑っている。
「いい戦いだ」
カイナも笑う。
「同感だよ」
刃が交差する。
火花が散る。
その間に――
基準船が距離を取る。
逃げる。
護られる。
それが目的。
カイナは押し返す。
「今日は奪わせない」
ラグナーは一歩引く。
状況を見る。
一隻失い、
一隻逃げられた。
そして残りも分断されている。
舌打ち。
「退くぞ」
黒海艦隊が離脱する。
完全勝利ではない。
だが――
沈まなかった。
基準船団は、航路を抜ける。
数日後。
グランデル。
報告が届く。
「護衛成功」
会議室の空気が変わる。
エリスが息を吐く。
「……守れた」
ガルドが拳を握る。
「やったな」
レオンは静かに言う。
「これで一つ証明した」
カイナが帰還する。
傷だらけだが、笑っている。
「信用は、護れる」
その言葉が重く落ちる。
一度壊された信用。
だが今度は違う。
守られた。
実証された。
だが。
レオンは海を見る。
「まだ終わらない」
黒海は退いただけ。
そして次は――
もっと激しくなる。
信用と暴力の戦争は、
まだ序章に過ぎない。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




