第70話「砕かれた証」
黒海航路。
朝。
霧が海を覆っていた。
世界基準船「リベラ号」は、
慎重に進んでいた。
船体には新しい印章。
――世界基準交易証。
それは誇りだった。
同時に、標的でもある。
見張りが目を凝らす。
「……何も見えないな」
船長は頷く。
「霧はありがたい」
だがその瞬間。
霧の中から影が現れる。
黒い帆。
一隻ではない。
三隻。
「敵船!!」
叫びが上がる。
鐘が鳴る。
だが遅い。
すでに囲まれている。
矢が飛ぶ。
ロープが投げられる。
海賊たちが一気に乗り込んでくる。
「基準船だ!」
「いい獲物だ!」
抵抗はあった。
だが訓練された軍ではない。
商船だ。
数分で制圧される。
甲板に血が流れる。
船長が倒れる。
その前に、ラグナーが立つ。
静かに周囲を見る。
整然とした貨物。
記録された契約。
整った帳簿。
ラグナーはそれを拾う。
「綺麗だな」
一瞬の静寂。
そして――
ビリッ。
契約書を破る。
「信用は奪える」
低い声。
「紙は破れる」
部下が笑う。
「どうします?」
ラグナーは海を見る。
「燃やせ」
火が放たれる。
帆が燃える。
積荷が燃える。
そして――
世界基準の印章が、黒く焼け落ちる。
炎は高く上がる。
霧の中で、船は沈んでいく。
その光景を、遠くの小舟が見ていた。
逃げ延びた一人の船員。
震えながら、呟く。
「……基準が」
その報告は、数日後グランデルへ届く。
会議室。
空気は重い。
エリスが報告する。
「世界基準船、初の拿捕・焼失」
沈黙。
カイナが低く言う。
「やってきたね」
ガルドが拳を握る。
「軍を出すべきだ」
レオンはすぐに答えない。
地図を見る。
黒海。
そこはまだ、信用が届かない場所。
「……やられたな」
静かな声。
これは象徴だった。
世界基準は無敵ではない。
信用は壊される。
そして世界はそれを見る。
エリスが小さく言う。
「信頼が揺らぎます」
その通りだ。
一隻の沈没。
だが影響は大きい。
「基準でも守られないのか」
その疑問が広がる。
レオンは目を閉じる。
そして開く。
「次の手だ」
カイナがニヤリと笑う。
「やっと本気かい?」
レオンは静かに言う。
「信用を守る」
その言葉は変わらない。
だが今度は違う。
守るだけでは足りない。
証明しなければならない。
信用は、
奪われても終わらないと。
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