第69話「信用の包囲」
黒海都市ヴァルカ。
夜。
港の酒場は騒がしかった。
だが市庁舎の上階は静かだった。
ラグナーは地図を広げている。
黒海。
外洋航路。
協議会交易路。
そこに新しい印がついていた。
赤い線。
「世界基準航路」
部下が言う。
「商船が黒海を避け始めています」
ラグナーは黙っている。
「まだ小さい流れです」
「だが確実に増えている」
もう一人の部下が口を挟む。
「問題ありません」
「連中は理想家だ」
「海では力がすべて」
ラグナーはゆっくり椅子にもたれる。
「本当にそうか?」
部屋が静まる。
彼はテーブルに一枚の紙を置く。
世界基準交易証。
「この紙」
「ただの契約じゃない」
部下が眉をひそめる。
ラグナーは港を見る。
遠くの灯り。
「これは“安心”だ」
沈黙。
海賊は恐怖で支配する。
だが安心は違う。
安心は人を集める。
ラグナーは低く言う。
「船はどこへ行く?」
部下が答える。
「儲かる場所」
「違う」
ラグナーは首を振る。
「安全な場所だ」
その頃。
グランデル。
港の会議室。
地図が壁に広げられている。
レオン。
エリス。
カイナ。
ガルド。
レオンが言う。
「次の段階だ」
エリスが説明する。
「黒海航路の危険度を公式発表します」
ガルドが聞く。
「それで?」
レオンは答える。
「保険料を上げる」
カイナが笑う。
「なるほど」
危険航路。
それは数字になる。
そして数字は。
信用を動かす。
エリスが続ける。
「世界基準保険組合が設立されます」
「基準航路は低保険」
「非基準航路は高保険」
カイナが肩をすくめる。
「黒海は干上がるね」
レオンは静かに言う。
「まだだ」
地図の一点を指す。
黒海。
「ラグナーは馬鹿ではない」
「必ず動く」
夜の海。
ラグナーは港を歩いていた。
奴隷市場の横。
密輸船。
傭兵。
すべて見慣れた景色。
だが遠くに見える。
世界基準の船。
規律ある港。
静かな交易。
ラグナーは小さく笑う。
「面白い」
海賊王は言う。
「信用か」
「なら奪うまでだ」
彼は部下に命じる。
「次は商船じゃない」
部下が問う。
「何を?」
ラグナーの目が光る。
「世界基準船を拿捕しろ」
海は静かだ。
だが水面下で。
信用と暴力の戦争が始まっていた。
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