第65話「王の選択」
皇宮の扉が破られる。
甲冑の音。
剣の閃き。
貴族派の武装集団がなだれ込む。
「皇子を捕えよ!」
恐怖を取り戻すための反乱。
アレクシスは静かに剣を構える。
包帯の下の傷が疼く。
だが退かない。
「退け」
短い一言。
兵が衝突する。
剣が交差し、火花が散る。
帝国は恐怖で築かれた。
だが今、その恐怖が帝国を裂く。
「殿下、奥へ!」
護衛が叫ぶ。
「退かぬ」
アレクシスは一歩前へ出る。
反乱の先頭に立つ老貴族と視線が合う。
「帝国は弱くなった」
老貴族が吐き捨てる。
「恐怖を緩めた結果だ」
アレクシスは答える。
「違う」
剣がぶつかる。
「恐怖を独占したからだ」
刃が交差する。
「恐怖は道具だ」
「帝国そのものではない」
押し返す。
老貴族が叫ぶ。
「民は導かれる存在だ!」
アレクシスは低く言う。
「ならば私は、導く」
力がこもる。
剣が弾かれ、老貴族が膝をつく。
兵が制圧する。
反乱は短時間で鎮圧される。
だが血は流れた。
皇宮の床に、赤が広がる。
静寂。
アレクシスは息を整える。
そしてゆっくりと剣を下ろす。
「宣言する」
声は静かだが、強い。
「私は帝国皇帝アレクシス一世として即位する」
その場にいる全員が跪く。
「帝国は恐怖を捨てない」
ざわめき。
「だが恐怖を独占しない」
「透明化を進める」
「世界基準暫定合意を履行する」
反乱を鎮圧した直後の宣言。
それは覚悟だった。
旗艦。
ヴェルドは報を受け、目を閉じる。
「……お見事」
副官が問う。
「貴族派は?」
「処刑は最小限に」
ヴェルドは小さく笑う。
「殿下は、恐怖を道具に戻した」
会議場。
レオンの元にも知らせが届く。
「即位宣言」
カイナが笑う。
「若い王は派手だね」
セラフィナは静かに言う。
「血は流れた」
レオンは海を見る。
「だが内戦にはならなかった」
帝国は割れなかった。
恐怖に戻らなかった。
だが完全に信用へも傾かなかった。
新皇帝は、二つを抱えた。
夜。
帝都の塔に、新たな旗が掲げられる。
黒と銀。
アレクシスは城壁から帝都を見下ろす。
炎は消えた。
だが火種は残る。
「帝国は変わる」
小さく呟く。
「恐怖の先へ」
世界基準会議は続く。
四つの秩序は並んだ。
そして今。
帝国の王が選ばれた。
戦争は終わっていない。
だが文明は、一歩進んだ。
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