第64話「崩れゆく冠」
世界基準暫定合意から三日。
帝都は、奇妙な静寂に包まれていた。
暴動は収まり、
市場は再開し、
兵は通常配置に戻った。
だが空気は違う。
透明化。
その言葉が帝国内を揺らしている。
「なぜ我らの契約を公開するのだ」
大商会の長が叫ぶ。
「帝国の威厳はどこへ行った」
貴族派の密会。
怒りは、消えていない。
そして。
皇宮の奥。
皇帝レオニスは、長椅子に横たわっていた。
呼吸は浅い。
医師が首を振る。
「……長くは」
側に立つアレクシス。
静かに父を見る。
「帝国は、変わる」
皇帝はかすれた声で言う。
「恐怖で築き」
「恐怖で守った」
「だが……」
咳。
血が布に滲む。
「次は、お前の時代だ」
アレクシスは言葉を失う。
皇帝は最後に、低く笑った。
「恐怖を捨てるな」
「だが独占するな」
それが遺言だった。
その夜。
鐘が鳴る。
重く、低く。
――皇帝崩御。
帝都が凍る。
帝国は、頂点を失った。
旗艦。
ヴェルドが報を受ける。
一瞬、目を閉じる。
「始まりましたね」
副官が震える声で言う。
「継承宣言を」
「急げ」
だが同時に。
貴族派が動く。
「皇子は弱い」
「帝国は恐怖に戻るべきだ」
武装集団が動き出す。
皇宮周辺に兵が集まる。
内乱寸前。
会議場にも急報が届く。
エリスの顔が青ざめる。
「皇帝崩御」
レオンは静かに目を閉じる。
「世界は待たない」
カイナが低く言う。
「帝国が割れれば、航路は荒れる」
セラフィナは祈る。
だが祈りでは止まらない。
帝都。
アレクシスは皇帝の遺体の前に立つ。
涙はない。
だが覚悟はある。
扉の向こうで剣の音がする。
「殿下!」
護衛が叫ぶ。
「貴族派が蜂起!」
アレクシスは剣を抜く。
包帯の下の傷が疼く。
「帝国は、戻らない」
静かな宣言。
その瞬間、扉が破られる。
帝国は今、
恐怖へ戻るか。
並立の世界へ進むか。
崩れゆく冠の下で、
未来が選ばれようとしていた。
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