第62話「皇帝の影」
帝都・皇宮最奥。
厚い扉が静かに開く。
暗い室内。
香の匂い。
巨大な窓の前に、一人の老人が立っていた。
皇帝レオニス・ゼルディア。
病に伏せていると噂されていた。
だがその背は、まだ折れていない。
「……面白い」
低い声。
報告書を閉じる。
皇子暗殺未遂。
暴動。
改革宣言。
貴族派の謀議。
すべて知っている。
扉の前に跪くヴェルド。
「陛下」
「アレクシスは動いたな」
「はい」
皇帝はゆっくり振り返る。
鋭い眼光。
「恐怖は帝国を作った」
「だが恐怖は、私の時代の道具だ」
ヴェルドの目がわずかに揺れる。
「陛下は」
「老いた」
淡々とした言葉。
「時代は変わる」
沈黙。
「貴族派が動いている」
「知っている」
「止めるか?」
皇帝は窓の外を見る。
帝都。
煙の跡。
広場。
「止めぬ」
ヴェルドがわずかに息を呑む。
「割らせる」
静かな宣言。
「恐怖を求める者と」
「未来を求める者を」
帝国は巨大だ。
だが一枚岩ではない。
「陛下は、殿下を」
「試す」
短い言葉。
「帝国を継ぐに値するか」
その頃。
会議場に、帝国の勅使が現れる。
「皇帝陛下より」
文書が差し出される。
レオンが開く。
そこには、ただ一文。
――帝国は世界基準会議の決定を尊重する。
空気が止まる。
ヴェルドすら知らなかった。
カイナが低く笑う。
「王様、賭けに出たね」
セラフィナは目を閉じる。
神の秩序。
恐怖の秩序。
信用の秩序。
流動の秩序。
そして今。
皇帝自らが、議論を認めた。
帝国内。
貴族派は動揺する。
「陛下が?」
「世界基準を認めるだと?」
均衡が崩れる。
アレクシスは報を聞き、
静かに目を閉じる。
「……父上」
恐怖の帝国を築いた皇帝が、
恐怖の独占を手放した。
これは革命に等しい。
レオンは円卓を見渡す。
「世界は、変わる」
風が吹く。
四旗が揺れる。
帝国は割れた。
だが同時に、
一段高い舞台へ上がった。
世界基準会議は、
単なる会議ではなくなった。
文明の再設計。
そして今。
頂点が、動いた。
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